第27話 オッサン、ラインでやらかす。…あ、オワタ
「さすがに疲れたなー」
風呂上がり。バスタオルで体を拭きながら首を回す。
女の子とはいえ、高校生を背負ってぶっ通しで歩き続けた体は疲労困ぱいである。まあ、カッコつけて休憩しなかった俺が悪いのだが。
その代わりミサキさんはすごく喜んでくれたけどな。
『オッサン、けっこう力持ちじゃぁん♡ あーし、惚れ直しちゃったかもぉ♡ 細マッチョなオッサンにぃ……激しく求められたらぁ……あーしの体が耐えられるか心配なんですけどおおおお――――ッ♡』
駅前の広場だというのに、なぜかスイッチの入ってしまったミサキさんを落ち着かせるのはけっこう骨が折れたな……ははっ。
俺は軽く笑いながら寝巻きを着て、部屋のテーブルの前へ腰を下ろす。
スマホには2人のギャルからのメッセージが届いていた。
先に美人ギャルことミサキさんの方を確認する。
★ミサキ
【超かわいいんだけど笑】
【動画】
送られてきた動画にはヨチヨチと歩くペンギンたちの行進が映し出されていた。電車で1時間ほどで行ける水族館で会えるようだ。
俺
【可愛いですね笑】
【明日は水族館デートにしましょう!】
返信し終わった俺は巨乳ギャルことアヤネさんからのメッセージを確認する。
●アヤネ
【明日の夜、お父さんがいないからさ】
【晩ご飯だけでも食べに来る?】
【お母さんがいいよって】
【お泊まりはダメだけどね笑】
【ちなみにお母さんはHカップ笑】
ええええ、Hカップ――――ッ!?
とても魅力的なディナーのお誘いだった。そんなの行かないわけにはいかないよなぁ?
ミサキさんとは昼間に会うし、晩ご飯ならいけるはずだ。
俺
【せっかくなのでお言葉に甘えようかな】
【何時からですか?】
俺はそう返信してからミサキさんのトークルームへ戻る。
★ミサキ
【オッサン、分かってるじゃん!】
【じゃあ11時にあーしの家の駅で待ち合わせね】
【向こうに着いてからランチ食べて】
【そのあと水族館かな】
【夜はこっちに帰ってきてから一緒に食べるでいい?】
俺
【すいません、夜は予定があって……】
ミサキ
【え? 何時から?】
俺はすぐさまアヤネさんのトークルームへ戻って時間を確認する。
●アヤネ
【夕方6時でどうかな、だって】
【Hカップのお母さんが言ってる笑】
ええええ、Hカップ――――ッ!? じゃなくて、えーっとディナーは……6時からだな!
俺
【6時から予定があるんです】
アヤネ
【え?】
【オジさんさっき、夜ならいけるって言ってなかった?】
【夕方の6時から予定があるの?】
「……ん?」
って、返信先を間違えたああああ――!?
俺
【6時まで、の間違いです笑】
【うっかりしてました笑】
【その時間で大丈夫ですよ!】
俺はアヤネさんへメッセージを改めて送信してから、ミサキさんのトークルームへ戻る。
★ミサキ
【オッサン、なんか今日返事遅くない?】
【もしかして他のことしながらラインしてる?】
【あっ、わかったぁ】
【エロ動画見ながらラインしてるだろー笑】
少し目を離した隙に、ちょっと不審がられている!?
で、できるだけ普段どおり返事するよう心がけよう。別に後ろめたい気持ちがあるからではないからな。
俺
【すいません、ちょっとトイレに行ってて】
【明日は夕方6時まででもいいですか?】
ミサキ
【わかった】
【予定があるならしょうがないもんね】
【大丈夫だよ、オッサン!】
【あーし、いい子だから我慢できるもんね!】
うっ……すごく罪悪感が……。
ミサキ
【ちなみにオッサンは何の魚が好き?】
【あーしはねえ、ペンギン!】
え? 魚? ペンギン……?
海の生き物という意味だろうか……?
と……とりあえず、一度アヤネさんの方へ戻ろうっ!
●アヤネ
【オジさん、好き嫌いある?】
こっちは好き嫌いぃ――!?
「えーっと……」
早く返信してミサキさんの方へ戻らないとっ!?
俺
【イルカが好きです!】
よしっ! 次いぃっ!
★ミサキ
【あーしね、ラッコも好き!】
俺
【好き嫌いはありません!】
「送信!」
これでどうにか間に合っただろ。
「ふぅ……」
女の子2人相手にラインはするもんじゃないな。返信が早過ぎて対応しきれない。
ピロン、ピロン
「うぐっ……」
さすが令和のギャル。ラインの返信がマジで早い。休む暇すら与えてもらえないとはな……。
まあ単純に、2人同時にラインを初めてしまった俺が悪いんだけど。
俺は軽く首を回してからメッセージを確認すゆ。
★ミサキ
【好き嫌いがないとか意味分かんないし!笑】
【食べ物かよ!笑】
●アヤネ
【いや、イルカは食べないでしょ笑】
「……………………ん?」
内容が理解できなかった俺はそれぞれのトークルームを遡る。
そして気づく。
「――返信先が
ピロン、ピロン
ひとりで狼狽えていると、追撃とばかりにスマホが鳴る。
ミサキ【他の人とラインしてる?】
アヤネ【あの子とラインしてるの?】
「あっ……」
俺はスマホをそっとテーブルへ置く。
「……なんか喉が渇いたな」
冷蔵庫へ行き、コップへ注いだ牛乳を飲み干してから大きく息を吐く。そして決意する。
「正直に言って、謝ろう」
俺はテーブルへ戻りスマホと向き合う。
とりあえずアヤネさんからだな。今の三角関係を一応は認めてくれてるし。
俺はスマホへ真剣に向き合いながらアヤネさんへメッセージを送信する。
俺
【すいません、今ミサキさんともラインしてます】
【返信先を間違えてしまったみたいで……】
アヤネ
【別に謝らなくてもいいって】
【正直に答えてくれてスッキリした】
やっぱ、アヤネさんは天使だなぁぁ。
アヤネ
【あの子の名前、ミサキっていうんだ】
【で】
【明日、その子と水族館デートってところ?】
【へえー、そっかそっか】
あ……あれ?
俺
【アヤネさん、怒ってますか?】
アヤネ
【別に怒ってないって】
【明日の夕方はウチへ来てくれるんでしょ?】
俺
【それはもちろん!】
アヤネ
【絶対だよ!】
【お母さんと一緒にオジさんが喜ぶおもてなしするから】
俺
【喜ぶおもてなし?】
アヤネ
【え?】
【それはほら、裸エプロン……とかかな?】
裸エプロン――ッ!?
GカップとHカップ夢の共演で裸エプロン――ッ!?
俺
【絶対行きます!】
アヤネ
【やっぱしない】
俺
【え?】
アヤネ
【つい言っちゃっただけだから!】
俺
【そんなぁー】
アヤネ
【てか、お母さんがするわけないじゃん!】
俺
【アヤネさんはしてくれるんですか?】
アヤネ
【え?】
【まあ、ちょっとぐらいなら】
俺
【じゃあ、お礼にお尻ペシペシしてあげますね笑】
アヤネ
【やめろ笑】
【想像しちゃっただろ!笑】
俺
【アヤネさん、かわいい笑】
アヤネ
【あの子ともラインしてるんでしょ】
【こっちはもういいから、あとはあの子としてあげてね】
【明日〇〇駅に夕方6時ね】
【おやすみ】
俺
【わかりました】
【おやすみなさい】
いやぁぁ、アヤネさんってホント天使だよなぁぁ……って、浮かれてる場合じゃないな。ミサキさんにも謝らないと!
俺は緩み切った顔を引き締めてからミサキさんへメッセージを送信する。
俺
【ミサキさんの言うとおり、他の人ともラインしてました】
【返信先を間違ったみたいで……】
ミサキ
【やっぱり】
【おかしいと思ったんだよね】
俺
【すいません、混乱させてしまって……】
ミサキ
【別にいいよ】
【あーしもたまにやっちゃうし】
【正直に言ってくれてありがとね、オッサン】
俺
【当たり前じゃないですか】
【俺、ミサキさんには嘘をつきたくないので】
ミサキ
【嬉しい】
【あーし、愛されてるね笑】
俺
【超愛してます!笑】
【(´。-ω(-ω-。`)ぎゅっ】
ミサキ
【やめろ笑】
【寝れなくなるだろ!笑】
俺
【明日のデート、楽しみにしてますね】
【おやすみなさい、ミサキさん】
ミサキ
【おやすみ、オッサン】
【あーしからのおやすみのチュー( ˘ ³˘)】
俺
【こっちも眠れなくなりますって!笑】
ミサキ
【もおー!】
【ラブラブすぎて、ラインが終わらないんですけどおー!笑】
俺
【ちゃんと寝てくださいねヾ(´ᵕ`*)ヨシヨシ】
ミサキ
【にゃん♡】
ミサキさんも超天使じゃんッ――!!
「2人ともいい子すぎて、どっちかひとりなんて選べないって!!」
俺はベッドへダイブして足をバタつかせる。
「よし! 決めたぞ!」
とりあえず明日は、ギャルたちとの初めての休日デートを思いっきり楽しもう!
先のことを考えるのは……来週……そう! 来週からにしよう……うん、そうしよう!
「そうと♩ 決まれば♩ 今日は♩ 早く寝よおー♩」
俺は鼻歌混じりに寝支度を調えていく。
「明日も2人とデートできるとか最高だなー♩」
俺はベッドへ横になり、それはそれは晴れやかな気持ちで眠りについたのだった。
◆
翌朝。
俺のスマホに一件のメッセージが届いていた。
ミサキ
【今日、ファミレスに11時集合な?】
【ぜってー来いよ】
「…………」
俺の激カワギャルが、なぜかヤンキー化してるんだが?
――そしてついに『運命の日』が訪れる。
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