1-27 オッサン、ラインでやらかす。…あ、オワタ(前編)

「さすがに疲れたな……」


 風呂上がり。体を拭きながら首を回す。


 女の子とはいえ、高校生を背負ってぶっ通しで歩き続けた体は疲労困ぱいである。まあ、カッコつけて休憩しなかった俺が悪いのだが。


 その代わりミサキさんはすごく喜んでくれた。


『オッサン、けっこう力持ちじゃん♡ あーし、惚れ直しちゃったかもぉ♡ 細マッチョなオッサンに激しく求められたらぁ……あーしの体が耐えられるか、心配なんですけどおおおおおッ♡』


 駅前の広場だというのに、なぜかスイッチの入ってしまった暴走ギャルを落ち着かせるのはけっこう骨が折れた。


「ふふっ」

 

 俺は思い出し笑いをしながら寝巻きを着て、髪の毛を拭きながらテーブルの前へ腰を下ろす。スマホを確認すると、2人からのメッセージが届いていた。


 美人ギャルことミサキさんの方から確認する。


★ミサキ

【超かわいいんだけど笑】

【動画】


 送られてきた動画にはペンギンたちのヨチヨチ歩きの行進が映し出されていた。電車で1時間ほどの水族館で撮られたモノらしい。


【可愛いですね笑】

【明日は水族館デートにしましょう!】


 返信し終わった俺は巨乳ギャルことアヤネさんからのメッセージを確認する。


●アヤネ

【明日の夜、晩ご飯だけでも食べに来る?】

【お母さんがいいよって】

【お泊まりはダメだけどね笑】

【ちなみにお母さんはHカップ笑】


 ええええ、Hカップうううううッ!?


「マジかよ!?」


 とても魅力的なディナーのお誘いだった。将来、義理の母親になるかもしれないし、一度会っておかないとな。うん。


 昼間はミサキさんと水族館。夜はアヤネさんの自宅で晩ご飯。よし、完璧だ。


【せっかくなのでお言葉に甘えようかな】

【何時からですか?】


 俺はそう返信してからミサキさんのトークルームへ戻る。


★ミサキ

【オッサン、わかってんじゃん!】

【じゃあ11時に駅で待ち合わせね】

【向こうに着いてからランチ食べて】

【そのあと水族館かな】

【夜はこっちに帰ってきてから一緒に食べるでいい?】


【すみません、夜は予定があって……】


ミサキ

【え? 何時から?】


 俺はすぐさまアヤネさんのトークルームへ戻って時間を確認する。


●アヤネ

【夕方6時でどうかな、だって】

【Hカップのお母さんが言ってる笑】


 ええええ、Hカあああああップ!? じゃなくて、えーっと……6時からだな!


 ミサキさんのトークルームへ戻る。


【6時からです】


★ミサキ

【オッサン、今日返事遅くない?】

【いつもはすぐにくれるよね?】


 ギクッ!? なんか不審がられてる!?


 というか、よく考えたら俺って今、二股してる女の子たちと同時にラインしてるな……ミスったかも。


「とっ、とりあえず、返信だっ!」


【すみません、ちょっとトイレに行ってて】

【明日は夕方6時まででもいいですか?】


★ミサキ

【わかった】

【予定があるならしょうがないもんね】

【大丈夫だよ、オッサン!】

【あーし、いい子だから我慢できるもんね!】


「うっ……」


 とてつもない罪悪感が……。


★ミサキ

【ちなみにオッサンは何の魚が好き?】

【あーしはねえ、ペンギン!】


 え? 魚? けど、ペンギンって……? 海の生き物という意味だろうか?


「と……とりあえず、一度アヤネさんの方へ戻ろうっ!」


●アヤネ

【オジさん、好き嫌いある?】

【お魚とお肉はどっちが好き?】

【Hカップのお母さんが教えてほしいって笑】


 ええええ、Hカあああああップ!? って、違う!?


「えーっと、魚……魚……海の生き物……」


 考えている時間はないっ! 早く返信してミサキさんの方へ戻らなければっ!


「あっ、そうだ」


 その時、俺の頭に浮かんだのは『ヨチヨチ歩きの可愛らしい行進』だった。


【ペンギンが好きです】


 よしっ! 次っ!


★ミサキ

【あーしね、ラッコも好き!】


【好き嫌いは特にありません!】


「送信、っと。ふぅ……」


 どうにか間に合っただろ。


 にしても、女子高生2人相手にラインはするもんじゃないな。向こうの返信が早過ぎて対応しきれん。


 ピロン、ピロン


「うっ……もう返事が返ってきた……」


 さすが現役女子高生ギャル。ラインの返信がマジで早い。ひと息つく暇すら与えてもらえないとは。まあ、俺が悪いんだけど……。


 俺は軽く首を回してからメッセージを確認する。


★ミサキ

【好き嫌いがないとか意味分かんないしー笑】

【食べ物かよ!笑】


●アヤネ

【いや、ペンギンは食べないでしょ笑】


「……………………ん?」


 内容が理解できなかった俺はそれぞれのトークルームを遡る。


 そして気づく。


「返信先がになってるじゃん!? 俺、バカなの!?」


 ピロン、ピロン


 自分で自分にツッコミを入れていると、追撃とばかりにスマホが鳴る。


ミサキ【他の人とラインしてる?】


アヤネ【あの子とラインしてるの?】


「あっ……」


 俺はスマホをそっとテーブルへ置く。


「なんか、喉が渇いたなー」


 冷蔵庫へ行き、麦茶をコップへ注いで一気に飲み干す。


「ふぅ……」


 正直に言おう。

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