1-33 白ギャルvs巨乳ギャル

 U字型のソファの一番奥へ俺が収まり、俺の隣にはリサさん。そしてミサキさんとアヤネさんが向かい合って座る。


 お互いを静かに見据える2大ギャルを、俺とリサさんで見守る形となった。店の奥にあるU字型のソファ席に緊張感が漂う。


「ごくり……」


 ここは大人である俺の出番だ。この場を人気MCばりに仕切って、3人にとって平和的な解決策を模索す――


「オッサンと別れて!!」


「んー……それは無理かなぁー」


「もう始まっちゃったよっ!?」


 俺の2人の彼女――ポニテギャルのミサキさんと、肩出し谷間ギャルのアヤネさんの戦いの火蓋が切って落とされる。


「ンプププッ……マンガみたいなツッコミしてるぅぅ……プフフフッ……」


 野次馬妹ギャルの雨宮さんは例のごとく口元を両手で押さえ始める。楽しそうで何よりだ。ホント、何しに来たんだよ……この子。


 というか、気づけば雨宮さんと肩が触れそうなほど密着状態だ。いくら親友の彼氏だからって、初対面の男相手に心を許しすぎだ。自分が可愛いということをもっと自覚した方がいい。でないと――


 お兄ちゃんが誘拐しちゃうゾ☆


「お兄さん?」


「えっ? あっ、はいっ、何ですか?」


 雨宮さんが真顔で話しかけてきた。


「ニヤニヤしてないで、自分が『二股の最低ヤロウ』だということをちゃんとしてください」


「あっ……そう……ですね……」


 俺の妹は少し……いや、わりと毒舌なのかもしれない。


 とりあえず居住まいを正した俺は、二股の最低ヤロウ……いや、2人の彼氏としてミサキさんとアヤネさんの動向を見守ることにした。


「先に自己紹介しましょうか? 私の名前は藤咲アヤネよ。△△高校2年」


「あーしは月城ミサキ。で、あっちが雨宮リサ。◯◯高2年……」


「同級生なんだ。よろしくね、ミサキ」


 アヤネさんが手を差し出す。


「あーし、と仲良くする気ないし!」


 ミサキさんはプイッとそっぽを向いてしまう。


「横取りする気なんかないって」


「じゃあ、今すぐオッサンと別れて! 先に付き合ってたのは、あーしじゃん! あーし、二股とかヤだもん!」


「私は別に構わないわよ、ミサキとなら二股になっても。なんか楽しそうだし」


「あーしは楽しくない!」


 ミサキさんはほっぺたをプクッと膨らませる。可愛い。


「それにさ……私にはオジさんと別れられないがあるんだよね」


「あ゛? どういう意味だ?」


 ヤンキーと化したミサキさんに圧をかけられるも、余裕のアヤネさんは体を楽にしながら答える。


「オジさん、みんなの前で言っちゃったんだよね。アヤネは『俺の物』だって」


「あ゛? どういうこった?」


 ヤンキーギャルの眉間にシワが寄る。2人を見守る俺の額から汗がダラダラと流れ始める。アヤネさんは動揺する俺の様子を横目でチラリと確認したあと、澄まし顔で答える。


「何があったか今から話すけど、私は別にミサキとケンカしたいわけじゃないからね。あなたとはむしろ仲良くしたいと思ってる。オジさんのことを。そのことは分かっておいてね」


「とりあえず、話して!」


 ミサキさんに促されたアヤネさんは背中をソファに預けてから話し始める。


「最初はさ、ミサキのことが羨ましかったんだよね。オジさんと一緒に勉強してるだけなのになんかキラキラしててさ。相手は普通のオジさんなのに、なんであんなに楽しそうなんだろうって……」


「何言ってんの! オッサン、超カッコいいじゃん!」


「だからマッグで初めて会ったときの話だって。今は私もすっごくカッコいいと思ってる。オジさん以外の男が『芋』にしか見えない」


「アヤネ、あーしと一緒じゃん!! あーしはね、ジャガイモー!!」


「ププッ」


 リサさんが笑い声を吹き出す。


「ああ、ごめんね、2人とも。クラスの男子で想像したら、ついおかしくなっちゃって。気にせず続けて」


 リサさんがどうぞどうぞと手で合図する。気づけばテーブルには和やかな雰囲気が漂い始めている。


「でね、次の日無理矢理オジさんをデートに誘ったの。を人質にしてね」


 アヤネさんは自分のスマホを取り出して紫色のストラップを揺らす。


「あっ、それ! あーしとお揃いじゃん!」


「ふふっ、そうね。私とミサキとオジさん、3人でお揃い」


 アヤネさんはニッコリ微笑んでから話を続ける。


「それで、デートの途中でね。たまたま私の幼馴染に出くわしたの。ソイツがね、私とオジさんが仲良くしてるのを見て嫉妬しちゃって、オジさんに悪口言ってきたの」


「なんて?」


「ダサい男だって」

 

「なにそれ! 許せない!」


「でしょ? 私もカッとなってソイツと口喧嘩になってね。そいつに言われたの『ダサい男と付き合うなんて、お前もダサい女になったよな』って」


「ひど!! そいつ最低じゃん!! アヤネ、超可愛いのに!!」


 ミサキさんはすっかり感情移入している。


「ありがと、ミサキ。オジさんもさ、その幼馴染に言ってくれたんだよね『アヤネは最高の女だ』って」


「さすがオッサン、分かってんじゃん!」


 ミサキさんは腕を組んでウンウンと頷く。


「オジさん、そのまま幼馴染に言ったんだよね『アヤネのことが好きなら、俺から奪うつもりで来い。他の誰にも渡さずに待ってるから』って。急に『俺の物感』全開にされちゃってさ。私、もうビックリしちゃって」


 あの時のことを思い出して照れるアヤネさんに対して、興奮した様子のミサキさんは身を乗り出して拳をブンブンと振り始める。


「オッサン、超カッコいいんですけどー!! あーしも言われてみたいんですけどー!!」


「普段はちょっと頼りない感じなのに、急にオレ様な感じでくるんだもん。私もうドキドキしちゃってさ。そんな風に言われたら好きにならないわけないよね」


「アヤネ、オッサンのこと超好きじゃん!」


「ふふっ、ミサキもね」

 

 すっかり意気投合した2人のギャルは俺の話で大いに盛り上がる。嬉しいけど、ちょっと照れ臭いな。


「ふふっ」


 2人が楽しそうに話す様子を微笑ましく眺めていると不意に肩を叩かれる。


「お兄さん?」


 隣に座る雨宮さんが真顔で話しかけてくる。


「どうかしましたか?」


「恥ずかしくないんですか?」


「何がですか?」


「人前であんな吐いて」


「ふぐっ!?」


 俺は赤くなった顔をそっと両手で覆うのだった。

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