第31話 ギャルは共通の好きな物(オッサン)があればすぐに仲良くなれる(前編)

『デカ乳女、オッパイ見えてんじゃんッ――――!?』

 

 というミサキさんのトンデモ発言によって、一時騒然となったファミレスの店内は、店長である山本の冷静な対応のお陰ですぐに落ち着きを取り戻した。


「くそっ……。さっそくヤツに借りを作ってしまった……」


 俺はドリンクバーで飲み物を注いだグラスを4つトレーに乗せて、4人席のテーブルへ戻る。


「お待たせしました」


 俺は隣同士で座るミサキさんとリサさんへグラスを手渡したあと、2人の向かいに座るアヤネさんの前へグラスを置く。


 そのまま、唯一空席であるアヤネさんの隣へ腰を下ろそうとしたところで、なぜかミサキさんに止められる。


「オッサン、そこじゃないでしょ?」


「え……? ここしか空いてないんですけど……?」


「前にも言ったじゃん! オッサンはだって!」


 いや、まあ、言われたけども……。


 俺より先にアヤネさんが答える。


「そっちには2人いるから、さすがに狭いって。オジさん、男なんだからさ。素直にに座ればいいって」


 アヤネさんはソファを軽く叩いて合図する。


「アンタ、オッサンを誘惑するつもりでしょ! その手には乗らないからね! ほらリサ、もっと詰めて!」


「ええー……狭いよー……」


 ミサキさんは不満げなリサさんを奥へ押し込んで無理矢理スペースを空ける。


「ほら! オッサンはあーしの隣!」


「それじゃあ、お友達が可哀想だって。オジさんは私の隣でいいから」


「え……えっとぉぉぉぉ……」


 俺がどちらに座るか決めあぐねていると、リサさんが口元を押さえ始める。


「ンププッ……だっ、大の大人がオロオロしてるの初めて見た……超面白い……ンプップフフフフッ」


 楽しそうで何よりだ。


「オッサンはあーしの隣!」


「オジさんは私の隣でいいって!」


「ええっとおぉぉぉぉ」


「オッサン!!」


「オジさん!!」


「や、山本おおおおおお――――ッ!?」


 結局俺は2枚目の『お助けカード』を切って、6人掛けの席への移動をお願いした。



 U字型のソファの一番奥へ俺が収まり、俺の隣にはリサさん。ミサキさんとアヤネさんが向かい合って座る。


 お互いを静かに見据える2大ギャルを、俺とリサさんで見守る形となった。


 店の奥にあるU字型のソファ席に緊張感が漂う。


「ごくり……」


 ここは大人である俺の出番だ。この場を有名MCばりに仕切って、3人にとって平和的な解決策を模索す――


「オッサンと別れて!!」


「んー……それは無理かなぁー」


「――って始まっちゃったよ!?」


 俺の2人の彼女――ポニテギャルのミサキさんと谷間ギャルのアヤネさんの戦いの火蓋が切られてしまう。


「ンプププッ……マっ、マンガみたいなツッコミしてるぅぅ……プフフフッ……」


 妹ギャルのリサさんは例のごとく口元を押さえ始める。楽しそうで何よりだ。ホント、何しに来たんだよ、この子……。


 というか、いつの間にか肩が触れそうなほど密着されてるし。


 いくら友達の彼氏だからって、初対面の男相手に距離感が近すぎるぞ。この子はもっと自分が可愛いということを自覚するべきだ。でないと――


 お兄ちゃんが誘拐しちゃうぞッ!


「お兄さん?」


「え? あっ、はい、何ですか?」


 リサさんが真顔で話しかけてきた。


「ニヤニヤしてないで、自分が『二股の最低ヤロウ』だということをちゃんとしてください」


「…………あ。そう……ですね……」


 俺の妹はわりと……いや、けっこう毒舌なのかもしれない。


 とりあえず居住まいを正した俺は、二股の最低ヤロウ……いや、2人の彼氏としてミサキさんとアヤネさんの動向を見守ることにした。


「先に自己紹介しましょうか? 私の名前は藤咲アヤネよ。△△高校2年」


「あーしは月城ミサキ。で、あっちが雨宮リサ。◯◯高2年……」


「同級生なんだ。よろしくね、ミサキ」


 アヤネさんが手を差し出す。


「あーし、と仲良くする気ないし!」


 ミサキさんはプイッとそっぽを向いてしまうのだった。



(つづく)


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