第17話 巨乳ギャルはオジさんをデートへ誘いたい

「ねえ、オジさん。あの子、パパ活?」


「はい?」


 甘ったるい声に振り返ると、俺のすぐ横に巨大なオッパイが……じゃなくて、斜め向かいにいたはずのタレ目のセクシーギャルが座っていた。香水だろうか。巨乳ギャルからはめちゃくちゃいい匂いがする。


「……って、なんでここに!?」


「なんでって、オジさんと話がしたいから」


「えっ、俺と?」

 

 それにしても間近で見ると、ものスゴい迫力である。何がとは言わないが。


「あの子と随分仲良いよね? いくら払ったの?」


「払う……? ああ、いや。俺たち、そういうやましい関係じゃないんです」


「えっ? じゃあ、オジさん、あんな可愛い子と付き合ってるの?」


「いや、付き合ってるかと言われれば、まだな気もしますけど……。あの子と知り合ってから4日しか経ってないので」


「4日!? それであの子、あんなにメロメロなの? オジさんのエッチが超気持ちいいとか?」


「な、何言ってるんですか!? あの子とはエッチどころか、キスもしたことありませんって!?」


「キスもまだなの!? オジさん一体何者……?」


「た、ただのサラリーマンですけど……」


「ふうーん……」


 巨乳ギャルは品定めでもするかのように俺の容姿をひと通り確認したあと、テーブルへ目を向ける。


「このストラップ、あの子とお揃いなんだ」


 俺のスマホを手に取った彼女は緑色のビーズストラップを指で軽くつつく。


「ええ、まあ……」


 俺は一度トイレへ目を向ける。

 ミサキさんの姿はまだない。こんな場面を彼女に見られたら誤解されることは必死だ。


「あの子、そろそろ帰ってくるかもね」


「えっ……うおうっ!?」


 振り返ると巨乳ギャルの顔が間近に迫っていた。


「ふふっ。オジさん、ビビリすぎだって」


 巨乳ギャルは楽しそうに微笑みながら顔を離す。


「し、仕方ないでしょ!? キミみたいな美人の顔に迫られたら普通焦りますって!?」


 色んな意味で心臓に悪い。ミサキさんがこの場にいなくて本当によかった。


「ねえ、オジさん。明日の夕方6時ごろ、駅前に来れる?」


「え? 明日?」


 確かミサキさんはお友達と遊ぶって言ってたような――


『明日は久しぶりにリサたちと買い物しなきゃなんだよね。だからオッサンとは会えないかも……。あっ、そうだ! オッサンも一緒にあーし達と買い物すればいいじゃん! ギャルが5人もいてハーレムだぞ!』


 丁寧にお断りした。リア充、陽キャ人生を歩んで来なかった俺には荷が重すぎる。


 だからまあ、予定がないと言えばないのだが……。


「まあ、行けますけど……」


「じゃあ、明日駅前で待ってるね」


 ニッコリと微笑んだ巨乳ギャルの手元に、どこか見覚えのある『緑色のストラップ』がぶら下がっている。


「あれ? それって……?」


「そう、オジさんのヤツ。これはってことで」


「人質……? って、いつの間にっ!?」


 テーブルを見ると、俺のスマホからストラップが消えている。えっ、手品?


「ちょっと、返してくださ……って、いないっ!?」


 巨乳ギャルはすでに自分の席へ戻っていた。


「あのッ!?」


 俺は慌てて声をかけるが、彼女は友達と共にすでに帰り支度を始めている。


「ごめん。私の分のトレーもお願い」


 巨乳ギャルは友達を先に行かせると俺にストラップを見せてくる。

 

「もおー、分かるでしょ? このストラップを返してほしかったら、明日私としてねってこと」


「は?」


「ちょっとぐらい遅れても許してあげるから、ちゃんと来てよ。じゃあね、オジさん。チュッ」


 巨乳ギャルは俺に向かってお別れの投げキッスをしてから友達と合流する。


「ねえ、またパパ活?」

「違うって。普通にデートする」

「えっ!? デート!? あんなヤツのどこがいいの?」

「これから見つける」

「なにそれ、意味分かんないって」


 3人の会話は聞き取れなかったが、ギャル達はケラケラと笑いながら階段を降りていった。


 残された俺は呆然としたままソファへ腰を下ろす。

 

 え? ドユコト?


 彼女の真意が分からない。あんな可愛い子がたまたま居合わせたサラリーマンとデートしたくなるものなのか?


 俺はストラップの外れたスマホを掲げながら首をひねる。美人の女子高生に気に入られる要素があったようには思えないのだが……。

 

 まあ、とにかく明日、ストラップは返してもらわないとな。ミサキさんの自撮りコレクションが更新されなくなってしまう。もうアレなしでは生きていけない。


「――あ、アイツ帰ったんだ」


「うおうっ!?」


 突然耳に入ってきたミサキさんの声に、俺は危うくスマホを落としそうになる。


「ん? オッサン、どうかした?」

 

「いえ、別に……」


 いつの間にやらトイレから戻っていたミサキさんに気づかれないように、俺はストラップの外れたスマホをポケットへこっそりしまい込む。


 ミサキさんは特に気にする様子もなく俺の隣へ座ると宿題を再開させるのだった。


「あーしの頭ナデナデしといてね。宿題頑張れる気がするから」


 そう可愛くお願いする彼女の頭を優しく撫でながら俺は決意する。


 オッパイなんかに負けない! 俺は必ずこの子の元へ戻ってくる!


 俺が気合い一発フンッと鼻を鳴らす一方、ミサキさんは手を動かしながら嬉しそうに話し始める。

 

「あーしの家ね。今日のおかず、唐揚げなんだあー。お母さんがね、バイト頑張ったご褒美に揚げたてを食べさせてくれるんだってえー。超楽しみだし! オッサンもそのうち、ウチでご飯食べられたらいいのにね!……ちなみにさ。オッサンは晩ご飯の、何にするの?」

 

「それはもちろん『巨乳女子校生モノ』で1発……あっ」


「……」


 ギャルはおもむろに筆箱へ手を突っ込むと、蛍光ペンを2本取り出して両手に構える。


「ミ、ミサキさん……?」


「そっちのじゃねーし!!」


 俺の両方の鼻の穴に蛍光ペンが突き刺さるのだった。


 これが2人目のギャル、大人の色気を存分に漂わせたしっとり美人『藤咲アヤネ』との出会いである。


 俺は明日、人質を取り戻すために彼女とデートをする!

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