3-11 聖女マリア様

3-11 聖女マリア様

 リサさんの会心の一撃「オチンチンの味知ってる」をまともに食らって、泡吹いてぶっ倒れてしまった『妹大好きクラブ』の面々をその場に残して、俺たちは生徒会室をあとにした。


 事実とは言え、少々残酷だったかもしれないな――と思いつつ、リサさん、マリアさん、副会長の鷹上さんと共に文化祭のメイン会場である教室棟へと向かう。


「ねえ、リーちゃん?」


「ん? どーしたの? マリアちゃん?」


って食べられないよ?」


 おや?


「食べるんじゃなくて、舐めるんだよ! マリアちゃん!」


「舐めるんだぁ」


 おやおや?


「こんな風に優しく握ってね! 棒のアイスみたいにペロペロってするんだよ! あと、お口で咥えたりもするかな!」


「そうなんだぁ」


 リサさんがマリアさんに身振り手振りで『フェラ』のレクチャーを始める。出会った頃はエロトークで赤面していた俺の妹も成長したなぁー。


 公の場でしていい会話じゃないけど。まあ、周りに人がいるわけでもないし、ちょっとぐらい、いいか。


「ねえ、リーちゃん。おちんちんって、どんな味がするの?」


「んー? 改めてそう聞かれると、味ってあんまりしないかも。洗いたてだと石けんの匂いがするくらいかな。……あっ、けどね! 舐めてるうちに先っぽからピュッピュッて白いクリームが出てくるんだけどね! それがちょっぴり苦い『大人の味』って感じがするかな!」


「そうなんだぁ。私も舐めてみたい」


「興味津々だね! けど、マリアちゃんにはまだ早いかな!」


「どうして?」


「先に好きな人を作らないと! 舐めていいのは好きな人のオチンチンだけだからね! 他の人のオチンチンは舐めちゃダメだよ! 私との約束!」


「わかった」


「マリアちゃんにも早く好きな人ができるといいねー。あ、好きな人ができたらすぐ教えてね! 私たち全力で応援するから!」


「わかった」


 マリアさん、美人でスタイルがいいのに彼氏いないんだな。まあ、この子と付き合ったらちょっと大変そうだもんな。食事のお世話とか……食事のお世話とか……食事のお世話とか……


「――やめておいた方がいいですよ?」


「え?」


 隣を歩く鷹上さんが視線をスマホへ向けたまま声をかけてくる。


「えーっと……? 何の話ですか?」


「四葉さんを――とお考えなら、やめておいた方がいいと忠告したんです」


「は? 4人目……?」


「四葉さんはクラスの男子から『神聖な存在』として崇められています。は何人たりとも侵せない――とかなんとか」


「せ、聖女……?」


 異世界ファンタジーかな?


「あなたがもし月城さんと雨宮さんだけでなく、四葉さんの口にもとしているなら、クラスの男子全員が敵に――」


「いや、しませんって……」


 鷹上さんは真顔で俺の顔をしばし見つめてから、


「そうですか」


 とだけ言ってメガネの位置を正した。俺、この子にどんなヤツだと思われてるのだろう?


「そ、そういえばっ」


 俺は愛想笑いを浮かべて話題を変える。


「俺が生徒会室に監禁されてるって、よく分かりましたね?」


「ああ、ですよ」


 鷹上さんがスマホの画面を見せてきた。


「これは?」


 ラジオの操作画面のように見えなくもない。


「校内に仕掛けてあるのチャンネル一覧です」


「……は?」


「これで生徒会室を盗聴していたので名雲さんとマリアさんがピンチだということが分かったんです」


「……え?」


 何言ってるんだ、この子は?


「聞いてみますか? ちょうど会長たちが会話してますよ?」


「あ、じゃあ」


 イヤホンの片側を耳にはめてみる。


『リサくんの聖域はまだ破られていないはずだ! 我々で何としてもリサくんの純潔を守るぞ! いいかお前たち! おおー!!』


「おめでたい連中ですね。一人暮らしの男性とお付き合いしているのですから、もうヤリまくりのハメまくりに決まって――」

 

「鷹上さん?」


「ああ、すみません」


 鷹上さんは静かにメガネの位置を正した。


 にしても、この子マジで盗聴してるじゃん……。際どすぎるコスプレといい、俺の高校時代とは何もかも違う。さすが令和。


「けどまあ、安心しました」


「え? 何がですか?」


「会長が雨宮さんのことを諦めてなくて」


「え?」


「だって、そっちの方がじゃないですか」


 盗聴しちゃってる系副会長は真顔でそう答えた。


「……」


 コイツ、他人事だと思って楽しんでやがる!!


「もおー。変なこと言わないでよねー、サヤちゃん」


 振り返ったリサさんが可愛らしく頬を膨らませる。


「私はすっごく迷惑してるんだからー」


「もうこの際、会長たちのことを『従順な下僕』としてコキ使えばいいじゃないですか? 雨宮さんが『お兄ちゃん♡』と可愛らしく擦り寄れば、何でも言うことを聞いてくれると思いますよ?」


「そそ、そんなことしないから!?」


 顔を赤くしながら言い返したリサさんがトコトコと駆け寄って来て、俺の腕をギュッと掴む。


「わっ、私にとって『お兄ちゃん』はここにいるお兄さん、ただ一人だからね。いっ、今までもこれからも……」


 リサさんは俯き加減でそう答えた。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。


「雨宮さんは名雲さんのことが大好きなんですね?」


「えへへ〜、バレちゃったぁ〜」


 リサさんは幸せそうな笑顔を浮かべるのだった。めでたしめでた――

 

 ギュッ


「ん?」


 いい感じに話が終わったと思ったのも束の間、反対側の腕を掴まれる。


「私も『お兄ちゃん』って呼びたい」


「え?」


 第2ボタンまで開いたポリスシャツからこぼれ落ちそうな豊満バストがおねだりしてくる。


「呼びたい」


「え?」


 急にどうした? たわわん聖女様?

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