1-49 オッサンをこちょこちょの刑に処す!

「ミサキ……これって……ブ、ブラ……」


 リサさんがタンスの引き出しから恐る恐る取り出したのは、ビニール袋で厳重にジップロックされた『薄紫色の巨大ブラジャー』だった。


 隠し忘れたあああああああっ!?


 俺は声にならない悲鳴を上げ、ミサキさんとリサさんはその場で固まってしまう。


 ポチポチポチ


 静まり返った部屋にはアヤネさんのスマホの操作音だけが響く。


だな」


 冷たい目をしたミサキさんが断言する。


「お兄さんに別の彼女がいるってこと!? オッパイがこんなにおっきい、大人のお姉さんの彼女がいるってこと!?」


「いや、あの……」


 いったん落ち着いてもらおうと声をかけようとした俺の元へ2人が詰め寄ってくる。


「オッサン、二股してんの!!」

「お兄さん、二股してるんですか!!」


 どうやら、この3人彼女ができると二股と認定されるらしい。新たな発見である。


 いや、そんなことより何て説明しよう……。


『これ、実はアヤネさんからのプレゼントなんです! 巨乳ギャルの巨乳に目が眩んじゃって、巨乳なブラジャーが欲しくなってー! ははっ!』


 なんて正直に話したら、それこそ火に油だ。


「オッサン!!」

「お兄さん!!」


 ちっパイ方のギャルたちが答えを迫ってくる。さて、どうしたものか……?


「ミサキもリサも落ち着きなって。それ、だから」


 俺があれこれ悩んでいるうちに、アヤネさんがスマホへ目を向けたまま、あっさりとバラす。


「アヤネさんっ!?」


「えっ、これ、アヤネのブラなの!?」


「そう。オジさんが欲しいって言ったから、あげたの。体育の授業が終わったあとの汗がたっぷり染み込んだ脱ぎたてホヤホヤをチャック付きのビニール袋に入れてね」


「汗たっぷり……?」

「脱ぎたてホヤホヤ……?」


 ミサキさんとリサさんが冷たい目を向けてくる。


「ははははっ……」


 もはや笑って誤魔化すしかない。


「けどよかったー。私のお気に入りのブラ、大切に使くれてるみたいで嬉しい」


 アヤネさんがニッコリと微笑む。


「使ってる……?」

「使ってる……?」


 2人の顔が怖いったらない。残念ながら誤魔化せそうにない。


「これはだな、リサ隊員」


「そうですね! ミサキ隊長!」


 仁王立ちで腕を組むミサキさんへ向かって、リサさんが敬礼する。


「罰ゲームって、また変顔ですか!?」


「そんな生ぬるいモンじゃねーからな? 覚悟しろよ、オッサン? ふふふふっ」


 ミサキさんは不敵に笑うと、両手の指をワシャワシャと動かし始める。何が始まるのだろう?


「いくぞ、リサ隊員! オッサンを取り押さえるのだ!」


「了解でありまあーす!」


 ミサキさんの指示のもと、俺の後ろへ回り込んだリサさんが背中へ抱きついてくる。


「お兄さんを確保しましたああー!!」


「でかしたぞ! リサ隊員!」


 いや、背中から普通にハグされてるだけなんだが?


 歳の離れた妹が『好き好き!大好き!お兄ちゃん!』とじゃれついてきているようで、むしろ心地いいくらいなんだが?


 確保(仮)された俺のもとへ、ニシシと笑みを浮かべるミサキさんがにじり寄ってくる。


「これよりオッサンを『こちょこちょの刑』に処す!」


 プッ、こちょこちょって。どうやら俺は体をくすぐられるらしい。ギャルの罰ゲームが可愛いすぎるんだが!


「ヤ……ヤメテええええ」


 とりあえず嫌がってみる。まあ、ただのだけどな。残念ながら俺はくすぐったがりじゃない。楽しそうだから、このまま続けよーっと。


「オッサン、覚悟おおおお! こちょこちょこちょこちょ」


 ミサキさんが俺の脇腹を激しくくすぐり始める。


「はははははっ。もおー、やめてくださいよおー」


 ちょっと大袈裟に反応してみる。


「ミサキ隊長! オッパイ大好きスケベお兄さんが、とてもくすぐったそうにしています!」


 リサさんが興奮気味に報告する。本当はまったく効いてないんだよなあー。


 パシャリッ


「ん?」


 音のした方へ顔を向けると、アヤネさんがスマホのレンズをこちらへ向けていた。


「題名は『ギャルと戯れて鼻の下伸びまくりなオジさん』ってところかな」


 アヤネさんは楽しそうに微笑む。どうやら俺の顔は相当緩んでいるらしい。当たり前か。


 せっかくなので軽く身悶えしてみる。


「や……やめてえええ……ギブ……ギブアップですってええええ」


 ミサキさんのくすぐり攻撃はもちろん止まらない。


「やめないもんね! 巨乳ばっか見てるオッサンが悪いんだからね!」


「ミサキ! やっちゃええー!」


 ミサキさんとリサさんは大いに盛り上がる。


「オッサン、超ザコじゃーん!!」


 2人とも十分楽しんでくれただろう。そろそろ頃合いだ。俺はくすぐったい演技を徐々に弱めていく。


「はははははっ……ふふふふふふっ……フハハハハハッ!!」


 今度はこっちの番だ。


「あれっ、ミサキっ!? お兄さん、苦しそうじゃなくなったよ!?」

 

「えっ、なんで!? オッサンにこちょこちょが効かないんだけど!?」


「2人ともダメですよ? 大好きな彼氏が止めてって言ってるんですから、ちゃんと止めないと」


 俺は2人を見下ろしながら冷たく微笑む。


「悪い子にはしないといけませんねぇ……」

 

「えっ……オッサン? キャッ!?」


 俺は目の前にいたミサキさんの体を両手で掴んで、ヒョイッとベッドへ放り投げる。


「お……お兄さん!? わわっ!?」


 続けて、背中にいたリサさんの体を持ち上げてポイッとベッドへ放り込む。


「ちょっと、何すんの、オッサン!!」


 俺は戸惑う2人のギャルを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべる。


「今から『お仕置きのキス』をします」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る