1-37 オッサン、エロゲ主人公に昇格する

「リサも気に入ったんだ」


 俺に頭をナデナデしてもらっている雨宮さんの様子を微笑ましく眺めていたアヤネさんが雨宮さんに尋ねる。


「何をですか?」


「オジさんの手。おっきくて気持ちいいでしょ?」


「うえっ!?」


 雨宮さんの顔が真っ赤になる。

 

「べべべ、別にそんなことありませんよっ!?」


 雨宮さんは焦りを誤魔化すように残った料理を慌ててかき込むと、そのまま呼び出しボタンを押す。


 ピンポーン


「お待たせいたしましたあー! ご注文をお伺いしますねー?」


 呼び出しに速攻で駆けつけたのは、またしても店長の山本だった。コイツ、狙って来てるだろ。


 山本は俺が雨宮さんの頭を撫でている姿を見てニヤニヤしてくる。気持ち悪いったらない。


「食後のデザートをお願いします! ケプッ」


 可愛らしいゲップが出てしまうというハプニングに雨宮さんは顔を真っ赤にして縮こまる。マジで妹にしたい。


「かしこまりましたー! すぐにお持ちしますね! は何かご注文なさいますか?」


「ん?」


も何かご注文なさいますか?」


 山本が満面の笑みで煽ってくる。うぜぇぇ。だが突っかかるなよ、俺。それこそコイツの思う壺だ。


「いえ、俺はけっこ――」


「店長さん! オッサンはね、三股じゃないんだよ! これから、あーし達がオッサンを『シェア』するんだからね!!」


 ミサキさんが急に口を挟んでくる。


「ちょっ!?」


 もっとも知られたくない男に俺たちの謎の関係を知られてしまった。


「へぇー。それってさ、みんなで仲良く付き合うってこと?」


 山本の笑顔が急に曇る。


「そうだよ、店長さん! あーし達ね! みんなでデートして、みんなでオッサン家にお泊まりして、みんなでエッチするの!」


「え? みんなで?」


 動揺を隠せない山本が「マジか?」と目で問いかけてくる。いや、俺も初耳なんだが?


「あのな、山本。お前の想像してるような――」


「お前とは絶交だ」


「は?」


 山本は笑顔だが目が笑ってない。


「オレの店に2度と来るんじゃねーぞ? この


 笑顔で捨て台詞を吐いた山本は黒いオーラを漂わせながら立ち去っていった。なんだアイツ。


「ちょっと、ミサキ!? どういうつもり!?」


 山本がいなくなってすぐ、雨宮さんが勢いよく立ち上がる。


「ここにいる3人ひとくくりみたいに言わないでよ! 私もお兄さんと付き合ってると思われるでしょ!」


「別にいいじゃん。リサ、彼氏いないんだし」


「そいうう問題じゃない!」


「へえー。リサって、そんなに可愛いのに彼氏いないんだ。私が男なら放っとかないのに」


「リサは理想が高いの。学校でしょっちゅう告白されてのに、みんな振っちゃうぐらいだもん」


「いや、別に理想が高いわけじゃ……」

 

「なら、なんで誰とも付き合わないの?」


「それはその……男子がみんな子供っぽいっていうか……」


 立ち上がっていたリサさんは恥ずかしそうにソファへ腰を下ろす。


「確かに。その気持ちは分かるかも。……あ、そーだ」


 アヤネさんは何かを思いついたのか、軽く手を叩く。


「じゃあさ、リサもオジさんと付き合ってみたら? ほら、オジさんはだしさ」


「ななっ、何言ってるんですかっ!?」


 顔を真っ赤にした雨宮さんがあからさまにアタフタし始めた。


「私は別に構わないわよ。リサとならオジさんを『シェア』しても。ミサキはどう?」


「いいに決まってんじゃん! 他の女はダメだけど、リサなら特別に許してやるぞ!」


 ミサキさんはビシッと親指を立てる。


「ついでにオジさんと『初体験』を済ましたら?」


「それ、いーね!!」


 ミサキさんは両手で親指を立てて「いいね」する。


「ははは、初体験んんッ――!?」

「ははは、初体験んんッ――!?」


 俺と雨宮さんの声が見事に重なるのだった。


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