第48話 ギャルはオッサンをこちょこちょの刑に処す!

「ミサキ……これって……ブ、ブラ……」


 リサさんがタンスの引き出しから恐る恐る取り出したのは、ビニール袋で厳重に密閉された『薄紫色のブラジャー』だった。


 隠し忘れたああああ――――っ!?


 俺は声にならない悲鳴を上げ、ミサキさんとリサさんはその場で固まってしまう。


 ポチポチポチ――


 静まり返った部屋にはアヤネさんのスマホの操作音だけが聞こえる。


「……だな」


 冷たい目をしたミサキさんが言い放つ。


「黒っ!? お兄さんに別の彼女がいるってこと!? オッパイが大きい、大人のお姉さんの彼女が!?」


「いや、あの……」


「オッサン、二股ってどういうこと!?」

「お兄さん、二股してるんですか!?」


 2人のギャルに詰め寄られる。

 どうやら、この3人以外に彼女ができると二股と認定されるらしい。新たな発見である。


 いや、そんなことより何て説明しよう……?


『これ、実はアヤネさんからのプレゼントなんだよね! 巨乳JKの巨乳に目が眩んじゃって、巨乳なブラジャーが欲しくなっちゃってさー! ははっ!』


 なんて言ってみろ、それこそ火に油だ。


「オッサン!!」

「お兄さん!!」


 ちっパイ方のギャルたちが答えを迫ってくる。さて、どうしたものか……?


「ミサキもリサも落ち着きなって。それ、だから」


 俺があれこれ悩んでいるうちに、アヤネさんがスマホへ目を落としたまま、あっさりとバラしてしまう。


「ちょっ、アヤネさんっ!?」


「えっ!? これ、アヤネのブラなの!?」


「そう。オジさんが欲しいって言ったから、あげたの。体育の授業が終わったあとの汗ビッショリ脱ぎたてホヤホヤをジップロックしてね」


「汗ビッショリ……?」

「脱ぎたてホヤホヤ……?」


 ミサキさんとリサさんが冷ややかな目を向けてくる。


「はっ……はははは……」


 笑って誤魔化すしかない。


「けどよかった。私のお気に入りのブラ……大切に使くれてるみたいで嬉しい」


 アヤネさんが屈託のない笑顔を向けてくる。


「使ってる……?」

「使ってる……?」


「ハハハハハッ……」


 ちょっと大袈裟に笑って誤魔化すしかない。


「オッサン、笑い事じゃねーからな?」

「お兄さん、笑い事じゃないですよ?」


「はははは…………す、すいません……」


 怒られてしまった。

 ミサキさんとリサさんの圧がハンパない。


「これはだな、リサ隊員!」


「そうですね! ミサキ隊長!」


 仁王立ちで腕を組むミサキさんへ向かって、リサさんが敬礼する。


「えっ? 罰ゲーム? また変顔ですか?」


「そんな生ぬるいモンじゃねーからな……。覚悟しろよ、オッサン。ふふふふっ」


 ミサキさんは不敵に笑うと、両手の指をワシャワシャと動かし始める。

 何が始まるのだろう?


「リサ隊員! オッサンを取り押さえるのだ!」


「了解であります!」


 ミサキさんの指示のもと、俺の後ろへ回り込んだリサさんは俺の背中へ思いきり抱きつく。


「お兄さんを確保しましたああ!!」


 リサさんは声高々と報告する。


「でかしたぞ! リサ隊員!」


 背中から普通にハグされてるだけなんだが?

 歳の離れた妹に『好き好き! お兄ちゃん、大好き!』と抱きつかれているようで、むしろ心地いいくらいなんだが?


 確保(仮)された俺のもとへ、ニシシと笑うミサキさんがにじり寄ってくる。


「これよりオッサンを『こちょこちょの刑』に処す!」


 ぷっ、こちょこちょって!

 どうやら俺は体をくすぐられるらしい。

 ギャルの罰ゲームが可愛いすぎるんだが!


「ヤ……ヤメテええええ……」


 とりあえず嫌がっておいた。

 まあ、これはただのだ。残念ながら俺はくすぐったがりじゃない。


 この俺にくすぐり攻撃など通用しないのだよ、ミサキ隊長! ガハハハハッ!


 まあ楽しそうだから、黙ってこのまま続けるけどな。


「オッサン! 覚悟おお! こちょこちょこちょ――」


 ミサキさんが勢いよく俺の脇腹をくすぐり始める。


「はははははっ! もおー、やめてくださいよおおおー」


 ちょっと大袈裟に反応してみた。


「ミサキ隊長! オッパイ大好きスケベお兄さんがとてもくすぐったそうにしています!」


 リサさんが興奮気味に報告する。

 残念ながら、まったく効いてないんだよなぁー。


 パシャリッ


「ん?」


 音のした方を見ると、アヤネさんがスマホのレンズをこちらへ向けていた。


「題名は『ギャルと戯れて鼻の下が伸びまくりなオジさん』ってところかな」


 アヤネさんは楽しそうに微笑む。どうやら俺の顔は相当緩んでいるらしい。


 軽く身悶えしてみるが、ミサキさんのくすぐり攻撃は止まらない。


「や……やめてえええ……ギブ……ギブアップですってええええ……」


「やめないもんね! 巨乳ばっか見てるオッサンが悪いんだから!」


「ミサキ! やっちゃええ!」


 ミサキさんとリサさんは大いに盛り上がる。


「オッサン、超ザコじゃん!!」


 2人とも十分楽しんでくれただろう。そろそろ頃合いだ。


 俺はくすぐったい演技を徐々に薄めていく。


「はははははっ……ふふふふふふっ……フハハハハハッ!」


 今度はこっちの番だ!


「あれっ、ミサキ!? お兄さん、苦しそうじゃなくなったよ!?」

 

「えっ、なんで!? オッサンにこちょこちょが効かないんだけど!?」


「2人ともダメですよ。彼氏が止めてって言ってるんですから、ちゃんと止めないと……」


 俺は2人を見下ろしながら冷たく微笑む。


「悪い子にはしないといけませんね……?」

 

「えっ……オッサン? キャッ!?」


 俺は目の前にいたミサキさんの体を両手で掴んで、ヒョイッとベッドへ投げ入れる。


「お……お兄さん!? わっ!?」


 続けて、背中にいたリサさんの体を持ち上げてポイッとベッドへ放り込む。


「ちょっ!? なにすんの、オッサン!?」


 俺は戸惑う2人のギャルに対して、不敵な笑みを浮かべながら言い渡す。


「今から『お仕置きのキス』をします」


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