第41話 オッサン、陽キャ軍団に囲まれる。…い、息ができん。

「ツツっ……ツバサくん!?」


 複合施設ラウンドツーのボウリングフロア。

 トイレの入口から少し離れた場所で俺に声をかけてきたのは、アヤネさんの幼馴染にして俺の恋敵でもあるイケメン主人公『ツバサくん』だった。


「どもっ」


「や……やあ……。き、奇遇だねぇ……」


 どうにか笑ってみせるが、たぶん俺の笑顔は引きつっている。


 恋敵といっても、アヤネさんが俺にベタ惚れだから成立している関係でしかなく……。長い手足に小さな顔、まるでイケメン芸能人のようなルックスを見せつけられると、男としての敗北感がハンパない。

 

 というか、この前会ったときは超イケメンに過ぎなかったツバサくんが、あら不思議。数日経っただけで『爽やか超絶イケメン』に進化しているではありませんか!


 高校生にして、すでに男としての魅力がカンストしているんだが?


 俺が彼に『自分を磨いて、アヤネさんを奪いに来なさい』なんて偉そうなコト言ったから、マジでイケメンに磨きが掛かってるんだが?


 まさか本当に俺の天使を奪いに来たのだろうか? え? 早くない?


 俺、まだエッチどころか、アヤネさんのプリプリな唇にチュウすらしてないんだが?


「アヤネは一緒じゃないんですか?」


 爽やか超絶イケメンが爽やか過ぎる笑顔を向けてくる。キラキラしていて直視できない。


「ご……ごめん……。実は一緒なんだよね……ははは。彼女、今トイレに行っててさ……」


 なんか謝ってしまった。


「ははははっ、お兄さんは面白いですね」


 なんか笑われてしまった。


「謝る必要ないですって。お兄さんはアヤネの彼氏なんですから。デートして当然ですよ!」


「かはっ――――!?」


 イケメンの笑顔が眩しすぎて体が動かなくなる。


「――ツバサ? その人、誰?」


 ここでお友達らしき陽キャ男子が3人も追加されて、ますます体が動かなくなる。


「聞いて驚け、お前ら。このお方はな……アヤネの新しい彼氏になった、お兄さんだ!」


 超イケメンがドヤ顔で紹介する。


 ひょぉぉぉぉぉ――――!?


 ただのモブリーマンでしかない俺は心の中で悲鳴を上げる。もう笑顔を維持できない。


「へえー、この人がそうなのか……。こう言っちゃなんだが、なんか普通だな。あのアヤネが好きになるような相手だから、ツバサ並みのイケメンだと思ってた」


「おい、失礼だろ! 男は見た目じゃなくて中身なんだよ!」


 ツバサくんは胸を叩いてアピールする。


「ですよね! お兄さん!」


 超爽やかな笑顔を向けられる。


「そ……そうだねぇぇ……」


 誰か助けて。


「――ああっ! アヤネの彼氏じゃん!!」


 えっ!? まだいるの!?


 陽キャ男子の向こうに側に見知ったギャルたちが現れる。


 以前ショッピングモールで一度だけ顔を合わせたアヤネさんのギャル友4人が男子たちに合流する。


「奇遇だね、彼氏! アヤネとデートか!」


 俺をお試しセフレに誘ってきたギャルが背中をバシバシ叩いてくる。お団子頭をしているから『お団子ギャル』と名付けよう。


「ま……まあ、そんなところです。ははは……」


 リア充陽キャ軍団に囲まれてしまった。汗が止まらない。


「いいよねー、好きぴがいる人は。私とノアにはいないからさ」


 お団子ギャルが小柄なギャルの肩を組む。

 この子は確か自分のことをドSだって紹介してたな。『小悪魔ギャル』と命名しよう。


「私たちだけフリーなんだよねー。いい男がいなくてさー」


「フリー……」


 2人とも可愛いのにな。


「って、ちょっとお兄さん。フリーって言っても『誰にでも股を開く』って意味じゃないからね!」


 お団子ギャルがイタズラっぽく背中を叩いてくる。


「……わかってますよ」


「もぉー、お兄さんのエッチぃぃぃ」


 聞いちゃいねえ。


「ちなみに。こことここが付き合ってて、こっちとこっちも恋人同士」


 お団子ギャルが陽キャグループ内で男女のペアを作る。


「へ……へえ……」


「ねえねえ、お兄さん?」


 小悪魔ギャルことノアさんに袖を引っ張られる。


「アヤネもいないしさ。今のうちに私と連絡先交換しない?」


「えっ、連絡先……?」


 なぜ?


「アヤネの恥ずかしい秘密……色々教えてあげる」


 まったく……なんて悪い子なんだ。小悪魔だけにな!


「是非!」


 俺はスマホを差し出す。


「あっ、ノアだけズルい! 私とも交換しよ! お兄さん!」


 結局、お団子ギャルことヒビキさんとも連絡先を交換した。


「おお!」


 最近追加されたラインの友だちがギャルで埋め尽くされてしまった。


 モテ期か? などとバカなことを考えていると小悪魔ギャルが耳打ちしてくる。


「今度、アヤネに黙って2人きりで会おうね♡」

 

「いや、それはできませ――」


「――リサもオッサンと付き合えばいいじゃん!!」


 俺が小悪魔ギャルからの秘密のお誘いを断ろうとしたところで、女子トイレの入口から賑やかな話し声が聞こえてきた。


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