第26話 ギャルはオッサンと遠回りして帰りたい

【ファミレスの前で待ってます】


「送信っと」


 美人ギャルことミサキさんがアルバイトをしているファミレスの前に到着した俺は彼女宛にラインを送る。


 スマホをポケットへしまい。手首にぶら下げていたビニール袋から熱々の『カラアゲさん』を取り出す。


 彼女のために買ったコンビニ唐揚げだが、匂いを嗅いでいるうちにお腹が空いてきてしまった。ひとつだけつまませてもらおう。


 唐揚げを1個つまんで口へ持っていこうとしたところで自動ドアが開き、誰かが飛び出してきた。


「オッサーーーーン!! チュうううううう――――!!」


 口を尖らせた制服姿の美人ギャルが俺へ向かってダイブしてくる。


「ちょっ――――!?」


 俺はとっさに手にした唐揚げを唇の前へ持ってくる。そのまま俺は突っ込んできたギャルに押し倒されてしまう。


「チュうううう……うう? オッサン、なんか唐揚げクサいし……って、また唐揚げじゃんッ――――!?」

 

 危なかった……。

 今の神状態でギャルと口づけなんかしてみろ。きっと舌を入れた濃厚キッスになってしまう。


 濃厚キスなんかしてみろ。そのまま部屋へ直行だ。明日は休みだし、きっとセックス三昧になってしまう。そんなの彼女の親に合わせる顔がない。


 俺は体に抱きつくギャルの頭を撫でながら唐揚げを食べさせる。


「お疲れ様です、ミサキさん。お腹が空いてるかなと思って買ってきました」


 ギャルは不服そうにしながらも口をモグモグさせる。


「ぶうー……そりゃあ、お腹は空いてるよ。バイト頑張ったし。けど、オッサンとチューしたいんだけど! なんでさせてくれないの!」


 1日会わなかったせいか、いつにも増して気持ちが前に出ている。


「き、今日はもう遅いですから、明日……そう! 明日しましょう!」


「え? 明日……? 明日会ってくれるの?」

 

「もちろんです! 俺と一緒に休日デートしましょう!」


 俺の誘いにギャルは目を輝かせる。


「休日デート! 行きたい! あっ、けど……お昼ぐらいからでいい?」

 

「構いませんけど……もしかして予定がありましたか?」


「初めての私服デートだよ! 気合い入れて行きたいじゃん!」


「ふふっ、わかりました。とりあえず立ちましょうか」


 押し倒されたままの俺はギャルの頭を撫でながらお願いするが、彼女は俺の体に頬ずりし始める。


「んふふぅー、そうするぅー」


「あの……ミサキさん?」


「いいじゃん! ちょっとぐらい! 誰もいないんだし!……ん? くんくん」


 ミサキさんが鼻をヒクヒクさせる。


「どうかしましたか?」


「う、ううん……なんでもなーい」


 なぜか急に大人しくなったミサキさんは俺の体から静かに降りる。


 ようやく立ち上がれた俺は女の子座りする彼女へ手を差し伸べる。


「行きましょうか?」


「疲れたから歩けないかもぉー。だから、おんぶしてえー」


 彼女は俺へ向かって、あざと可愛く両手を差し出してくる。


「おおっ、おんぶ!?」


「そ、おんぶうぅー」


 激カワギャルに小さな女の子のようにおねだりされて断れるはずもなく。


「ど、どうぞ……」


 俺がしゃがんで背中を差し出すと、彼女はすぐに背中へ乗ってくる。


「オッサン、だーい好き!」


 ミサキさんは甘えるように俺の頭へ頬を擦り付けてくる。


 誰かをおぶるのなんていつぶりだろうと思いつつ、彼女の太ももを両手で支えながら立ち上がると駅へ向かって歩き始める。


 ミサキさんの生の太ももは驚くほどスベスベだ。見た目は細いのにちゃんとムチムチしていて触り心地がいい。


「ちょっと、オッサン! 太ももの裏がくすぐったいじゃん!」


「あっ、すいません……」


 無意識にギャルモモをさすってしまっていた。うっかりうっかり。


 ただ、胸が背中に押し当てられているのに、不思議と前ほどのトキメキがない。


 背中にギャルのふわふわオッパイが当たっているのは確かだが、ボリューム的に物足りなさを感じてしまっている自分がいる。


 まったく……いつからそんな贅沢な男になったんだ、俺は……。男たる者、すべてのオッパイに等しく敬意を示すべきである。


「……んん? くんくん」


 俺が全身全霊をもってオッパイの感触を楽しませてもらっていると、背中にいるミサキさんが首元の匂いを嗅いでくる。


「すいません、汗臭かったですか?」


「えっ!? そ、そんなことないよ……。あ、そこ左だし!」


「えっ? 駅はここをまっすぐですよ?」


「今日はオッサンと、遠回りして帰りたい気分なのぉぉぉ!」


 ミサキさんは俺の首をギュッと両手で抱きしめた。


「ふふっ、わかりました。けど、疲れたら休憩させてくださいね?」

 

「特別に許可したげる! ほら、オッサン、口開けて。カラアゲさんあげる」


 俺は彼女と一緒に唐揚げを頬張りながら、できるだけ遠回りをして駅へ向かうのだった。


 このときの俺はまだ気づいていない。


 ――自分がすでにを犯してしまっていることに。


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