1-35 オッサン、ギャルに『シェア』される♡♡

「わはああああっ!! 肉、うまそおおおお!!」


 ミサキさんがジュージューと音を立てる鉄板を前に目を輝かせる。喜び方が海賊王だ。


 テーブルを囲む3人のギャルの目の前には熱々の特上サーロインステーキ。対して俺の手元には平皿に盛られた白飯のみ。


「……」


 自ら招いた結果とは言え、あまりにも寂しい。せめて漬物ぐらいは欲しいところだが……。無いか。ここ、ファミレスだし。


「いっただっきまあーす!!」


 ご機嫌な様子のミサキさんが元気いっぱいにステーキへかぶりつく。


 ギャルが美味しそうに肉を頬張る姿は見ていて微笑ましい。口元についたソースなんて、無邪気な感じで可愛らしいったらない。


 ただ今の俺からしたら、その絵面は完全に飯テロである。じゅるり。


「へぇー。初めて食べるけど、けっこう美味しいかも」


 アヤネさんはステーキを上品に切り分けて食べ進めていく。その仕草からは育ちの良さが窺えるし、どこか色気も感じられる。


 ふっくらとした唇に吸い込まれる肉のひと切れひと切れが、その巨大なオッパイの更なる成長の糧とならんことを切に願う。早く揉みたい。


 ポト


「ん?」


 ギャル2人の食べっぷりをヨダレを垂らしながら眺めていると、俺の白飯1色の皿の上に黄色の点が加わる。コーンの粒だ。


 ポトポト


 隣に座る雨宮さんが続けてニンジンとインゲンを皿に追加してくれる。

 

「お兄さんがあまりにも惨めなので、特別にしてあげますよ。感謝してくださいね」


 果たして、これを『シェア』と呼べるのだろうか? 全部ひとカケラずつしかないんだが?


「あの……雨宮さん? お肉は?」


「何言ってるんですか? 図々しいですよ、お兄さん」


 雨宮さんは鉄板を遠ざける。それ、全部俺の奢りなんだが?


「せめて、ポテトだけでも……」


「イヤです! 私、ポテト好きなので」


 くそう……。


「なるほど。があったか」


 俺が諦めて白ご飯に手をつけたところで、アヤネさんが何かを思いついたような顔をする。


「ねえ、ミサキ……って、口にソースついてるよ」


 アヤネさんがミサキさんの口元を優しく拭く。それは彼ピである俺の役目なんだが?


「ありがと、アヤネ! あーし、アヤネのこと好きかもおー」


「私もミサキのことは好きよ。あなたとはこれからも仲良くしていきたいと思ってる」


「マジ? じゃあ、あーし達、もうだね!」


「ふふっ、そうね。ミサキとお友達になれて、すごく嬉しい」


 俺は2人の会話を見守ることにした。


「あのね、ミサキ。友達の私からひとつ提案があるんだけど、聞いてくれる?」


「ん? なになに?」


 アヤネさんはひと呼吸置いてから真剣な表情で伝える。




「私とミサキで、オジさんを『シェア』しない?」




「ん?」

「え?」

「シェア?」


 俺とリサさんとミサキさんの頭の上にハテナマークが浮かぶ。


「そう、素敵でしょ?」


 アヤネさんは優しく微笑んでから話し始める。


「ミサキはさ、お気に入りの写真や動画があったら、お友達とシェアしてるでしょ?」


「もっちろん!」


「それってどうして?」


「そんなの決まってんじゃん! みんなにも楽しい気持ちになってほしいからじゃん!」


「私も同じ。私はね、それを『幸せのシェア』だと思ってる」


「幸せのシェア。なんかいいじゃん! それ!」


「でしょ?」


 アヤネさんはニッコリと微笑む。


「ミサキはさ、オジさんと一緒にいると幸せでしょ?」


「当たり前じゃん! 超幸せだし!」


「私もね、オジさんの隣を歩いてると、すっごく幸せな気持ちになる。だからさ――」


 アヤネさんはミサキさんの目をまっすぐ見つめる。



『オジさんと過ごすを、今日から私としてほしい。ダメかな?』



 優しく微笑みかけるアヤネさんに対して、ミサキさんは黙って俯いてしまう。


「あぁ……」


 様子を見守っていた俺の口から落胆の声が漏れる。


 けど、当たり前だよな……。いくら『幸せのシェア』だって言っても、写真と恋人じゃあ、まるで話が違う。


 二股を許さないミサキさんが、そんな無茶な提案――


「……じゃん」


 俯いたままのミサキさんが何か呟いたかと思うと、彼女はテーブルへ両手をついて勢いよく立ち上がる。


「いいじゃん、それ!! やろうよ、シェア!!」


 テーブルへ前のめりになったミサキさんは興奮した様子で目を輝かせている。


「えっ、いいの……?」


「ちょっ、なんでそんな意外そうな顔すんのー? アヤネー」


「だって……」


「いいに決まってんじゃん! あーしとアヤネはギャル友だよ! ギャル友同士で好きな人が一緒だったらさ。それはもう、シェアするしかないじゃん!!」


 ミサキさんは腕を組んでフンッと息を吐く。


「ミサキ……」


 アヤネさんの口から安堵の声が漏れる。ミサキさんはソファへ腰を下ろすと、満足げにウンウンと頷いてみせる。


「あーし、そんな当たり前のことにも気づかなかったよぉー。教えてくれて、ありがとね! アヤネ!」


「とんでもない。これからよろしくね、ミサキ」


 2人は心から笑い合うのだった。


「これって……」


 上手くいった……のか?


 2人は幸せそうな顔をしているのに、なぜか心から喜べない自分がいる。


 いくら友達同士だからって、こうもあっさり『シェア』とやらを受け入れられるものなのか……? ただでさえミサキさんは二股が原因で前の彼氏と別れてるのに……。


「どうかした? オッサン?」


 戸惑いが顔に出ていたのか、心配したミサキさんが声をかけてくる。

 

「あの……ミサキさん?」


「なあに?」


「本当にいいんですか……?」


 ――2人一緒に付き合うことになっても?


 彼女の瞳にそう問いかける。すると、とびっきりの笑顔が返ってくる。


「もっちろん! だって、じゃん!」


 楽しそう?


「オッサンもそう思うでしょ?」


 ニコッと笑いかけてくる彼女を見ていると、心がすーっと軽くなっていく気がした。


 ――そっちの方が楽しそうだから。


 そっか……それでいいんだ。


「ははっ」


 自然と笑みが溢れた。


「オッサン、楽しそうだな!」


「はい、とっても!」

 

 ミサキさんのスマホを駅前で拾ってから、ちょうど1週間。平凡な会社員生活を送っていた俺は――


「今日からオッサンは、あーしとアヤネ2人の彼氏だからね!」


「ふふっ、わかりました」


「私とミサキでオジさんのことメロメロにしちゃうから」


「もうメロメロですって」


 ――大好きな女の子2人に仲良く『シェア』されることになりました。



 

「あの、アヤネさん? シェアって、二股とは違うんですか?」


 会話がひと段落したのを見計らって、雨宮さんがどこか興味ありげな様子でアヤネさんに尋ねた。



――――――――――――――――――――――

(あとがき)

ここまでお読みくださり誠にありがとうございます!

面白いかも♩ギャルが可愛い♡と思っていただけたら【作品フォロー】をよろしくお願い致します!


作品を気に入っていただけたら【★の評価】で応援いただけると嬉しいです。あなたの応援を心からお待ちしております(*ᴗˬᴗ)


(レビューリンクはこちら↓)

https://kakuyomu.jp/works/16817330669203808703/reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る