第52話 【悲報】オッサン、借金が200億円を突破する

 日曜、午後4時過ぎ。

 俺は3人のギャルに攻められていた。

 

「あっ……そこはダメですってっ」


「オッサン? ここがいいんだろ?」


「ああぁ……そんなことしたらっ」


「ダメですよぉ、お兄さん? 逃げようとしちゃぁ」


「ああぁ……そこだけはっ」


「ちょっとどこ行くの、オジさん?……逃がさないからね♡」


「ああぁぁぁぁ……らめええええええ!」


【グェッヘッヘッ! 金などいらぬ! 出た目の数だけ金を捨ててやるぞ! オッサン社長!】

【37!】

【グェッヘッヘッ! 37億円を捨ててやったぞ! よろこべ!】

【オッサン社長の持ち金は、マイナス202億2800万円になった】


「うおおおおおおいッ――――!?」


 理不尽すぎるほど膨れ上がった借金の額を目の当たりにして、もう叫ばずにはいられない。


「超ウケる!! オッサンの借金、200億円突破してるんですけどおお!!」


 3人のギャルは『キングビンボー』の暴れ回るテレビ画面を見ながら大爆笑である。


「コイツらあああ……」


 俺たちが遊んでいるテレビゲームはスゴロクゲームの定番にして超人気作『金太郎電鉄』の最新版である。


 ゲーム機本体は持っていたので、食材を買いに出たついでに中古品を購入しておいた。


 だってしてみたいじゃん! 令和のギャルと一緒に楽しむキャピキャピゲーム大会!


「ほらほら、オッサンの番だよ。サイコロ振らないと……って、動けないんだったあー!」


 ミサキさんが煽り顔で煽り散らかしてくる。くそう……。

 俺の彼女は、おちょくる顔も可愛いすぎるから困る。


「ってかこのゲーム、個人戦ですよね!? 3人で結託するとか卑怯ですよ!?」


 そう。俺は今、ギャルたちにハメられている。


 序盤こそ、わきあいあいと4人で楽しく遊んでいたのだが、だんだん俺に貧乏神が取り憑く機会が増えてきた。


 おかしいなと思ったころには、もう手遅れだった。3人が阿吽の呼吸で俺を陥れていたのだ。


 今だってそうだ。


 キングビンボーの取り憑いた俺の駒は3つの『うんち』で完全に包囲され、身動きが取れなくなっている。

 

 この障害物が線路上から消えるまで、俺は毎ターン、ただただ金とカードをむしり取られていくのみ。物件など、とうの昔にすべて手放している。


「協力プレイ、はんたーーい!!」


 俺は抗議する。


「何言ってんの、オッサン? たまたまじゃん! たまたまそこにウンチが落ちただけだし!」


 いや『うんちカード』って指定した場所に障害物を置くカードだからね!? 本人の意志以外あり得ないからね!?


「ほら、オジさん、頑張んなよ。ゲームはまだ折り返しだからさ」


 アヤネさんが俺の背中をポンッと叩いて元気づけてくれる。あぁ……ほんと、キミは俺の天使だよぉ……。


 アヤネさんの言うとおり。勝負はまだまだこれからだ! なんせ俺には、強力なお助けカード大天使ミカエルならぬ『大天使アヤネル』がついていてくれるんだからな!


 アヤネさん……いや、大天使アヤネルのためにも勝ああああつ!


「ああっ、お兄さんを囲んでいたウンチがなくなっちゃいました!?」


 よし。これでようやく動ける。


 まずは徳政令のカードを手に入れて、積もりに積もった借金をチャラにする。だが、その前に……。


「ああっ! オッサンがあーしにビンボーなすりつけようとして、近づいてくるんだけどお!」


「悪く思わないでくださいね! 『ぶっとびカード』で俺のそばに飛んできたミサキさんが悪いんですからね! フハハハハッ! 覚悟おおおお!!」


「はい、牛歩カードね」


【アヤネ社長は牛歩カードを使った】

【オッサン社長は1マスずつしか進めなくなった】


 ちょっ!? アヤネル、なにしてんのおおおお!?


「だって、貧乏神なんかに取り憑かれたら、ミサキが可哀想でしょ?」


 いや、そういうゲームなんだが?


「アヤネ、ナーイス♩」


「いえーい」「いえーい」


 2人は笑顔でハイタッチした。

 何が天使だ。この悪魔め……。


「よおーく、分かりました! そっちがそのつもりなら受けて立ちましょう!」


 俺が証明してやる! 金鉄(金太郎鉄道)というゲームが、この絶望的な状況からでも大逆転できるってことをなああああ――――ッ!!



 ――1時間後


「結果発表、楽しみだね!」

「最初に電車が弾かれた人が最下位だからね!」

「ふふっ、誰かなー?」


「……」


 テレビ画面に映し出される最終結果の演出を3人のギャルとともに見守る。


 え? スキップでよくない?


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