1-2 オッサン、ギャルのご褒美に即落ちする

「だあああああああああああ――ッッ!?」


 夕方の駅前にギャルの絶叫が響き渡る。


 ――なにごと!?


 彼女の視線の先。天高く掲げた両手には、ついさっき届けたばかりのスマホが握られていた。


んだけどっ!?」


 おかしいな? 壊れたようには見えなかったけど……?


 慌てふためくギャルは足元をクルリと見回したあと、誰かを探すようにキョロキョロし始めた。そして――


「ああああッ!! いたああああッ!!」


 俺とバッチリ目が合った。


「え?」


「ちょっと!! !!」


 オッサン……? って、もしかして、俺のこと……!?


 息巻くギャルが大股でズンズンと近づいてくる。


 えっ!? なにっ!?


 身構える俺の目の前までやって来たギャルは、大きな瞳に涙を浮かべて訴えてくる。


んだけど!!」


「ないって、何が!?」


「だから!!」


 ギャルはスマホの裏側を俺の目の前にこれでもかと突きつけてくる。


「見てこれ!! ストラップのが!! いっこ!! 無いんだけど!!」


「…………え?」


「一緒に探して!!」


「さ、探す……?」


「そお!! さーがーしーてー!!」


「何を……?」


「もおー!! オッサン、こっち来て!!」


「あっ、ちょっと!?」


 痺れを切らしたギャルに手首を掴まれ、そのまま強制連行される。


「あのっ!?」


 彼女に手を引かれて辿り着いたのは、駅前広場の端っこのあたりだった。彼女は広場の一角を指差す。


「オッサンはここからそっち探して! あーしはこっち!」


「え?」


 5分ほど前に会ったばかりの年下ギャルに指示される。


「はい、よーいドン!!」


「いや、よーいドンって……そもそも何をなくしたんですか?」


「だから、これだって!!」


 苛立ちを滲ませたギャルが指差したのは、スマホの裏側に取り付けられたハンドストラップだった。1円玉ほどの星の飾りがいくつか輝いている。


「星が1個なくなったから探して!!」


「えっ――」


 俺は絶句する。そして、駅前の雑踏へ目を向ける。


 嘘……だろ……?


 すでに帰宅ラッシュ真っ只中の状態で、いつ、どこで落としたかも分からない小さな星の飾りを探せと……!?


「――無理ですって!?」


「そんなことないし! 2人で探せばよゆーだし!」


「っていうか、そもそも俺、一緒に探すなんてひと言も……」


「見つけてくれたらしてあげる!!」


「……えっ?」


 今、ほっぺにチュウって言った?


「あ、口はダメだよー? あーし、彼氏いるからー」


「いや、ほっぺって……」


 舐められては困る。大の大人がほっぺにチュウごときで、そんな難題を引き受けるわけ――


「わかりました!! 必ず見つけ出しましょう!!」


 ――即落ちである。


 27歳、独身会社員の俺、女子高生のチューのご褒美目当てにあっさり陥落だ。


「オッサン、ウケるー!! 急にノリノリじゃん!!」


 ギャルが大爆笑する。


「そんなことありませんよぉ〜?」


 まだ見つけてもいないのに、すでにニヤニヤが止まらない。


 さーてとっ! ちゃちゃっと見つけて、ご褒美のチュウ……もらっちゃいますかね!


「ルンっ、ルル〜ンっ。じゃあ、俺はあっちの方を――」


「……おい」


「はい? どうかしまし……」


 声に振り返ると、先ほどまでノリノリのニコニコだったギャルが眉間にシワを寄せ、何か言いたげに俺を睨みつけていた。


「えーっと……」


 俺……何かしたっけ……?


「おい、オッサン……」


「はい……何でしょう?」


 思わずたじろぐ俺の目の前まで一歩ずつ詰め寄ってきた彼女は凄みを利かせる。


「ニヤニヤしてないで真面目に探せよ? なあ?」


「……」

 

 ヤンキーかな?


「返事は?」


「あ、はい……ガンバリマース……」


 こうして俺は、偶然出会った美人女子高生――時おりヤンキーの片鱗をのぞかせるギャル――のために、小さな失くし物の大捜索に乗り出すのだった。

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