第32話 ギャルは共通の好きな物(オッサン)があればすぐに仲良くなれる(後編)

「先に自己紹介しましょうか? 私の名前は藤咲アヤネよ。△△高校2年」


「あーしは月城ミサキ。で、あっちが雨宮リサ。◯◯高2年……」


「同級生なんだ。よろしくね、ミサキ」


 アヤネさんが手を差し出す。


「あーし、と仲良くする気ないし!」


 ミサキさんはプイッとそっぽを向いてしまう。


「横取りする気なんかないって」


「じゃあ、今すぐオッサンと別れて! 先に付き合ってたのは、あーしなんだからね! あーし、二股とかヤだもん!」


「私は別に構わないわよ、ミサキとなら二股になっても。なんか楽しそうだし」


「あーしは楽しくない!」


 ミサキさんはほっぺたをプクッと膨らませる。なにあれ、可愛すぎるだろ。


「それにさ……私にはオジさんと別れられないがあるんだよね」


「それ、どういう意味!」


 語気を強めるミサキさんに対して、アヤネさんはテーブルへ両手を伸ばしながら穏やかに答える。


「オジさん、みんなの前で言っちゃったんだよね――アヤネは『俺の物』だって」


「は? どういうこと?」


 ミサキさんの眉間にシワが寄り、声のトーンが下がる。2人を見守る俺の額から汗がダラダラと流れ始める。


 アヤネさんはそんな俺の様子を横目でチラリと確認したあと、澄まし顔で答える。


「何があったか今から話すけど、私は別にミサキとケンカしたいわけじゃないからね。あなたとはむしろ仲良くしたいと思ってる。オジさんのことを。そのことは分かっておいてね」


「とりあえず、話して!」


 ミサキさんに促されたアヤネさんは背中をソファに預けてから話し始める。


「最初はさ……ミサキのことが羨ましかったんだよね。オジさんと一緒に勉強してるだけなのになんかキラキラしててさ。相手は普通のオジさんなのに、なんであんなに楽しそうなんだろうって……」


「何言ってんの! オッサン、超カッコいいじゃん!」


「だからマッグで初めて会ったときの話だって。今は私も超カッコいいと思ってる。オジさん以外の男が『芋』にしか見えない」


「アヤネ、あーしと一緒じゃん!! あーしはね、ジャガイモ!!」


「ププッ」


 リサさんが笑い声を吹き出す。


「ああ、ごめんね、2人とも。クラスの男子で想像したら、ついおかしくなっちゃって。気にせず続けて」


 リサさんが手で合図する。

 気づけばテーブルには和やかな雰囲気が漂い始めている。


「でね、次の日無理矢理オジさんをデートに誘ったの。を人質にしてね」


 アヤネさんは自分のスマホを取り出して紫色のストラップを揺らす。


「あっ、それ! あーしとお揃いじゃん!」


「ふふっ、そうね。私とミサキとオジさん、3人でお揃い」


 アヤネさんはニッコリ微笑んでから話を続ける。


「それで、デートの途中でね。たまたま私の幼馴染に出くわしたの。ソイツがね、私とオジさんが仲良くしてるのを見て嫉妬しちゃって、オジさんに悪口言ってきたの」


「なんて?」


「ダサい男だって」

 

「なにそれ! 許せないんですけど!」


「でしょ! 私もカッとなってソイツと口喧嘩になってね。ソイツに言われたの『ダサい男と付き合うなんて、お前もダサい女になったよな』って」


「ひど!! ソイツ最低じゃん!! アヤネ、超可愛いのに!!」


 ミサキさんはもう話に夢中である。


「ありがと、ミサキ。オジさんもさ、その幼馴染に言ってくれたんだよね『アヤネは最高の女だ!』って」


「さすがオッサン、分かってんじゃん!」


 ミサキさんは腕を組んでウンウンと頷く。


「オジさん、そのまま幼馴染に言ったんだよね『アヤネのことが好きなら、俺から奪うつもりで来い! 他の誰にも渡さずに待ってるからな!』って。急に『俺の物感』全開にされちゃってさ。もう私、ビックリしちゃって」


 少し照れた様子のアヤネさんに対して、ミサキさんは身を乗り出して目を輝かせながら拳をブンブン振る。


「オッサン、超カッコいいんですけどおー!! あーしも言われてみたいんですけどおー!!」


「普段はちょっと頼りないのに、急にオレ様な感じでくるんだもん。私もうドキドキしちゃってさ。そんな風に言われたら好きにならないわけないっつーの」


「アヤネ、オッサンのこと超好きじゃん!」


「ふふっ、ミサキもね」

 

 すっかり意気投合した2人のギャルは俺の話で大いに盛り上がり始める。

 嬉しいけど、ちょっと照れ臭いな。


「ふふっ」


 2人が楽しそうに話す様子を微笑ましく眺めていると肩を叩かれる。


「お兄さん?」


 隣に座る妹ギャルが真顔で話しかけてくる。


「はい、何ですか?」


「恥ずかしくないんですか?」


「何がですか?」


「人前であんな吐いて」


「ふぐっ――!?」


 顔が一気に熱くなるのを感じた。


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