第28話 ダサい彼氏と最高の彼女
土曜日、朝9時前。
俺はベッドから起き上がり、大きく伸びをする。カーテンを開けると外は快晴だった。絶好のデート日和である。
昨夜はぐっすり眠れたし、なんと清々しい朝だろう。
「……そういえば、誰かからラインが入ってたな」
アラームを止めた時に通知が表示されていたことを思い出した俺はスマホを手に取り、待ち受け画面を表示する。
ミサキ【ぜってー来いよ、オッサン】
ん?
おかしいな。俺の知ってるミサキちゃんは天使のような激カワギャルであって、決してヤンキー少女ではないのだが……。
俺は疑問に思いつつもアプリを開く。
★ミサキ
【今日、ファミレスに11時集合な?】
【ぜってー来いよ、オッサン】
あれ? 駅で落ち合うはずじゃあ……。
俺は不思議に思いつつも、とりあえず返信する。
俺
【おはようございます】
【待ち合わせは〇〇駅でしたよね?】
ミサキさん、なんか怒ってる気がするな。
昨日はいい雰囲気でおやすみを言い合えた気がしてたのに……。
ピロン
さっそく返事が返ってくる。
ミサキ
【おはよう】
【デートなんて行ってる場合じゃねーから】
俺
【何かありましたか?】
ミサキ
【オッサンさ】
【
えっ――――――?
頭の中が真っ白になった。
どうしてそのことを……!?
いつから……!?
頭の中に疑問が湧いては消えていく。
と……とにかく今は返事しないと!?
けど何て言えばいい!? 2人とも好きなのでどちらとも別れたくない、なんて身勝手なことを言うのか!?
ピロン
ミサキ
【怒らないから正直に言ってみ】
彼女のそのひと言で俺は冷静になれた。
俺
【実はミサキさんの他にもう1人、最近付き合い始めた子がいます】
ミサキ
【いつから?】
俺
【2日前です】
ミサキ
【昨日、あーしと会う前にその女とデートしてた?】
俺
【はい】
ミサキ
【やっぱり】
【昨日、オッサンの体から他の女の匂いがしたんだよね】
【首元とか特に】
匂いとか気にもしてなかった。
けど、あれだけアヤネさんに密着されたんだ。彼女の匂いが体についていてもおかしくない……か。
ミサキ
【昨日、その女とラインしてたの?】
俺
【はい……】
ミサキ
【おかしいと思ったんだよね】
【オッサン、あーしとラインするときはすぐ返事くれてたからさ】
【その女とエッチとかチューはしてないよね?】
俺
【してません。ミサキさんともまだなのに】
ミサキ
【なら、ギリ許す】
俺
【許してくれるんですか?】
ミサキ
【ギリだよ、ギリ】
【あーし、二股とかヤだし】
【けど許すしかないじゃん】
【あーし、オッサンのこと超好きだもん!】
【別れるとかありえないからね!】
俺
【ミサキさん……】
ミサキ
【だからその女、ファミレスに連れてきてね!】
【あーしがビシッと言ってやっから!】
俺
【何をですか?】
ミサキ
【そんなの決まってんじゃん!】
【オッサンはあーしのオッサンだぞ!って】
【これ以上手え出すなよ!って】
【その女に直接言ってやるの!】
【オッサンはあーしが守ってやるからな!】
ミサキさんの漢気が溢れている。
というか、どうしよう……。
今すぐアヤネさんと別れるという選択肢は今の俺にはなかったりするんだけどな……。
ミサキ
【てか、その女といつ知り合ったの?】
【あーしと会う前?】
俺
【いえ、3日前です】
ミサキ
【3日前!?】
【それでもう付き合ってんの!?】
【その女、即落ちじゃん!?】
いや、ミサキさんもわりと早かった気がするけど。
ミサキ
【ん?】
【3日前って、あーしと宿題した日だよね?】
【てことは、まさかあの
たぶん合ってるけど、言い方ぁぁぁ!
俺
【そう……ですね】
ミサキ
【意味分かんないし!】
【アイツ、オッサンのこと誘惑してたけど、すぐ帰ったじゃん!】
俺
【それはその……】
【次の日、あの子と色々ありまして……】
ミサキ
【色々って?】
俺
【そ、それはまた会ったときにお話しします……】
ミサキ
【あのデカ乳にチンチン挟まれたりしてないよね?】
俺
【もちろん、
ミサキ
【まだ……?】
あっ……。
ミサキ
【ま、いいや】
【アイツを片付けたあとで、じっくり話を聞かせてもらうから】
え? ミサキさん、何するつもり?
ミサキ
【とにかく!】
【オッサンはデカ乳女をファミレスに連れてきといてね!】
【わかった?】
俺
【は、はい!】
ミサキ
【じゃあまたあとでね!】
俺は大きく息を吐いてからスマホをテーブルの上に置く。
とりあえずミサキさんとは別れずに済んだ。が、このままだとアヤネさんと別れることになってしまう……。
「……別れたくない」
――このまま2人一緒に仲良く付き合いたい。
そんな都合のいい話があるわけないと思いつつも、気づけば俺はアヤネさんに相談していた。
●アヤネ
【やっぱあの子にバレたんだ】
【まあ、あれだけ
――マーキングッ!?
アヤネ
【それで?】
【オジさんはどうしたいの?】
俺
【このまま2人と付き合いたいです】
【自分勝手なお願いなのは重々承知です】
【けど、俺】
【アヤネさんのこともミサキのことも大好きなので】
アヤネ
【わかった】
【なら、私が頑張るしかないよね】
俺
【えっ?】
アヤネ
【前に言ったでしょ】
【オジさんのして欲しいこと、何でもしてあげるって】
【オジさんが2人一緒に付き合いたいって言うならさ】
【私が叶えてあげるしかないじゃん!】
俺
【すごくダサいですね……俺】
【二股したのは俺なのに、それを続けたいって彼女にお願いして……】
アヤネ
【気にしなくていいって】
【だって……】
【
「アヤネさん……」
ホント……この子には敵わないな。
俺
【すごくかっこいいです】
【惚れそうです】
アヤネ
【何言ってんの?】
【オジさん、前から私にメロメロじゃん笑】
俺
【確かに笑】
アヤネ
【それにさ】
【私、ミサキとは仲良くやっていける気がするんだよね】
【なんか気が合いそうっていうかさ】
【ギャル同士だし笑】
【2人ともオジさんのこと大好きだから笑】
俺
【なんだか照れます】
アヤネ
【おい】
【二股してるヤツが照れるなよ】
俺
【す、すいません……】
アヤネ
【冗談だって笑】
【じゃあ、私が先にファミレスで待ってる感じにしよっか】
【オジさんがそこにミサキを連れてくるってことで】
【よろしくね】
俺とアヤネさんは10時半に駅前で落ち合う約束をしてラインを終えた。
「まさかこんな展開になるとは……」
だからといって、二股でピンチな状態であることに変わりはない。
アヤネさんは『任せておけ!』って頼りになることを言ってくれてるけど、俺にだってやれることがきっとあるばすだ!
「…………いや、ないか」
俺が原因でこんなことになってるんだし……。
「とりあえず出かける準備しよっ」
俺は洋服タンスを開く。
「……ん? 二股を許してもらうときの服装って何がいいんだろう? スーツか?」
などと訳の分からない思考になっている自分を淹れたてのコーヒーでいったん落ち着かせてから、半袖シャツに綿パンという無難な休日スタイルに着替える。
デートであることに変わりはないので、普段より身だしなみチェックを念入りに行ってから、俺は決戦の地――ファミレス『ダニーズ』へと向かうのだった。
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