第36話 ギャルはエッチの順番を譲りたくない

 アヤネさんは軽く手を叩きながら、リサさんに提案する。


「じゃあさ、リサもオジさんと付き合ってみたら? ほら、オジさんはだしさ」


「ななっ、何言ってるんですかっ!?」


「私は別に構わないわよ。リサとならオジさんを『シェア』しても。ミサキもいいよね?」


「当たり前じゃん! 他の女はダメだけど、リサなら特別に許してやるぞ!」


 ミサキさんはビシッと親指を立てる。


「ついでにオジさんと『初体験』を済ましたら?」


「それ、いーじゃん!!」


 ミサキさんはダブル親指立てで賛同する。


「ははは、初体験っ――!?」

「ははは、初体験っ――!?」


 俺とリサさんの驚きの声が重なる。


「けど、オッサンのチンコがデカすぎたら、リサのアソコに入んないかもお」


「確かに……。じゃあ、私が先にエッチしてアソコの大きさを確かめてあげるね」


「何言ってんの、アヤネ! オッサンと先にエッチするのはあーしに決まってんじゃん!」


「は?」


「ん? アヤネ、なんか文句あんの?」


 あ、あれ……?


 ギャル2人の間に険悪なムードが漂い始めた。


 2人は勢いよく立ち上がると、笑顔のまま睨み合いながら火花を散らす。


「ミサキには悪いけどさあ。オジさんはね、私のオッパイが大好きなんだよねえ。早く生で揉みたいなって、顔に書いてあるもん」


 アヤネさんはGカップをこれでもかと突き出して、タプンと揺らしてみせる。


「何言ってんの! オッサンはね、あーしのパンツが大好きなの! スケスケTバック履いたあーしとエッチしたくてウズウズしてんだから! だってオッサン。あーしが送った動画で毎日シコってるから!」


 ミサキさんはスマホの画面をこれみよがしに見せつける。


 それを見たアヤネさんは顔を引きつらせたあと、俺に睨みを利かせてから、ゆっくりと顔を戻す。


「まあ、いいわ……。なら、私と勝負しない? ミサキ?」


「勝負?」


「そう。勝った方が先にオジさんとエッチできる……それでどう?」


「いいじゃん、それ! 望むところだし! オッサンのチンチンは渡さないし!」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。

 ここは大人として……いや彼氏として、ちゃんと2人を仲直りさせなければ!


 俺は決意と共に立ち上がる。


「2人とも! いったん落ち着――」


「オッサンは黙ってて!!」

「オジさんは黙ってて!!」


「…………は、はい」


 俺は言われたとおり大人しくソファへ腰を下ろす。


「ケーキ食べたら『ラウンドツー』で勝負だからね! アヤネ!」


「いいわよ、ミサキ! 泣いて謝っても許さないから!」


 2人のギャルは到着したケーキセットをガツガツと食べ始める。


 ここはもうこの子だけが頼りだ。


「あの? リサさ――」


 ポフ


 俺の胸に黒髪ショートカットの頭が乗っかってくる。


「まったく……。私がお兄さんと付き合うわけないじゃないですか……。ホント迷惑です……」


 口元にケーキの食べカスをつけたリサさんは目を閉じてフォークを咥えたまま、ブツブツと何かを呟いている。


「あ……あの? リサさん……?」


「何してるんですか、お兄さん。手が止まってますよ。ちゃんとヨシヨシって言いながら撫でてくださいね」


 さっきより要求が増えてるんだけど。

 

「よ……よしよーし……」

 

「ンフフフ♩」


 リサさんはひとりご機嫌な様子でケーキを堪能していく。今なら少しぐらい食べさせてくれるかも。


「あのお……俺もケーキを1つ食べたいなー……なーんて?」


「ンフフフフ♩……イヤでーす♩」


「……」


 結局俺が胃袋に収めたのは1皿分のライスだけだったが、お会計は1万を超えた。


 俺はレジで泣く泣く諭吉を手放すと、セクハラ店長の恨めしい視線に見送られて店を出たのだった。


「はぁ……。女の子とのデートって、やっぱ金がかかるな……」


 俺は中身の寂しくなった財布をポケットへしまうと、いがみ合いながら前を歩くミサキさんとアヤネさんへ目を向ける。


 まあ、これであの2人と別れずに済んだと思えば安いものだ。それに俺の隣にはもうひとり。


「ふん♩ ふふーん♩」


 なぜか俺と腕を組んでいるリサさんは鼻歌混じりに上機嫌だ。


 ここまで懐かれる要素などあっただろうかと不思議に思いつつ、超かわいい妹ギャルのご機嫌な様子を愛でていると、前から怒鳴り声が飛んでくる。


「オッサン!! 鼻の下伸ばしてんじゃん!!」


「うひっ――!?」


 前を歩くギャル2人が怖い顔をしながら戻ってきた。


「ってか、リサ!? なんでオッサンと腕組んでんの!?」


「うえっ!? こ、これは……」


「オジさんとは付き合わないとか言ってなかった?」


「こ、これはその……。ま……迷子にならないためだよ!? ほら、私、小さいからさ。人混みでハグれないようにだよ!? それ以上でも以下でもないからねっ!」


「なるほどね……。じゃあ、私はこっち」


 アヤネさんが反対の腕へ腕を絡めてくる。


「あああー!! アヤネ、ズルい!! あーしの場所ないじゃん!!」


「早い者勝ちよ」


 アヤネさんは勝ち誇った顔をする。


「ぶうううう! じゃあ、あーしはここお!!」


 ギュッ


 ミサキさんが俺の胴体に抱きついて顔をうずめる。


「あーしねぇぇ……オッサンの匂い、超好きいぃぃ……」


「あっ、ミサキ、ズルい! 私も嗅ぎたい!」


「ちょっとミサキ! それじゃあ歩けないでしょ!」


「ああぁぁ……幸せだなぁ……」


 3人の女子高生の甘い匂いがブレンドされて、俺の脳を溶かしていくぅぅぅぅ――。



 結局俺たち4人は通常なら10分ほどの行程を、じっくり30分以上の時間をかけて、複合アミューズメント施設『ラウンドツー』へと向かったのだった。



 ボウリング場。一番端のレーンにて。


 ひとり腕を組んで椅子に座る俺は、好奇の目に晒されている。


  ――隣のレーンの男子高校生がめっちゃ見てくるんだが?

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