1-39 あ、オワタ……
複合アミューズメント施設『ラウンドツー』のボウリング場にて。一番端のレーンでひとり荷物番をしている俺は椅子に座りながら2つ隣のレーンを眺める。今まさにお姉さんが投球しようとしている。
「あ、惜しい」
ナイスショットとはいかなかったものの、女子3人で和気あいあいと楽しそうだ。それにしても……
「でっか」
アヤネさんぐらいあるのではなかろうか? お姉さんが投げれば、揺れ。喜べば、揺れ。椅子に座るだけでタプンと揺れている。
別にじっくり観察しているわけではない。1つ隣のレーンが空いているので
にしても、あのボリューム……もしや、アヤネさん越えなのでは?
「やばぁ♡」
「何がヤバいんだ?」
「それはもちろん、お姉さんの揺れるオッパ……」
背中から声をかけられたので、座ったまま首を反らして答えようとしたところ、いつの間にか球を持って戻ってきていた美人ギャルと巨乳ギャルと目が合う。
「……」
あ、オワタ……。
怖い目をした2人が俺のことをじーっと見下ろしている。
「お……おかえりなさい……ははっ」
2人は微動だにしない。どうしよう……。いや、ワンチャン聞かれていないという可能性も。
「お姉さんの何が揺れてるって……?」
そんなことなかった。
「さっそく、浮気か?」
浮気っ!?
「や、やだなー。そんなわけないじゃないですかぁ……そ、そうだっ! 球を取ってくるついでに、飲み物も買ってきますねっ! 運動するので喉が渇くでしょうし……では、いってきますっ!」
俺は怖い顔した2人の横をサッと通り過ぎてボックス席を飛び出すと、そのまま通路を突き進んで行く。
「あ、逃げた……」
「オッサンのオッパイ好きには困ったもんだ。帰ってきたらペナルティだな」
「ペナルティ?」
「そ、変顔おー♩」
戻りたくねぇぇぇ……。
俺は遠ざかるギャル達の会話の内容に激萎えしつつ、受付近くにある自販機コーナーへと向かうのだった。
◆
「あ、そうだ」
俺は自販機で3本目のペットボトルを購入しようとして手を止める。
「せっかくだし、ギャルと飲み合いっこしよーっと♩」
俺は飲み物を2本に止めて一番奥のレーンへと戻る。
いや、恋人同士なんだから普通にキスすればいいだろ、と正論を言われてしまうかもしれないが、それとこれとは話が別なのである。だって、してみたいじゃん!
陽キャ限定の裏山イベント『きゃぴきゃぴギャルとの回し飲み』ってやつ!
「フハハッ、今日から俺も陽キャの仲間入りだな」
軽くスキップ混じりに通路を進んでいると、ヨロヨロと歩く
「あれは」
黒髪ショートカットの小柄な女の子がボウリングの球を両手で抱えながら、慎重に歩みを進めている。
「お……重い……」
今にも倒れてしまいそうだ。危なっかしくて見てられないな。ここは
俺はペットボトルを後ろポケットへ突っ込んで、後ろから彼女へ近づく。
「大丈夫か? リサ?」
「ふえ?」
俺は振り返ろうとする彼女の小さな体にそっと寄り添うと、背中から包み込むように腕を回し、球を抱える小さな両手を優しく支える。
「あとは
「わぁ、助かりますぅ。ありがとう、お兄ちゃん。……ん? お兄ちゃん?」
俺のミゾオチあたりに収まった妹ギャルの頭がゆっくりと上を向く。
「ほら、お兄ちゃんだよ?」
俺がニッコリと微笑みかけると、目をまん丸にした彼女の顔が見る見る赤くなる。
「おおおお、お兄さんんッ――!?」
リサさんの顔が湯気が出そうなほど真っ赤になった。俺は彼女へ微笑みかける。
「リサさんはもう手を離してもらって大丈夫ですよ? あとは俺に任せてください」
「は……はいぃぃ」
急にしおらしくなったリサさんは俺の腕から脱出すると、俯きながら控えめにお礼を言ってくる。
「その……ありがとうございますぅぅ」
俺は球を片手で抱え直して彼女の頭を撫でる。
「お礼なんて別にいりませんよ。もう知らない仲でもないですし、これから困ったことがあれば、遠慮なく俺のことを頼ってくださいね」
コクンと頷いて返事をくれたリサさんを連れて再び歩き始める。俺の腕には彼女の両手がそっと添えられている。妹というより、恋人同士みたいだ。
恋人同士ということは、一緒にお風呂へ入ったり、同じ布団で寝たり、愛を育んじゃったりできるわけで……
「いやぁー、お兄ちゃん、困っちゃうなぁー!」
「何が困るの? オジさん?」
「ずいぶんと楽しそうだな……おい」
「わひゃいっ!?」
いつの間にか目的地へ到着していた俺は、可愛い妹との同伴現場をギャルたちに目撃されてしまう。2人の顔が怖いったらない。
「正座な?」
「あ、はい……」
オワタ。
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