1-43 ただの友達?いいえ、シェア友です!

「今度、アヤネに黙って2人きりで会いたいな♡」

 

「いや、それはできませ――」


 小悪魔ギャルからの秘密のお誘いを断ろうとした俺の耳に聞こえてきたのはギャル達の賑やかな話し声だった。


「リサもオッサンと付き合えばいいじゃん!!」


「いやっ、さすがに私は付き合えないよ!?」


「けど、リサもオジさんのことが気になってるんでしょ?」


「えっ、それは……まあ、その……」


「リサも一緒にオッサンのことシェアしようよー! 楽しそうじゃん!」


「それはまあ、そうかもしれないけど……」


「それにオッサン、言ってたよ? 免許持ってるから、そのうちドライブデートしよっかーって。リサ、してみたいって言ってたじゃん!」


「えっ!? ドライブデート!? してみたい!」


 リサさんは目を輝かせている。


「って、あれ? オッサン、何やってんの?」


 トイレから出てきて女子トークで盛り上がる3人がようやく俺に気づく。


「ははは……やあ、みんな?」


 俺が軽く手を振って答えると、ミサキさんは目を丸くする。


「オッサンが男子に囲まれてされてるんですけど!?」


 いや、違うからね!?


「よっ、アヤネ」


 イケメン幼馴染が声をかける。


「えっ、なんでツバサがここに?……って、げっ!?」


 アヤネさんはギャル友4人の姿を発見して顔をしかめる。


「ちょっと、アヤネ! 親友に向かって『げっ』ってなによ! げっ、て!」


 明らかに塩対応を見せるアヤネさんにお団子ギャルが詰め寄る。その様子を見たミサキさんが小首を傾げる。


「ん? この子たち、アヤネの知り合い?」


「ここにいる8人とも私の学校の友達……」


「おお、アヤネのお友達かぁ! 超偶然じゃん!」


「はぁ……なんでこのタイミングで会うかなぁ……」


 アヤネさんが眉間を押さえる一方、ミサキさんと顔を合わせたお団子ギャルが仰天する。


「って、アヤネの隣にいるの〇〇高校の月城ミサキじゃん!?」

 

「え? あーしのこと知ってるの?」


「知ってるも何も。この辺の高校じゃあ、あんた、アヤネと同じぐらい有名人だって……」


 お団子ギャルは呆れ気味に答えた。


「あーし達、有名人なんだって! やったな、アヤネ!」


 ミサキさんは嬉しそうにアヤネさんへ抱きつく。くっつきギャルの相乗効果がやべぇ。


「そ……そうねぇー……」


 しかしながら、アヤネさんは素直に喜べないといった表情だ。もしかすると、俺たちの関係をまだお友達に知られたくないのかもしれない。


「えっ、2人って知り合いだったの!?」


 けれども、ミサキさんがアヤネさんにあまりにも懐いているもんだから、お友達は不思議がるわけで……


「2人ってどういう関係!?」


 まあ、そう思うわな。


「ミ……ミサキとはただのお友達よ? それより、そろそろ次へ行く時間じゃない? ねえ、オジさん?」

 

「えっ、次……?」


 ポカンとする俺に対して、アヤネさんは目配せしてくる。


「あっ……ああっ! そう……でしたね。そろそろ移動しないとですね。では、俺たちはこの辺で失礼させてもらいましょう」


 俺は一番後ろで縮こまっていたリサさんの後ろへ回り込み、肩に手を乗せる。


「ひゃあっ」


 可愛らしい悲鳴が聞こえた気がしたが、俺は構わず小さな体を押してエレベーターへと向かう。


「ほっ、ほら、ミサキ。私たちも行くよ」


 アヤネさんに手を引かれたミサキさんがなぜかニヤニヤしている。なんか嫌な予感がする……。


「もおー。アヤネってば、恥ずかしがんなくたっていいじゃーん。あーし達、ただの友達じゃないじゃーん」


「えっ!? じゃあどういう関係なんですか!?」


 お団子ギャルが食いついてきた。


「ミサキ!? 答えなくていいから――」


「あーし達ねぇ……」


 ミサキさんがアヤネさんの腕にギュッと抱きついて答える。


「2人で仲良くオッサンのすることになったのー!」


「えっ……ふ、2人で!?」


 アヤネさんのお友達は全員面食らっている。


「そお! あーしとアヤネでオッサンを『シェア』してるんだぞ! いえい!」


 とびっきりの笑顔のミサキさんはピースサインを向ける。


「「オッサンをシェアああああッ!?」」


 お友達は全員目を白黒させる。まあ、当然か。オッサンをシェアする女子高生なんて聞いたことないもんな。


「あっ、あのっ!!」


 不意に正面から声をかけられる。後ろに気を取られていて気づかなかったが、俺とリサさんの目の前に陽キャ男子のうちのひとりが立っていた。


 明るく快活そうな雰囲気の短髪の男の子で、わりと男前である。彼は緊張の面持ちでリサさんへ向けて手を差し出してくる。


「好きですっ!! オレと付き合ってくださいっ!!」


「え?」

「は?」


 しばし沈黙の時間が流れ。


「「ええええええええ――ッ!?」」

 

 突然の愛の告白に、その場にいた全員が驚きの声を上げた。


「一目惚れっす!!」


 短髪男子は清々しいほどハッキリとリサさんへ思いを伝えたのだった。

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