1-34 ギャル、怒りの白飯(しろめし)

「人前であんな吐いて、恥ずかしくないんですか? お兄さん?」


「ふぐっ!?」


 俺は赤くなった顔をそっと両手で覆う。


「明日、学校で友達に報告しよっと。お兄さんがしたって」


「絶対にやめてくださいッ!?」


 俺は隣に座る妹ギャルこと雨宮リサさんに強く訴える。


「しょーがないですね……。じゃあ黙っておく代わりに、今日のランチ奢ってください」


「奢り? まあ、別にそれくらい構いませんけど……」


「やった♩ じゃあ、高いのにしよっかな〜。お父さんには頼みにくいやつ」


 雨宮さんはウキウキな様子でメニューをめくっていく。


「え? 高いやつ?」


「別にちょっとぐらい高くてもいいじゃないですか。お兄さんは今から、すっごく可愛いJK3人とランチできるんですよ? クラスの男子なら泣いて喜ぶ状況です」


「そう……ですね……」


 自分で言うんだ『すっごく可愛い』って。まあこの子が美少女なのは認めるけど。


「こう見えて私、学校ではミサキと同じぐらい男子から人気があるんですよ? なぜか彼女じゃなくてになってほしいって、バカな告白をされることもあるんですけどね」


「へえー」


 ここにも1人いるんだが? もう脳内では一緒にお風呂に入るほど『俺の妹』なんだが?


 なんか中学生の妹に見えてくるんだもん。小っちゃくて可愛いところがさ。とか特に。


「お兄さん?」


 雨宮さんはメニューに目を向けたまま話しかけてくる。


「どうかしましたか?」


「今、絶対に考えてましたよね?」


「うえっ!?」


 なぜバレた!?


「気をつけた方がいいですよ? 世の中の女性は男性の視線には敏感です。特に、なんか見てたら丸わかりですからね?」


 俺の妹、怖っわ。


「す……すいませんでした……」


「ミサキー! お兄さんがね、みんなのランチ奢ってくれるって! 高い物でもいいって!」


「えっ!? 3人分っ!?」


 思わず声が出た。


「当たり前じゃないですか。私だけ奢ってもらうなんて変ですって。そんなことも分からないんですか? お兄さんバカなんですか?」


「……」

 

 えっ、急にキツくない?


 俺が豹変した妹ギャルの様子に戸惑う一方、ミサキさんとアヤネさんは目を輝かせる。


「マジでいいの!? オッサン、神じゃん!!」


 なんか神認定された。


「ねえ、オジさん? デザートもいい?」


 デザートも3人分!?


 ミサキさんとアヤネさんはテーブルへ身を乗り出して、2人仲良くメニューを見始める。


 ――あれはっ!?


 前屈みになった巨乳ギャルの深い谷間が俺の位置から丸見えである。いや〜、眼福ぅ眼福ぅ〜♩


「もー、オジさんってば、どこ見てるの?」


 おっと、本人に気づかれた。

 

「私の胸ばっか見てないでさ、何頼むか早く決めなって。あとでいくらでも見せてあげるからさ、こ・れ♡」


 アヤネさんはご自慢のGカップをポヨヨンと揺らしてみせる。


「マジかよっ!?」


 勝手に声が出た。


 ピンポン


 雨宮さんが無言で呼び出しボタンを押す。


「えっ? 俺、まだ決まってないんですけどっ?」


 すぐに店員が駆けつける。


「おー待たせいたしましたー!」


 待ってました! と言わんばかりに登場したのはニッコニコ笑顔のセクハラ店長、山本だった。


「ご注文、お伺いいたしまっす!」


「特上サーロインステーキ、3つ」


 ミサキさんがどこか怒りに満ちた声色で注文する。


「えっ!? とと、特上サーロイン!?」


 俺はメニューをめくっていく。


「これかっ!……って」


 にににに、2500円んんッ!?


 思わず目が飛び出る。いや、高い料理でも構わないって言ったけども!?


「特上サーロインステーキ、3つうう! ありがとうごさいまーっす!」


 山本が元気よく復唱する。


「あと、スペシャルケーキセット、3つ」


 俺は急いでメニューをめくっていく。


 なななな、790円んんッ!?


 俺は瞬時に頭の中で計算する。ドリンクバーも含めれば一人当たり3500円オーバー。つまり3人合わせて1万円!? マジかよっ!?


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


 山本がワザとらしく急かしてくる。


「ちょっと待てって、山本!?」

 

 ええい、仕方ない! ここは雨宮さんの言うとおり、この1万円はすっごく可愛いギャル3人と楽しく過ごすための必要経費だと思おう! うん、そうしよう!


「よし! 決めたぞ、山本! 俺はチーズハンバーグセットを――」


「オッサンは白飯しろめしで」


 ミサキさんが声を被せてくる。顔は笑顔だが目はまったく笑っていない。


「えーっと……俺はチーズハンバーグセッ――」


「白飯で」


「チーズ――」


「白飯で」


「チ――」


「白飯で」


「……」


 俺は諦めた。


「ライス1人前ですね! 以上でよろしいでしょうか!」


 山本はニヤニヤが止まらないって感じだ。


「以上で」


「ご注文承りましたー! ご用意いたしますので、少々お待ちくださーい!」


 山本は笑いを堪えるように口元を押さえながらテーブルを離れていった。


 呆然とする俺をひとり蚊帳の外にして、3人のギャルは女子会を始める。


「あーしね、ずっと思ってたんだけどさ。今日のアヤネのネイル、超可愛いよねぇ!!」


「ありがと、ミサキ。すごく嬉しい。オジさんは何も言ってくれなかったからさ」


「マジ? じゃん!」


 最低っ!?


「胸の谷間しか見てないなんかほっといてさ。連絡先交換しようよ、アヤネさん」


 エロオヤジっ!?


 それから料理が到着するまでの間、ミサキさんとリサさんが一切口を利いてくれなかったことは言うまでもない。



 熱々の料理が到着して間もなく――


「ねえ、ミサキ? 私から提案があるんだけど、聞いてくれる?」


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