3-13 際どいコスプレもOKな自由すぎる学校

「えっ!? あんな格好の子が接客してくれるの!?」

「やばっ!?」


 先頭を行くサキュバス妹ギャルの到着に気づいた数人の男を発端に教室前の行列が一気に騒がしくなる。


「しかも超可愛いし!? やばっ!?」


 小悪魔風ミニスカワンピース姿のリサさんの登場に客の男たちは興奮を隠し切れない様子である。


「ほら、雨宮さん、みなさんに笑顔笑顔」


「えっ、あっ。い、いらっしゃいませぇぇ〜。あははは……」


 少々ぎこちない笑顔でお客様をおもてなしするリサさんと彼女の背中を押す鷹上さんに続いて、教室の前扉へと向かう。


「後ろにいる警官コスの子もヤバっ。めっちゃ揺れてるし。ここのハロウィン喫茶、最高じゃん」


 ショート丈のポリスシャツに包まれた豊満すぎるオッパイが歩くだけでポヨンポヨンと揺れてしまうマリアさんも、もちろん注目の的である。


「わぁ、たくさん並んでくれてる」


 ただ、マリアさん本人が男たちの視線を気にする様子はない。少々無防備がすぎる気もするが……


「どうかしたの?」


「ああ、いえ。喫茶店、大人気ですね」


「うん、嬉しい」


「ふふっ」


 このマイペースな感じがこの子の素敵な個性だ。


 恥じらう気持ちもそのうち芽生えるだろうし、それまでは周りが気にかけてあげればいい。ミサキさんやリサさんがそうしているように。


 俺もこの子のためにできる限りのことはしてあげたい。とりあえず、体目当ての最低野郎が近寄ってこないようにしなきゃな。


「あの子と付き合ったら、あの爆乳揉み放題ってことだろ? ヤバすぎっ!」

「なあなあ、あとで彼氏いるか聞いてみようぜ!」


「うッ、うんッ!」


 俺はわざとらしく咳払いしてから、列に並ぶ制服男子2人組を軽く睨みつける。


「うわっ、やべっ!?」


 マリアさんの恵体を狙う2人組は慌てて俯いた。


「ったく……」


 俺は鼻の下をだらしなく伸ばすスケベ野郎どもを軽く牽制しつつ廊下を進んで行き、リサさん、鷹上さん、マリアさんと共に教室の前扉へ到着する。


「へぇ。お店の名前はシンプルなんですね」


 扉の上には『2-C ハロウィンコスプレ喫茶』と書かれた看板が貼り付けてあり、看板とドア枠がハート型のピンク風船で縁取られている。


 扉前にはクラスTシャツを着た男子生徒が2人待機しており、1人はメニュー表らしき物を先頭の客に見せていた。もう片方の男子生徒が俺たち4人に気づいて深々とお辞儀する。


あねさん、お帰りなさいませ!」


 ん? 姐さん……?


「ただいま戻りました」


 鷹上さんはそれがさも当然のように挨拶を返した。えーっと……? キミ達、同級生だよね?


「ん? ああ」


 不思議がる俺の様子に気づいた鷹上さんが説明してくれる。


「私、副会長の他に『クラス委員』もしてるんです」


「へ、へえ……」


 このクラスでは学級委員のことを『姐さん』と呼んでいるらしい。俺の高校時代とは何もかも違うなぁ。さすが令和。


「お店は順調そうですね」


「はい。今のところ特に問題はありません」


 教室の中を軽く覗いてみる。


 全体的にピンクを基調としたガーリーな雰囲気の店内で、ナース服や魔女のコスプレ(いずれもミニスカ)をした女の子たちが普通に接客をしているだけのように見える。


 衣装は少々際どいが、至極健全な『コンカフェ』って感じだ。


「ん? なんだあれ……?」


 部屋の四隅にスーツ姿の屈強な男が4人いた。黒色のサングラスを掛けており、直立不動の姿勢で店内を見渡している。ビジュアルが完全に某テレビ番組の『ハンター』だ。


「ん? ああ」


 鷹上さんが呆気に取られる俺に気づいて解説してくれる。


「彼らは店内の治安を守る『セキュリティ』です。校内の男子生徒から選りすぐりをスカウトしました。クラスのみなさんが安心して働ける環境作りを、と思いまして」


「へ、へぇ……」


 ガーリーな店内の雰囲気とはあまりにもミスマッチなイカつい見た目をしていることには触れないでおこう。令和の高校ってすごいなー(棒読み)。


「けど、あんな際どい格好、クラスの女の子たちがよく納得してくれましたね?」


「私たちのクラス、んです」


「え? ノリで?」


 恥ずかしがり屋のリサさんも? と疑問に思いながら彼女に目を向けると、リサさんは顔を真っ赤にして否定する。


「わ、私はもっと露出の少ない格好がいいって言ったんですよ!? けど、ミサキがどうしてもって言うから」


「ああ」


 ミサキさんお得意の『お願い攻撃』にやられたんだな。納得。ちなみに、きちんと学校の許可も得ているらしい。


「私たちの学校、自由な校風なので」


 自由すぎない? さすが令和の学校。


「あとはそうですね。校長先生と軽く取引……ではなく、提案したんです。学校の志願者を確保できると。例えばほら、あそこのテーブルを見てください」


 指された廊下側のテーブルを確認すると、中学生らしき4人組の制服男子がコスプレ姿の女の子たちの働く姿を見ながら恍惚の表情を浮かべていた。


「ハァハァ……。オレ、来年この高校受験しよっかなぁ〜」

「オレもぉ〜」


「……」


 うん。もう何も言うまい。


「にしても、混んでますね……」


 階段まで続く行列が減る気配はない。忙しい時間帯に並ぶのは少々気が引ける。


「お兄さん、どうかしましたか?」


「ああ、いや。少し時間を置いてから並ぼうかなと思って。先に『手錠の鍵』を生徒会室へ探しに行ってもいいですし」


 早めに外してあげないとマリアさんも迷惑だろうし。


「いけませんよ、名雲さん」


「ん?」


 なぜか鷹上さんに注意される。


「今日は1日マリアさんのをしていただ……おほん。生徒会室にはまだ会長がいるかもしれないので危険です」


 ん? 今、おりって言った?


(を逃がすわけにはいきません……)


 ん? 今度はお世話係って言った?


 小さい声でお世話係と言ったような気がする鷹上さんが教室の中へ向かって呼びかける。


「月城さーん! 名雲さんがお見えですよー!」


「えっ!? オッサンが!?」


 女性3人グループのテーブルで写真撮影に応じていたミサキさんが勢いよく振り返ったので軽く手を振ってみる。


「やばっ!! いつの間にかオッサンが来てんだけど!!」


 嬉しくて堪らないといった様子のミサキさんはテーブルの女性たちに「あれ、あーしの旦那ぁー」と軽くノロケ話をして接客を終えると、こちらへ向かって小走りで駆けて来るのだった。

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