第15話 ギャルはオッサンとくっつきながら宿題をしたい

「ああんっ」


 19時過ぎ。マッグ3階フロアにギャルの喘ぎ声が響く。バイト用のよそ行きボイスが残っていたせいで妙に色っぽい。


「ちょっ――――!?」

 

 非常に気まずい。その場に居合わせた客の視線が痛いったらない。


 幸いといってはなんだが、客席は4分の1ほどしか埋まっていなかったので大事故には至らなかった。


 俺は立ち上がり、周りに向けて軽く頭を下げてから、なぜか顔を上気させている彼女に耳打ちする。


「ちょっと、ミサキさん!? 変な声、出さないで下さいよ!?」


「だって、しょーがないじゃん! オッサンの、超気持ちいいんだもん!」


 アルバイト初日にしてはあまりにも忙しい2時間を送ったミサキさんは、定位置になりつつあるマッグ3階の奥の席へ来るなりテーブルに突っ伏した。


 彼女の頑張りを労うように頭を念入りに撫でてあげたあと、とても疲れた様子の彼女に提案したのが『肩揉み』だ。


 軽く肩を揉んだだけで普通あんなエッチな声は出ない。


「……いや、待てよ」


 そういえば前にもあったな。あれは確か会社の先輩と後輩にしてあげた時だ。俺の部屋で。


「ねえ、オッサン。声出さないようにするからさ、もうちょい揉んでくれる? あーし、これから宿やんなきゃだし」


「え? 宿題? 学校のですか?」


「当たり前じゃん! あーしこう見えて、出された宿題はとりあえずやってみるタイプだし!……意外だった?」


 俺は彼女の肩揉みを再開させる。


「その……悪く思わないでほしいんですけど。勉強を一生懸命、って感じには見えなかったので……」


「別にいいよ。やってみるだけで、できるわけじゃないから……」


 ミサキさんはどこか俯いているように見える。俺は背中から彼女の顔を覗き込む。

 

「とりあえずやってみるだけでも偉いじゃないですか!」


「えっ……あーし、偉い?」


「とっても偉いですよ! 俺、感心しちゃいました! 結果的にできなかったとしても、やってみることに意味があるんですよ。その積み重ねがこれから先、きっとあなたのチカラになります。それに――」


 俺は彼女の頭を撫でる。


「ミサキさんひとりで出来ないことでも、俺と2人でやればできるかもしれません。よければ俺にお手伝いさせてください」


「えっ、いいの……?」


「もちろん! 俺と一緒にちょっとずつできるようになりましょうね!」


 彼女の顔がパッと明るくなる。


「オッサン、大好き!! あーし、宿題頑張るね!!」


 ギャルが首元に抱きついてきた。


「ちょっ、ミサキさぁぁん……大好きだなんて、そんなぁぁ……」


 嬉しすぎて昇天してしまいそうだ。


 小ぶりで可愛らしい胸が当たってるし、女子高生の甘い匂いはするし。少しの間、このままでいさせてもらおうかな。


 マッグの店内だけど、ちょうどみんなの目には入ってなさそうだし。


 ホント、自分の部屋じゃなくてよかったよ。2人きりなら、今ごろ押し倒してる。


 俺が周りに隠れてこっそり幸せに浸っていると、制服姿の女子高生3人がやってきて斜め向かいの席に腰を下ろした。


 3人ともギャルだ。


 派手さはミサキさんに比べて若干劣るが確実にギャルだ。


「ん?」


 そのうちのひとりと目が合う。


 緩い巻き髪ロングの美人ギャルは色っぽいタレ目をこちらへ向けてくる。


 俺は慌ててミサキさんの背中をポンポンと叩く。


「そ、そろそろ宿題を始めましょうか!? いつまでもこうしているワケにはいきませんし」


「あ、ごめんね、オッサン。ここ、あーしの部屋じゃないもんね。続きはまた今度ね」


「えっ!? 続き……今度……部屋で……!? はっ――!?」


 女子高生グループの視線に気づいた俺は慌てて顔を背けると、おでこを叩きながら自分に言い聞かせる。

 

 落ち着け、俺!? ベッドへ横たわるミサキさんの生まれたままの姿を想像してどうする!?


 これから勉強を頑張る彼女のためにも、ここは集中しなければ!


「まずは英語からだし! あーしね、英語の宿題は得意なんだよ!」


 彼女もやる気をみなぎらせているのだ。大人の俺が変な妄想してる場合じゃない。


 俺は軽く咳払いをしてから顔を戻し、彼女が開いた教科書を眺める。


 なるほど、この英文の読解問題か。和訳と……設問に英作文で答える感じだな。


「って、何してるんですか? ミサキさん?」


 ギャルは教科書を見ながらスマホをいじっている。


「何って、見て分からない? 英文をスマホに打ち込んでんの! こうすれば、すぐに日本語が出てくるし!」


「……」


 それを得意とは言わないぞ。これだから最近の若者は。


「それじゃあ、勉強になりませんよ」


 俺は美人ギャルの手からスマホを取り上げる。


「あっ、ちょっ!? 何すんの!?」


「スマホで調べるのは最終手段です。まずは自分で解いてみないと」


「スマホ無しじゃ、英語なんて無理じゃん! だって、あーし、日本人だよ!!」


「いや、まあ……確かにそうなんですけどね……」


 俺はギャルのスマホの電源を問答無用で切る。


「ああぁぁぁぁ……あーしのスマホぉぉぉぉ……」


 ギャルの反応がいちいち面白い。


「安心してください。分からない単語があれば俺のスマホで調べますので。さあ、宿題を始めますよ。2人でしていきましょう!」


「共同作業……?」


「そう、つまりはですね。俺が英単語の意味を調べて、ミサキさんが問題を解く。分かりにくい問題は、こうして2人一緒にくっつきながら考える。どうですか? スマホで調べるより楽しそうでしょう?」


 ギャルの目がキラキラと輝く。


「なんか楽しそう! あーし、やれる気がする!」


「その意気です! では、最初の問題は――」


 こうして、俺とミサキさんの初めての共同作業が始まったのだった。



――――――――――――――――――

(あとがき)

ここまでお読み下さり誠にありがとうごさいます!


ギャルがかわいい♡続きが気になる!

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