第34話 オッサン、ギャルに『シェア』される

「わはああああっ!! 肉、うまそおおおお!!」


 ミサキさんがジュージューと音を立てる鉄板を前に目を輝かせる。喜び方が海賊王だ。


 テーブルを囲む3人のギャルの目の前には熱々の特上サーロインステーキ。対して俺の手元には白い皿に盛られた白飯のみ。


「……」


 自ら招いた結果とは言え、あまりにも寂しい。せめて漬物ぐらいは欲しいところだが……。無いか。ここ、ファミレスだし。


「いっただっきまあーーす!!」


 ご機嫌な様子のミサキさんが元気いっぱいにステーキを食べ始める。


 ギャルが美味しそうに肉を頬張る姿は見ていて微笑ましい。口元についたソースなんて、無邪気で可愛らしいったらない。


 ただ今の俺からしたら、その絵面は完全に飯テロである。じゅるり……。


「へぇー……初めて食べるけど、けっこう美味しいかも」


 アヤネさんはステーキを上品に切り分けて食べ進めていく。その仕草からは育ちの良さが窺えるし、どこか色気も感じられる。


 ふっくらとした唇に吸い込まれる肉のひと切れひと切れが、その大きなオッパイの更なる成長の糧とならんことを切に願う。……早く揉みたい。


 ポト


 ギャル2人の食べっぷりをヨダレを垂らしながら眺めていると、俺の白飯1色の皿の上に黄色の点が加わる。コーンの粒だ。


 ポト、ポト


 隣に座るリサさんが続けてニンジンとインゲンを皿に追加してくれる。

 

「お兄さんがあまりにも惨めなので、特別にしてあげますよ。感謝してくださいね」


 果たして、これを『シェア』と呼べるのだろうか? 全部ひとカケラずつしかないんだが?


「あの……リサさん? お肉は?」


「何言ってるんですか? 図々しいですよ、お兄さん」


 リサさんは鉄板を遠ざける。

 それ全部俺の奢りなんだが?


「せめて、ポテトだけでも……」


「イヤです! 私、ポテト好きなので」


 く……くそう……。


「――なるほど。があったか」


 俺が諦めて白ご飯に手をつけたところで、アヤネさんが何かを思いついた顔をする。


「ねえ、ミサキ……って、口にソースついてるよ」


 アヤネさんがミサキさんの口元を優しく拭く。

 それは彼氏である俺の役目なんだが?


「ありがと、アヤネ! あーし、アヤネのこと好きかもおー」


「私もミサキのことは好きよ。あなたとはこれからも仲良くしていきたいと思ってる」


「マジ? じゃあ、あーし達、もうだね!」


「ふふっ、そうね。ミサキとお友達になれて、すごく嬉しい」


 俺は2人の会話を見守ることにした。


「あのね、ミサキ……。友達の私からひとつ提案があるんだけど、聞いてくれる?」


「提案って?」


 アヤネさんはひと呼吸置いてから答える。



「――私とミサキで、オジさんを『シェア』しない?」



「ん?」

「え?」

「シェア??」


 俺とリサさんとミサキさんの頭の上に、同時にハテナマークが浮かぶ。


「そう、素敵でしょ?」


 アヤネさんは優しく微笑んでから話し始める。


「ミサキはさ、お気に入りの写真や動画があったら、お友達とシェアしてるでしょ?」


「もっちろん!」


「それってどうして?」


「そんなの決まってんじゃん! みんなにも楽しい気持ちになってほしいからだよ!」


「私も同じ。私はね……『幸せのシェア』だと思ってる」


「幸せのシェア……なんかいいじゃん! それ!」


「でしょ?」


 アヤネさんはニッコリと微笑む。


「ミサキはさ、オジさんと一緒にいると幸せでしょ?」


「当たり前じゃん! 超幸せだよ!」


「私もね、オジさんの隣を歩いてると、すっごく幸せな気持ちになる。だからさ――」


 アヤネさんはミサキさんの目をまっすぐ見つめる。



『オジさんと過ごすを、今日から私としてほしい。ダメかな?』



 優しく微笑みかけるアヤネさんに対して、ミサキさんは黙って俯いてしまう。


「あぁ……」


 上手くいきそうな雰囲気だっただけに、俺の口から落胆の声が漏れる。


 けど、当たり前だよな……。

 いくら『幸せのシェア』だって言っても、写真と恋人じゃあ、まるで話が違う。


 二股を許さないミサキさんが、そんな無茶な提案――


「……じゃん……」


 俯いたままのミサキさんが何か呟いたかと思うと、彼女はテーブルへ両手をついて勢いよく立ち上がる。


『いいじゃん!! それ!! やろうよ!! シェア!!』


 前のめりになったミサキさんは興奮した様子で目を輝かせている。


「えっ……いいの……?」


「ちょっ、なんでそんな意外そうな顔すんの? アヤネぇぇ」


「だって……」


「いいに決まってんじゃん! あーしとアヤネはギャル友だよ! ギャル友同士で好きな人が一緒だったらさ。それはもう、シェアするしかないじゃん!!」


 ミサキさんはフンッと息を吐く。


「ミサキ……」


 アヤネさんの口から安堵の声が漏れる。

 その様子を満足げに眺めたミサキさんはソファへ腰を下ろすと、腕を組んでウンウンと頷いてみせる。


「あーし、そんな当たり前のことにも気づかなかったよぉ……。教えてくれて、ありがとね! アヤネ!」


 ミサキさんは満面の笑みを向ける。


「とんでもない。これからよろしくね……ミサキ」


 アヤネさんは優しく微笑みながら答えた。


「これって……」


 上手くいった……のか?


 2人は幸せそうな顔をしているのに、なぜか心から喜べない自分がいる。


 いくら友達同士だからって、こうもあっさり『シェア』とやらを受け入れられるものなのか……?


 ただでさえミサキさんは二股が原因で前の彼氏と別れているのに……。


「どうかした? オッサン?」


 不安が顔に出ていたのか、心配したミサキさんが声をかけてくる。

 

「あの……ミサキさん?」


「なあに?」


「本当にいいんですか……?」


 2人一緒に付き合うことになっても……。


 彼女の瞳にそう問いかけると、とびっきりの笑顔で答えが返ってくる。


「もっちろん!! だって、じゃん!!」


 楽しそう……。


「オッサンもそう思うでしょ?」


 ニカッと笑いかける彼女を見ていると、心がすーっと軽くなっていく気がした。



 ――そっちの方が楽しそうだから。



 そっか……それでいいんだ。


「ははっ」


 自然と笑みが溢れた。


「オッサン、楽しそうだな!」


「はい、とっても!」


 俺は心の底からの思いを伝える。

 

 ミサキさんのスマホを駅前で拾ってから、ちょうど1週間。平凡な会社員生活を送っていた俺は――


「オッサン、覚悟しなよ! あーしとアヤネでメロメロにしてやるからな!」


「もう、とっくにメロメロですよ」


「じゃあ、私とミサキで、今よりもっともっとメロメロにしてあげるね」


「ふふっ、お手柔らかにお願いします」



 ――大好きな女の子2人に仲良く『シェア』されることになりました。



 

「シェアって、二股とは違うんですか?」


 会話がひと段落したのを見計らって、リサさんがどこか興味ありげな様子でアヤネさんにそう尋ねた。



――――――――――――――――――

(あとがき)

オッサン、無事にシェアされることになりました∩(´∀`∩)


ギャルがかわいい♡と思っていただけましたら、作品のフォローよろしくお願いします。


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