2-2 ギャルとお出かけするための車を購入
「あっ、オッサン、こっちこっち!」
俺の到着に気づいたミサキさんが手招きしてくる。
「車、これにしたから!」
店員のお姉さんへの挨拶もほどほどに商談テーブルに着いた俺に対して、ミサキさんが中古車リストのページを開いて見せてくる。
「え、これ?」
淡いピンク色の普通車だった。マジか!? 白とか黒の無難な色でもなければ軽でもなかった。マジか!?
「これだったらね、土曜に買えるんだって! 旅行にも乗っていけるんだって!」
「あ、はい……」
念願のマイカーはデザイン性や機能性を重視したものではなく『すぐに買えるヤツ』だった。ちょっと悲しい。
店員のお姉さんも苦笑いである。俺より少し年下に見えるお姉さんは地図の印刷された紙を手渡してくる。ちなみに、お姉さんはこの販売店の社長の娘さんらしい。
「お節介だったかもしれませんが、ご自宅周辺の駐車場の空きも調べておきました」
「それは助かります。何から何まですみません……」
俺が軽く頭を下げると、逆にお礼を言われてしまった。なんでもミサキさん達のおかげで、付き合って長い彼氏への逆プロポーズを決心できたそうだ。
「車選びは10分もしないうちに終わってしまったんです。そのあとはずっと『恋バナ』で盛り上がっちゃって……あっ、父には内緒ですよ?」
書類一式を入れた封筒を俺に手渡したお姉さんは人差し指を口に当てる。というか、俺史上最高額の商品選びは10分足らずでケリが着いてたらしい。なんともやるせない気持ちだ。
「大変だったんですよ? 彼氏のことを根掘り葉掘り聞かれて」
お姉さんは俺と並んで自動ドアを出て溜め息をつく。
「それは、その……すいません……」
3人のギャルから質問責めに遭うお姉さんの姿が容易に想像できた。
「けど、あんなに楽しくお喋りできたのは久しぶりでした。それもこれも名雲様が当店をお選びくださったおかげです」
「ああ、それなら……」
俺は先に歩道へ向かっていた夏服姿の3人娘へ目を向ける。
「あの子たちにお礼を言ってあげてください。お店を選んだのは彼女たちなので」
「あら、そうだったんですか。なら、あの3人が私にとっての恋のキューピットになるかもしれませんね?」
お姉さんは嬉しそうに微笑むとミサキさん達へ向かって大きく手を振る。
「3人ともー! 今日はありがとー! またいつでも遊びに来てねー!」
「わかったー! また
ライン!?
「ええ! 名雲さんとの恋バナ、また聞かせてねー! 応援してるからー!」
会って間もない店員のお姉さんと連絡先の交換をしているあたり、さすがコミュ力おばけのギャル、というべきか。俺にはマネできないな。
その後、ギャルとお友達になったお姉さんの尽力もあって、本当にわずか6日という短い期間で車を受け取ることができた。
「お車のことで何かお困りごとがあったら、気軽にいらしてくださいね? 私が彼と無事に婚約できたのもミサキちゃん達のおかげですし、うんとサービスさせていただきますので!」
販売店のお姉さんは幸せいっぱいの笑顔で、俺たち4人を乗せた淡いピンク色の車の新たな門出を見送ってくれたのだった。
「オジさん、なんか嬉しそう」
助手席に座るアヤネさんがハンドルを操作する俺の顔を覗き込んでくる。
「ええ、3人のお陰でとてもいい買い物ができました」
いいお店とも巡り会わせてもらったし、感謝の気持ちでいっぱいだ。そして、アヤネさんには追加でMVPの称号を贈りたい。今日というおめでたい日にTシャツを着てきてくれたのだ。
チラッ
俺は運転しながら助手席を盗み見る。こんもりと盛り上がるGカップがシートベルトでスラッシュされて、これでもかと強調されている。
「おほほっ」
最高かよ!!
「ねえ、ミサキ? お兄さん、鼻の下がすっごく伸びてるんだけど?」
「部屋に戻ったらお仕置きだな」
「……」
ルームミラー越しにジト目の2人と目が合う。
「か……帰りにどこかへ寄りましょうか?」
「えっ! いいの! じゃあ、ドライブスルーがしてみたい!」
「わかりました。では、国道沿いのマッグへ行ってみましょうか」
「いえーい! マッグへゴー!」
早くも機嫌を直したミサキさんとリサさんは肩を抱き合いガッツポーズする。
「ふふっ、すごく楽しい。素敵なプレゼントありがとね、オジさん♡」
シートベルトを緩めて体を近づけてきたアヤネさんは、そのまま俺の頬に軽くキスをした。
「ああー! アヤネさんだけズルい!」
「あーしもオッサンにありがとーのチュー、したいんだけどおー!」
「こらこらぁ、ダメですよぉ、2人ともぉ。ちゃんと座ってなきゃぁ」
ああ、幸せだなぁ。新しい相棒も手に入れたことだし。このまま幸せ街道まっしぐらってかあ! なーっはっはっはっはっ!
――10分後。マッグドライブスルーの注文口にて。
『いらっしゃいませ。ご注文をお伺いしますね?』
「あっ! あーし注文したい!」
スピーカーの声にいち早く反応したのは後部座席のミサキさんだった。彼女は軽く咳払いしてから幸せオーラ全開の笑顔でスピーカーへ話しかける。
「今からオッサンの
なんとッ!?
ギャルの行動が予測不能すぎて、やっぱ不安しかない……。
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