1-2改 オッサン、ギャルのご褒美に即落ちする

「だああああああああああああッッ!?」


 って、なにごと!?


 元いた方向へ慌てて振り返る。絶叫の主は先ほど別れたばかりの美人ギャルだった。スマホ片手にあたふたしている。


んだけどっ!?」


 ない?


 ギャルは足元をクルリと見回したあと誰かを探すように辺りをキョロキョロし始める。


「あああああ!! いたああああ!!」


「え?」


 おかしいな? 今、俺と目が合ったような?


「ちょっと!! オッサン!!」


 オッサン……? え? もしかして俺のこと?


 息巻くギャルが大股で近づいてくる。


「な、なにっ!?」


 身構える俺の目の前までやって来たギャルは大きな瞳に涙を浮かべて俺に訴えかけてくる。


んだけど!!」


「ないって何が!?」


「だから!!」


 ギャルはスマホの裏側を俺の目の前に持ってくる。


「ストラップのが!! いっこ!! 無いんだけど!!」


「…………え?」


「一緒に探して!!」


「さ、探す?」


「そお!! さーがーしーてー!!」


「え?」


「もお!! オッサン、こっち来て!!」


「あっ、ちょっと!?」


 半袖同士で腕を組まれる。ギャルの白肌がしっとりスベスベで気持ちいい〜……って、違う!


「どこ行くんですかっ!?」


 そのまま俺はあれよあれよという間に駅前広場の端の方まで連れて行かれる。


「オッサンはここからそっち探して! あーしはこっち!」


「え?」


 初対面のギャルに指示される。


「はい、よーいドン!!」


「いや、よーいドンって……。そもそも何を無くしたんですか?」


「だから、これ!!」


 ギャルが指差したのはスマホの裏側のハンドストラップだった。1円玉ほどの星の飾りがいくつか輝いている。


「星が1個無いから探して!!」


「えっ……」


 俺は絶句して駅前の雑踏へ目を向ける。


 嘘だろ……?


 すでに帰宅ラッシュ真っ只中の状態で、いつどこで落としたかも分からない小さな星の飾りを探せと……?


「む、無理ですって!? そもそも俺、一緒に探すなんてひと言も……」


「見つけてくれたらしてあげる!!」


「え? ほっぺにチュウ?」


「そお。あ、口はダメだよ? あーし彼氏いるから」


「……」


 おいおい。大の大人がほっぺにチュウごときで、そんな無理難題を引き受けるわけ――


「わかりました!! 必ず見つけ出しましょう!!」


 即落ちである。女子高生のチューのご褒美に即落ちである。


「なにそれ!! オッサン、急にノリノリじゃん!!」


 ギャルが大爆笑する。


「そんなことありませんよぉ?」


 まだ探し出してもいないのに、ニヤニヤが止まらないなあ。さーて! ちゃちゃっと見つけて、ご褒美のチュウ、もらっちゃいますかね!


「じゃあ、俺はあっちの方を――」


「おい」


「はい? どうかしまし……」


 おや? なぜかギャルがガンを飛ばしてきている。


「えーっと……?」


 俺のほっぺにチューしてくれる(予定)の元気いっぱいな美人ギャルはいずこへ?


「おい、オッサン……」


「は……はい……」


 思わずたじろぐ俺に対して怖い顔したギャルが詰め寄ってくる。


「ニヤニヤしてないで真面目に探せよ? な?」


「……」

 

 ヤンキーかな?


「返事は?」


「あ、はい……頑張りまーす……」


 こうして俺は偶然出会った美人女子高生――ときにヤンキーの一面が顔を出すギャル――のために小さな失くし物の捜索を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る