コスプレが際どすぎる高校文化祭

3-7 オッサン、謎の集団に拉致られる

 9月21日土曜日午前10時。ミサキさんとリサさんの高校の文化祭当日。自宅の洗面台の前で身だしなみを念入りにチェックする。


 ミサキさん達と付き合うようになってから顔のお手入れを始めたし、睡眠もバッチリ取ったので肌の調子はすこぶるいい。散髪もしたばかりで顔まわりは完璧と言える。


「フッ……」


 ミサキさん達のクラスメイトと顔を合わせるのだ。可愛い彼女に恥をかかせるわけにはいかない。ま、できる彼氏として当然だよなあ?


「さて、行くか」


 身支度を済ませて玄関を出る。にしても暑い……。


 9月も後半に入ったが、まだまだ夏日が続いている。服装はチノパンにゆったりめの半袖シャツにした。マンションを出て、ひとり高校へと向かう。


 当初はアヤネさんと行くつもりでいたのだが、


「ごめん、土曜日は中学の同級生の文化祭にも行かなきゃなんだよね。ミサキたちの高校に行くのは午後からになると思う」


 とのことだった。


 アヤネさんが来る時間に合わせて一緒に行っても良かったのだけれど、先にひとりでブラブラと文化祭を楽しむことにした。


 高校時代はまったくと言っていいほど関心のなかった展示も今はわりと興味があったりする。あとはそうだなー。適当に優越感にでも浸るとしよう。


 ハロウィン喫茶を訪れたモブたちが、俺にベタ惚れな2人のギャルを無謀にも口説こうとする姿を眺めながら優雅にコーヒータイムだ。


 俺の彼女をちょっとぐらいエロい目で見ても、今日ぐらいは許してやるぞ。年に一度のお祭りだから特別サービスだ。せいぜい楽しめよ。その他大勢のども。


「フッ……」


 と、イケメン風に脳内マウントを取っていたら、すでに校門が目の前に迫っていた。


 校門の上には華やかな看板が掛かっており、正面に見える校舎の前には屋台がズラリと並んでいる。祭りなんて久しぶりだから、ちょっとワクワクしてきた。……っと、いかんいかん。


 今日の俺は『クールで大人な素敵彼氏』だ。この程度でテンションは上がらない。緩みそうになった顔を今一度引き締めてから受付のテントへ向かう。


「チケットと身分証はお持ちでしょうか?」


「ええ」


 俺は優雅に頷いてから、英国紳士ばりのスマートな動作で財布からチケットと免許証を取り出し、男子生徒へ渡す。


「お願いしまっす」


 フッ……完璧。美人すぎる恋人たちに引けを取らないイケメン紳士な振る舞い。


「お預かりしま――こ、これは……!?」


 受付の男子生徒も俺の華麗な姿に驚きを隠せな……って、なんで俺のチケットを見ながら驚いてるんだ?


「おい、この名前……」

「ああ、間違いない……」


 数人の男子が俺のチケットを確認し合ってる。え? なんで? 正規品だよ?


 男子生徒のひとりが俺に背を向けてイヤホンタイプのインカムを使って誰かと話し始める。


「月城ミサキ名義のチケットを手にした男が現れました。年齢、見た目ともに情報と一致します。……はい。……はい。では、に……」


 何をコソコソ話しているのだろう?


「あの? チケットに何か不備でもありましたか?」


 男子生徒は肩をビクッとさせてから振り返る。


「いっ、いえぇぇ。何も問題ありませんよぉぉ?」


 めっちゃ目が泳いでるんだが?


「でっ、ではっ、こちらへどうぞぉぉ?」


「え?」


 男子生徒が示しているのはメイン会場っぽい賑やかな校舎……ではなく、向かいにあるひっそりとした校舎だった。


「そっちなんですか?」


「あっ、あなたは『特別なお客様』ですのでぇぇ……はははっ」


「はぁ……?」


 なんだかよく分からないが、若干挙動不審に見える男子生徒2人に連れられて静かな方の校舎へ入る。人気がまったくない。


 階段で2階へ上がり、さらに廊下を半分ほど歩いたところで、後ろから微かに「カラカラ」と車輪が転がるような音が聞こえ始める。


 ん? なんだ?


 カラカラ音が徐々に近づいてくる気がしたので振り返ってみる。


「おや?」


 5メートルほど後ろに、いつの間にか別の男子生徒2人がいた。音を立てないように『車輪付きオフィスチェア』を押しながらゆっくりと近づいて来ている。


「まずい、バレた!?」


 え? なにが?


「うおおおおおおおお――――ッ!!」


 俺と目が合った瞬間、オフィスチェアを押す男子生徒2人組がこちらへ向かって走り出す。


「なにごとっ!?」


 慌てて避けようとするが、案内係の2人に腕と肩を掴まれて身動きが取れなくなる。


「はっ!? なんで!?」


「今だあああああああ――――ッ!!」


「えっ、何!? おぐっ!?」


 オフィスチェアに勢いよく膝カックンされ、そのまま椅子に座る形になる。


「確保おおおおおお――――ッ!!」


 訳もわからぬまま呆気に取られている間に両手両足がガムテープでグルグル巻きにされ、気づいた時には体が椅子に固定されていた。


「よし、連行するぞ」

「了解」


「えっ、ちょっと!?」


 俺の体はオフィスチェアと一体化したまま廊下の突き当たりの部屋へと連れて行かれる。


「ここは……?」


 部屋札には『生徒会室』と書かれていた。男子生徒が扉をノックする。


、例の男を連れて参りました」


『入れ』


 中から返事があり、ゆっくりと扉が開かれる。


「うわ、暗……」


 部屋の中は真っ暗だった。


 パチンッ


 中から指パッチン音が聞こえ、部屋の一番奥にスポットライトが当たる。こちらへ背を向けた社長椅子が現れた。


「よく来たな……」


 ライトアップされた社長椅子がクルリと回転し、姿を現したのは――


「フッ……待っていたぞ、名雲優希」


 指パッチンの右手を高々と掲げてキメ顔を決める金髪オールバックのイケメン男子生徒だった。


「……」


 ナニアレー?

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