2-3 オッサンの妻ですう〜♡

『いらっしゃいませ。ご注文をお伺いしますね?』


「あっ! あーし注文したい!」


 スピーカーの声にいち早く反応したのは後部座席のミサキさんだった。彼女は軽く咳払いしてから幸せオーラ全開の笑顔でスピーカーへ話しかける。


「今からオッサンのが注文しますうー♡ 現役JKの若妻ですうー♡」


 つつつ、妻!?


『……えっと……すみません、お客様……もう一度お願いできますか?』


「だーかーらー。あーし、オッサンの妻なんだってばー。超ラブラブの新妻女子高生♡」


 響きがエロい。


『あの……ご注文は?』


「今日はねぇー、オッサンにプレゼントしてもらった車の納車日だったんだぁー。帰りにマッグのドライブスルーに寄ってみようか、ってなってさぁー」


『はぁ……?』


 新妻ギャルが普通にお喋りを始めてしまった。なんてこったい。スピーカーの向こうにいるお姉さんの困惑顔が目に浮かぶ。


「あの、ミサキさん? そろそろ注文を……」


「あ〜ん。に急かされちゃったんだけどお〜」


 旦那!?


 ミサキさんは嬉しそうな困り顔でようやく注文をし始める。


「はぁ……」


 人前で妻とか旦那は勘弁してほしい。家でそう呼ぶ分には構わないけど、他人が見たら、女子高生に『夫婦ごっこ』させてる変なヤツだと思われかれない。


 スピーカー越しでホント助かったよ……。直接見られてたら今ごろ大惨事もあり得た。危ない危ない。



 ――5分後。ドライブスルーの受け取り口にて。


「あらどうもぉー。ウチのがいつもお世話になってますぅー、おほほほほほっ」


 主人!?


 見た目中学生のリサさんが口元に手を添えて若奥様風に商品を受け取ったもんだから、お姉さんの笑顔が固まってしまった。なんてこったい。


「お……奥様?? なんですか?? 随分とお若いですねー? はははは……」


 マッグのお姉さんは俺のことをチラリと見ながら苦笑い……というかドン引きしている!? 不安が現実に!?


「マッグのお姉さん! あーしもね、オッサンのなのー!」


 ミサキさん!?


「ええっ!? あなたもの!?」


 完全に誤解されている!?


「そお! これからあーし達、たまにドライブでスルーすると思うからさ。夫婦共々……せーの」


「よろしくお願いしますぅぅー」

「よろしくお願いしますぅぅー」


 2人の若奥様は照れくさそうに笑いながら仲良く会釈したのだった。


「――っ!?」


 お姉さんが完全に石化してしまった。


 ウィーン


 俺は無言で後部座席の窓を閉める。


「ああんっ。もうちょっとお姉さんとお話ししたかったのにぃぃ」


 こんなもん、強制終了だ!!


 動かなくなってしまったお姉さんへ向けて、軽く会釈した俺はアクセルを踏み込み、逃げるように国道沿いのマッグをあとにするのだった。


 しばらくあの店には行けないな……


 俺が溜め息をつく一方、ルームミラーに映る若奥様2人はご満悦な様子である。


「おほほほっ。超楽しかったですわね、リサさん」

「そうですわね、ミサキさん」


 言葉づかいがヘンテコで面白いが、人前で『奥様ギャル』は絶対にやめてもらわないと。


 俺はルームミラー越しに後部座席へ話しかける。


「2人とも? 出かけた先で妻や旦那って言うのは――」


「ねえ、オジさん?」


 助手席に座るアヤネさんが太ももへ手を乗せてくる。


「ん? どうかしましたか?」


「今度、私もやってみたい」


「アレ?」


「オジさんの妻ってやつ。いいよね?」


 アヤネさんはそう言って俺の太ももの内側を優しくさすり始める。


「いや、それは……」


「いいよね?」


 太ももがいやらしく撫でられる。


「しょ……しょーがないなぁぁぁぁ」


 まあ、いいや。この子たちのしたいようにさせよう。



「オッサン! 部屋に帰る前にドラッグストア寄りたい!」


「いいですけど、何を買うんですか?」


「オッサン家に置くシャンプー! 今日、このままするからー!」


「え?」


 お泊まり? 聞いてないんだが?

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