第43話 オッサン、妹ギャルに告られる

 リサさんの肩を押しながらエレベーターへ向かっていたところ、俺と彼女の前にアヤネさんの同級生の男の子が現れる。


「好きです!! オレと付き合ってくださいッ!!」


 明るく快活そうな雰囲気の彼は、リサさんへ向かってビシッと手を差し出す。


「えっ!? あの……その……」


 不意の告白に戸惑うリサさんの肩が一気に熱くなる。


「一目惚れっす!!」


 清々しいほどハッキリと愛を伝えた彼は、ツバサくんほどではないにしろ男前である。


 短髪でキリッとした顔に身長は俺と同じぐらい。明るく真っ直ぐな男に見えるし、付き合う相手としては決して悪くないように思える。

 まあ、声は異様にデカいけど。


「出たよ!? 町田の!? お前、しょっちゅう一目惚れしてるじゃん!?」


「うるさいぞ、ルイ!! 今回は本気だ!!」


 お団子ギャルの言葉からすると、どうやら彼は恋多き男らしい。


「あっと……驚かせてしまって、すいません……。先に自己紹介をするべきでしたね」


 彼は差し出した手を引っ込めると、軽く咳払いする。


「オレ『町田リツ』って言います! △△高校2年、サッカー部っす! ポジションはフォワードっす!」


 出たよ! 陽キャといえばサッカー部!(偏見)


「あっ……えっと……雨宮リサです。その……高2です……」


 顔を赤くして俯きながら答えるリサさんの姿に、町田くんは頭をかきながら、はにかむ。


「突然付き合ってほしいなんて言われても困っちゃいますよね……」


「えっと……まあ……」


「なので! まずはお互いを知るためにもデートしましょう! オレはでも大丈夫っすよ!」

 

「えっ!? い、今から!?」


 リサさんは目を丸くする。


「出たよ!? 町田の!? ってか普通。付き合ってる男がいるか、確認する方が先だろ!?」


「ああ、それもそうだな!」


 さすがフォワード。スピード感がハンパない。


「雨宮さん!!」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 町田くんがリサさんにズイッと詰め寄る。


「彼氏はいますか?」


「えっ……それは……」


 リサさんの体温の上昇が肩から伝わってくる。


「好きな人がいたりは?」


「す、好きな人は……その……」


 リサさんは僅かに振り向くと、何かを訴えるような瞳を向けてくる。


 なるほど。どうやらリサさんには『好きな人』がいるらしい。そして、そのことを俺に代弁してほしい……と。


 俺は静かに頷いてみせる。


 あとはお兄ちゃんに任せなさい! 大切な妹の思い……しかと受け取りましたよ!


 俺は一歩進み出ると、前のめり男子の肩をそっと掴む。


「町田くんといったね? 申し訳ないが、この子……リサさんにはね、好きな人がいるんだよ」

 

「そっ、そうなんすかっ!?」


 俺は優しく語りかける。


「ああ。リサさんはね……その人のことが好きで好きで堪らないんだ」


 たぶん。


「――ふえっ!?」


 リサさんが背中から驚きの声を上げる。

 俺は彼女へ向かって軽くウィンクする。


 すると、緊張していたリサさんの顔が何かを決意したような表情へと変わる。


 彼女は俺の隣へ並び立つと、大きく深呼吸してから俺の手を握る。


「ん?」


 彼女の小さな手のひらは火傷しそうなほど熱かった。


 どうした妹よ?


 彼女は町田くんの顔をまっすぐ見つめて話し始める。


「ごめんなさい、町田さん。あなたとは付き合えません……。私、好きな人がいて」


 町田くんは愕然とする。


「お……同じ高校の男子っすか!?」


「いえ、その……ここに……」


 リサさんは俺の手をギュッと握ると――


「私の好きな人は、このです!!」

 

 ボウリング場のトイレ付近で愛を叫んだ。


「そう、つまりなんだ!…………ん?」


 俺?


「…………」


 念のため、自分の顔を指で差しながらリサさんへ目で尋ねてみる。


 リサさんは顔を真っ赤にしながらもコクンと頷いでくれる。


 そっか……好きな人は俺か…………。


 ――――って、俺ええッッ!?!?


 俺は言葉を失う。


 いやまあ、懐かれてるなとは思ってたけども!?


「私、お兄さんと付き合ってるんです!!」


 リサさんはみんなの前で交際を宣言する。


 いやまあ、俺も好きだから間違ってはいないけども!?


「しかも……ラブラブなんです!!」


 どうやら俺たちはすでに熱愛状態らしい。

 もはや後には退けぬ!


「そそっ、そういうことなんだ、町田くん!? すまない……」


 彼は呆然としている。

 周りが静まり返る中、後ろからギャル同士の会話が聞こえてくる。


「えっ!? オッサンとリサって付き合ってたの!? いつから!? しかもラブラブだって言ってる……。アヤネ、知ってた?」


「あとで説明してあげるから、もうちょっとだけ静かに見守っておきましょうね、ミサキ」


 2人ともわりと冷静なようで安心した。


「………嘘ですよね?」


 ずっと黙っていた町田くんが肩を震わせ始める。


「嘘なんじゃないっすか!? だってこのお兄さん、後ろの2人と付き合ってるんですよね!? 3人とか絶対にあり得ないっす!!」


「うっ……」


 いや、ごもっとも。

 しかし、リサさんは負けじと言い返す。


「そ、そんなことありませんっ!! 私たち、3人で仲良くお兄さんと付き合ってるんです!! 今日だって、みんなで楽しくデートしてたんですからね!!」


「――――マジっすかッ!?」


 町田くんは後ずさる。


「えっ……お兄さん……?」


 今のはツバサくんの声だ。

 いや、まあそうなるよね。


 どうしよう……。あとでイケメン幼馴染に『お前みたいな軟派ヤロウにアヤネは任せておけん! 今すぐ別れろい!』なんて言われたら……。俺まだ、生のGカップを拝んですらいないのに……。


「じゃ……じゃあ……」


 町田くんは何か言いたげに拳をギュッと握る。


「じゃあ、ここで……ここでしてください! そしたら、お二人の関係を認めるっす!」


「え?」

「は?」


 しばし沈黙が流れ。


「お兄さんと私が、キキ、キス――――ッ!?」


 リサさんを始め、その場にいる全員が目を白黒させるのだった。


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