第44話 オッサン、3人のギャルに『シェア』される

「じゃあ、ここで……ここでしてください! そしたら、お二人の関係を認めるっす!」


 町田くんがとんでもない条件を突き出してきた。


「お兄さんと私が、キキ、キス――――ッ!?」


 リサさんを始め、その場にいる全員が目を白黒させる。


「急に何言い出すんだよ!? 町田ああ!?」


 お団子ギャルが声を荒げるが、本人は意に介さない。どこかもう吹っ切れた様子である。


「リサさんが本当にこのお兄さんと付き合ってるなら、キスくらいできますよね?」


「えっ、ここで!?」


「ラブラブの恋人同士なんすよね!!」


「うっ……それは……」


 リサさんはたじろぐ。俺はすかさずフォローする。


「実はね、町田くん。俺たち、キスはまだしたことが――」


「もちろん、できますよ!!」


 えっ!? リサさんっ!?


「私たち付き合ってるんですもん! キ、キスくらい人前でも余裕で出来ますから! ねえ、お兄さん!!」


 やけくそ気味な妹が俺に同意を求めてくる。


「そ……そうですねぇ……」


 もはや後には引けぬ!


「あーし、まだとしかチューさせてもらってないんですけど!?」

「私もまだオジさんとキスしたことないのに!?……って、えっ? 唐揚げ?」


 俺の愛しきギャルたちが声を荒げている。

 ど……どこから手をつければ!?


「さあ、お兄さん! 私とチュウしましょう!」


 考えがまとまらないうちに腕を強めに引っ張られる。

 

「いつものようにをお願いします!」


 ――――大人なキッス!?


「どんなの!?」


 高校生たちが強い関心を示している。が、そんなの俺にも分からんって!?


「舌入れるってこと……?」

「えっ!? ここでディープキス!?」


 するわけないだろ!?


 グッ、グッ


 急かすように袖を引っ張られる。

 

 リサさんには周りの声が聞こえていないのか、俺の顔を見つめたまま潤んだ瞳をフッと閉じてしまう。


「ほ……本当にいいんですか?」


 俺の問いかけに対し、リサさんは目を閉じたままコクッと頷く。


「わかりました……」


 俺は気持ちを落ち着かせてから、リサさんの赤く染まる頬にそっと手を触れる。


 もちろん恥ずかしくないわけがない。

 人前でキスなんてしたことないのに、周りには高校生が10人もいる。


 けど、この子が望んでいるなら、その思いに応えてあげたい。


 俺はほんのりピンク色に染まる唇にゆっくりと顔を近づけていく。つぐんだ小さな唇は微かに震えているように見える。


 周りが固唾を呑んで見守る中、俺は瞳を閉じてリサさんと唇を重ね合う。


「んんっ……」


 彼女の口から微かに声が漏れるが俺は唇を重ね続ける。


 優しく丁寧に、けれどしっかりと愛を込めて口づけを交わしてから、俺はゆっくりと顔を離した。


 リサさんは『ぱはぁ』と可愛らしく息継ぎしてから、トロンとした瞳で俺の顔をぼーっと見つめてくる。


 町田くんを始め高校生たちは呆然としているし、ここに人だかりができていたためか、トイレへ出入りする客たちがこちらを気にする素振りをしている。


「わわっ!?」


 俺とキスを終えたリサさんはようやく自分の置かれた状況を認識したのか、恥ずかしそうに俺の胸に顔をうずめてしまう。


 このままここにいてはマズイと思った俺は町田くんに声をかける。


「これで俺たちが恋人同士だって分かってもらえたかな!?」


「えっ……あ、はいっ」


 町田くんは動揺しつつも答える。


「はい……じゃないだろ、リツ! ちゃんと謝れって!」


 イケメン幼馴染のツバサくんが町田くんの頭を押さえる。町田くんはハッと我に返ると、深く頭を下げる。


「疑って本当にすいませんでしたああ!! それにその……勢いでキスまでさせてしまって……。ほんとーに申し訳ないっす!! なんてお詫びすればいいのか……」


 町田くんがとても心苦しそうにするので、俺は慌てて励ましの言葉をかける。


「い……いいよいいよ!? そんなに気にしなくて!? キミたち以外の人に見られてたわけじゃないからさ。ははははっ……」


 しょんぼりする町田くんをツバサくんがフォローする。


「本当にすいません、お兄さん。コイツ、悪いヤツじゃないんですけど。たまに周りが見えなくなるっていうか……」


「あ、うんうん。あるよね、そういうこと。ははははっ……」


「あの……その子、泣いてたりは……?」


 ツバサくんは俺の胸に顔をうずめたままのリサさんを心配そうに見つめる。


「ああ、この子は大丈夫。ちょっとビックリしちゃっただけだから。……ただ、ここじゃあ落ち着かないだろうし、もっと静かな場所に移動したいんだけど……」


 俺は小さな頭を撫でながら振り返る。

 魂が抜けてしまったようなミサキさんの肩を揺らすアヤネさんと目が合う。


「ごめん、オジさん……先行ってて。ミサキが放心状態。それに私たち4人のこと、みんなにちゃんと説明しておきたい」


「そうだぞ、アヤネ! どういうことか全部話してもらうからうからな!」


 アヤネさんの周りにお友達が集まるのを見て、あとのことは彼女に任せることにした。


 リサさんを連れてエレベーターへ向かおうとすると、町田くんが心配そうな表情で何か伝えたそうにしてるのに気づく。


 俺はくっついて離れようとしない妹へ話しかける。


「町田くんがリサさんに謝りたいそうですよ?」

 

 リサさんが顔をうずめたまま頷くと、町田くんの顔が綻び、彼はそのまま頭を下げる。


「雨宮さん! 本当にすいませんでした! それであの……こんなこと言える立場じゃないってのは分かってるんですけど……」


 言いづらそうにする町田くんに、俺は優しく頷いてみせる。


「あの、雨宮さん。できれば、その……オレとお友達になっていただけないでしょうか?」


 町田くんの心からの願いを聞いたリサさんは、少し間を置いてから顔を動かさずに答える。


「アヤネさんのお友達なら、私とも、もうお友達です。町田さんに好きって言ってもらえて嬉しかったですし」


 まあ、俺なんかよりもずっと男前だもんな。


「それに、今回のこと……町田さんは悪くありません。全部、です」


「えっ? お兄さんの……?」

「えっ? 俺の……?」


 俺と町田くんとその場にいたツバサくんは顔を見合わせる。


「私が恥ずかしい思いをしたのも、全部お兄さんのせいですからね!」


 リサさんは俺の体をギュッと抱きしめる。


「ふふっ、まあそういうことみたいだからさ。今回のこと、町田くんが気にする必要はないよ」


 俺は微笑みながら彼にそう伝えた。


「お兄――」


「お兄さん!! ぱねえっす!!」


 俺の手を握ってブンブンと激しく振ってきたのは町田くん本人ではなく、キラキラと目を輝かせたツバサくんだった。



 2人のイケメンに見送られながらエレベーターの扉が閉まると急に静かになる。


 俺は抱きついたまま離れないリサさんの顔を覗き込むように話しかける。


「何か飲み物でも飲みながら、駅前広場でミサキさんたちが来るのを待ってましょうか?」


「……フラぺちーノがいいです。クリームたっぷりのやつ……」


「ふふっ、分かりました。リサさんだけの特別大サービスです! なので今回のこと、許してくださいね?」


 俺が頭を撫でながら優しく微笑みかけると、リサさんはようやく笑顔を見せてくれる。


「もお、しょうがないですねー。特別に許してあげますよ。だって私はもう……お兄さんのですからね」


 顔を上げたリサさんは幸せいっぱいな表情でそう答えてくれるのだった。


 こうして俺に3人目の恋人ができた。

 けど、浮気でもなければ三股でもない。


 なぜなら、彼女たちは友達同士で仲良く俺を『シェア』しているのだから――


 3人の女子高生にシェアされるという夢のような生活が始まる。




――――――――――――――――――

(あとがき)

オッサン、無事に3人にシェアされることになりました∩(´∀`∩)


ギャルがかわいい♡と思っていただけましたら、作品のフォローよろしくお願いします。


こちらの都合で申し訳ないのですが、★評価は2章開始時にしていただけると嬉しかったりします。

更新を再開した際には応援のほど、よろしくお願いします(。˃ ᵕ ˂。)!

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