1-44 オッサン、妹ギャルに告られる

 エレベーターへ向かう俺とリサさんの前にアヤネさんのお友達のうちのひとり、短髪男子が立ち塞がる。


「好きですっ!! オレと付き合ってくださいっ!!」


 見るからに明るく快活そうな彼はリサさんへ向かってビシッと手を差し出す。


「えっ!? あのっ、そのっ……」


 リサさんの体温の上昇が彼女の肩から伝わってくる。


「一目惚れっす!!」


 清々しいほどハッキリと思いを伝えた彼は、ツバサくんほどではないにしろ男前である。


 短髪でキリッとした顔に身長は俺と同じぐらい。明るく真っ直ぐな男に見えるし、付き合う相手としては申し分ないように思える。……まあ、声が異様にデカいけど。


「出たよ!? 町田の!? お前、しょっちゅう一目惚れしてるじゃん!?」


「うるさいぞ、ヒビキ! 今回は本気だ!」


 お団子ギャルの言葉からすると、どうやら彼は恋多き男らしい。恋多き男は差し出した手を一度引っ込める。


「っと、驚かせてしまって、すみません……。先に自己紹介をするべきでしたね」


 彼は軽く咳払いする。


「オレの名前は『町田イツキ』って言います! △△高校2年。サッカー部っす! ポジションはフォワードっす!」


 出たよ! 陽キャといえばサッカー部!(偏見)


「あっ……えっと……雨宮リサです。その……高2です……」


 顔を赤くして俯きながら答えるリサさんの姿に、町田くんは頭をかきながら苦笑いする。


「突然付き合ってほしいなんて言われても、困っちゃいますよね……?」


「えっと……まあ……」


「なので! まずはお互いを知るためにデートしましょう! オレはでも大丈夫っすよ!」

 

「うえっ!? 今からっ!?」


 リサさんはまんまるお目目を丸くする。


「出たよ!? 町田の!? ってか普通。付き合ってる男がいるか、確認する方が先だろ!?」


「ああ、そっか!」


 さすがフォワード。グイグイくるな。


「雨宮さん!!」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 町田くんが距離を詰めてくる。


「彼氏はいますか?」


「えっ……それは……」


 リサさんの体温がさらに上昇する。


「好きな人がいたりは?」


「す、好きな人は……その……」


 リサさんはわずかに振り返ると、目で何かを訴えてくる。


「むむ」


 なるほどな。どうやらリサさんには『好きな人』がいるらしい。そして、そのことを俺に代弁してほしい、と。


 俺は静かに頷く。


 あとはお兄ちゃんに任せなさい! 大切な妹の思い……しかと受け取った!


 俺は一歩前に出て、告白男子の肩を叩く。


「町田くんといったね? 申し訳ないが、この子……リサさんにはね、好きな人がいるんだ」

 

「そっ、そうなんすかっ!?」


「ああ。リサさんはね、その人のことが好きで好きで堪らないんだ」


 たぶん。


「ふえっ!?」


 すぐ後ろにいるリサさんが驚きの声を上げる。俺は彼女へ向かって軽くウィンクする。


 キミの思いはちゃんと伝えたからね!


 すると、緊張していたリサさんの顔が何かを決意したような表情へと変わる。彼女は俺の隣へ並び立つと、大きく深呼吸してからそっと俺の手を握る。


「ん?」


 小さな手のひらは火傷しそうなほど熱い。


 どうした妹よ?


 リサさんは町田くんの顔をまっすぐ見つめて自分の思いを伝える。


「ごめんなさい、町田さん。あなたとは付き合えません……。私、好きな人がいて」


 フラれてしまった町田くんは愕然とする。


「お……同じ高校の男子っすか!?」


「いえ、その……ここに……」


 ここ? どこ?


 リサさんは俺の手をギュッと握ると……


「私の好きな人は、このです!!」

 

 ボウリング場のエントランスで愛を叫んだ。


「こ、このお兄さんが雨宮さんの好きな人!?」


 町田くんは俺を見ながら愕然とする。


「そう、なんだ!……って、ん?」


 俺?


「…………え?」


 念のため、自分の顔を指で差しながらリサさんへ確認してみる。彼女は顔を真っ赤にしながらもコクンと頷くのだった。


 そっか……好きな人は俺だったのか……って、俺ええええええッッ!? けっこう懐かれてるなとは思ってたけどもっ!?


 俺はもうパニックである。


「私、お兄さんと付き合ってるんです!!」


 リサさんはみんなの前で交際まで宣言してしまう。


 いやまあ、俺も好きだからすでに相思相愛だけども!?


「しかも……ラブラブなんです!!」


 どうやら俺たちはすでに熱愛状態らしい。もはや後には退けぬ!


「そそっ、そういうことなんだ、町田くん。すまないね……」


 彼は呆然としていて返事はない。周りが静まり返る中、背中からミサキさんとアヤネさんの会話が聞こえてくる。


「ええっ? オッサンとリサって付き合ってたの? いつから? ラブラブだって言ってるし。アヤネ、知ってた?」


「あとで説明してあげるから、もうちょっとだけ静かに見守っておきましょうね? ミサキ」


 2人ともわりと冷静なようで安心した。


「………嘘ですよね?」


 ずっと黙っていた町田くんが肩を震わせ始める。


「嘘なんじゃないっすか!? だってこのお兄さん、後ろにいる2人と付き合ってるんですよね!? 彼女が3人いるとか絶対にあり得ないっす!!」


「うっ……」


 いや、ごもっとも。しかし、リサさんは負けじと言い返す。


「そ、そんなことありませんっ!! 私たち、3人で仲良くお兄さんと付き合ってるんです!! 今日だって、みんなで楽しくデートしてたんですからね!!」


「マジっすかッッ!?」


 町田くんはビックリ仰天する。いやまあ、そうなるよねぇ……。


「えっ……お兄さん……?」


 今のはツバサくんの疑念の声だ。いやまあ、そうなるよねぇ……。


 どうしよう……。あとでイケメン幼馴染に『お前みたいな軟派ヤロウにアヤネは任せておけん! 今すぐ別れろ! こらあ!』なんて言われたら……。俺まだ、女子高生の生のGカップを拝んですらいないのに……。


「じゃ……じゃあ……」


 町田くんは何か言いたげに拳をギュッと握る。


「じゃあ、ここで……ここでしてください! そしたら、お二人の関係を認めるっす!」


「え?」

「は?」


 しばし沈黙が流れ。


「お兄さんと私が、キキキ、キスううううッ!?」


 リサさんを始め、その場にいる全員が目を白黒させるのだった。

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