3-14 超イケメンで超カッコいい彼氏

 女性グループの接客を終えたサキュバスコス姿のミサキさんが興奮した様子でこちらへ駆けて来る。


「ふふっ、あんまり走っちゃ危ないです――」


「オッサン、チュウウウウウ〜♡」


「え?」


 唇をこれでもかと突き出し、飛びかかる勢いで抱きつこうとしてきたミサキさんの体を慌てて受け止める。


「んもお〜♡ 恥ずかしがんなくてもいいじゃ〜ん♡」


「周りを見てください」


「およ?」


「「「「おおおおおお――ッ!!」」」」


 リサさんとサイズ違いの小悪魔風ミニスカワンピース姿の白ギャルの登場に、教室前の待機列から歓声が上がる。


「わかりましたか? これだけ人がいる前でイチャイチャできません」


「ああ」


 分かってくれたらしい。ミサキさんの『好き好き大好きモード』にも困ったもんだ。


「んもお〜♡ 人気のない場所でイチャイチャしたいとか、オッサン、相変わらずドスケベだな!」


「え?」


「しょ〜がないな〜♡ オッサンのために、あとで『秘密の場所』に連れてってやるぞ♡」


「秘密の場所?」


 というか、いつの間にか俺の方がイチャイチャしたいことになってないか? いや、まあちょっとぐらいはしたいけども。


「じゃあ、ちょっと待っててね! 休憩までもうちょっと頑張ってくっから!」


「あ、はい。ここで応援してまーす」


 嵐のように現れたミサキさんは嵐のように去って行った。俺の彼女は相変わらずパワフルだ。


 俺とミサキさんのやり取りを見ていた行列の男たちがザワついているが、もういちいち気にしないことにしている。普通に会話をしていただけだし。ただこれだけは言わせてくれ。


 俺は『冴えない親戚のお兄さん』じゃない。


「雨宮さんもミサキさんと一緒に休憩に行ってきてください」


 鷹上さんがリサさんに声を掛ける。


「え? いいの? 私、お兄さんを救出するためにちょっと抜けちゃった時間があるけど?」


「構いませんよ。事情が事情ですから。会長絡みだと分かればクラスの皆さんも納得してくれます」


 言い切った。あの金髪オールバック、校内じゃ相当な有名人みたいだ。もちろん、悪い意味で。


「じゃあ、お言葉に甘えて〜」


 クイクイ


 マリアさんが鷹上さんの袖を引っ張る。


「ねえ、サーちゃん? 私も休憩行っていい? これじゃあ、お仕事できない気がする」


 ジャラジャラ


 マリアさんは俺と手錠で繋がれた左手を見せる。


「お腹空いたわけじゃないよ? 違うよ?」


 あ、この子、お腹が空いてるだけだな。


「そうですね……」


 鷹上さんは少し考える素振りを見せたあと、手提げ袋から取り出した紙にペンを走らせる。


「これでよし」


 鷹上さんは手書きの紙をマリアさんの背中に貼り付ける。


「では、マリアさんには『宣伝隊長』をお願いしましょうか。雨宮さん達との休憩が終わったら、名雲さんと一緒に校内を練り歩いて店の宣伝をしてください」


「わかった。せんでんたいちょう、がんばる」


 ヘソ出しポリスシャツの背中に貼り付けられた紙には『ハロウィンコスプレ喫茶 2F多目的ルームにて営業中❤︎』と書かれていた。即席にしては、これ以上ない人選と言える。


「名雲さんにはマリアさんのお世話係……おほん。サポートをしていただく形になってしまいますが、よろしいですか?」


「ええ、まあ」


 どのみちアヤネさんが来るまではひとりでブラブラするつもりだったから別に構わない。どのみち今はこの子と離れられないし。


 話がひと段落したと思ったら、部屋の中から慌ただしい足音が聞こえてくる。


「ねえ、オッサン!!」


 ミサキさんだった。


「どうかしましたか?」


「オムライス食べるでしょ? 白色か赤色、どっちがいーい?」


 慌てて戻って来たから何事かと思ったら、ソースの種類を聞きたかっただけみたいだ。


「えーっと、じゃあ、赤色で」


「りょーかい! もうちょっと待っててね! な彼氏のために、萌え萌えオムライス作ってくっから!」


「あっ、ミサキだけズルーい! 私も彼氏のためにハートのオムライス作りたーい!」


 ホワッツっ――!?


 あまりにもひいき目すぎる発言に笑顔を引きつらせる俺を残して、仲良しサキュバス姉妹ははしゃぎながら教室の奥へと向かって行った。


「……」


「ぷっふふふっ……」


 鷹上さんが口元を手の平で覆って必死に笑いを堪えている。くそう……。


「では、私もこれで失礼します。四葉さんのサポート、しっかりお願いしますね」


 回れ右して教室に入って行こうとする鷹上さんの背中に向かって声を掛ける。


「あ、鷹上さん! 手錠の鍵を探しておいてくださいね……って、行っちゃったよ……」


 今日一日中このままってことはないよな……?


「どうかしたの?」


 右手に繋がれた手錠を見ていたらマリアさんが声を掛けてくる。


「ああ、いえ。とりあえず、ミサキさん達が戻ってくるまで、軽く声掛けでもしておきましょうか? 俺たち宣伝係に任命されましたし」


「わかった」


 ミニスカポリスな宣伝隊長と共に店の前で接客を始める。


「い、いらっしゃいませ〜」


「このクラス、も接客してるじゃん。すげー」


「あはっ……」


 超イケメンで超カッコいいギャルの彼氏だよ!!

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