第12話 セクハラ店長は美人ギャルを採用したい!

「かはっ――――!?」


 20時過ぎ。駅前のファミレスにて。


 待合席へやってきた俺の親友山本は超絶美人ギャルの姿を見た瞬間、口をあんぐりさせる。


「ほら、ミサキさん。とりあえず自己紹介しましょうか」


「はっ、初めまして、店長さん!? あーし、月城――」


「採用!!」


 山本はビシッと親指を立てた。


「いや、せめて形だけでも面接しろよ!?」


 呆れる俺の肩を山本が抱いてくる。山本は顔を近づけてヒソヒソと話し始める。


「お前、こんな可愛い子とどこで知り合ったんだよ!? まさかあれか!? いかがわしいマッチングアプリか!?」


「バカ言うなよ。この子はそういう子じゃないから。駅前で偶然知り合ったんだ。それより、早く面接してくれ。急に決まったことだから

、帰りが遅くなるとこの子の親が心配する」


「それもそうだな。また電話でじっくり聞かせてもらうよ」


 山本は俺を解放してミサキさんの元へ向かう。


「初めましてえー。店長の山本でーす。ミサキちゃんって言うんだねー。歳はいくつ?」


 相変わらず軽いな、コイツ。しかもさっそく下の名前で呼んでるし。


「じゅ、16歳です! 高2です!」


 ミサキさんの年齢を知るのは初めてだ。よくよく考えたら、俺、彼女のことをほとんど知らないな。


「へえー、16歳なんだあー。とりあえず、事務所、行こっか?」


 不思議だ。山本が言うと、ここがエッチな店に思えてくる。


「オッサン、行ってくるね!」


 ギャルはフンッと息巻く。


「ミサキさん、ファイトです! 変なことされそうになったら、思いきりぶん殴っていいですからね!」

 

「するわけないだろ!?」


 ミサキさんは、およそファミレスの店長には見えない山本のあとについて店の奥へ入っていくのだった。



 ルルルル――


 時刻は21時40分。

 例のごとく、面接終わりのミサキさんを駅のホームから見送った俺は駅前のスーパーへ寄ってから帰宅。


 夕方口にしたバーガーが腹に残っている気がしたので先に入浴を済ませ、炭酸飲料片手に、ちょいと惣菜をつまもうとしたところでスマホが鳴る。

 

「はい」


『お前が羨ましいよ。あんな若くて可愛い子とパコパコヤリまくりとはな……』


「いや、一度もシてないから」


『…………お前が羨ましいよ。あんな若くて可愛い子とパコパコヤリま――』


「いや、2回聞いても答えは変わらないからな」


『いやいや、あり得ないだろ!? あんな若くて可愛い彼女がいるのに、一度もエッチしたことないとか!?』


「いや、そもそも付き合ってないから。知り合って、まだ3日目だぞ」


『はあ!? たったの3日!? え、なに、痴漢から助けたとか、そういう劇的な出会いだったとかか!?』


「いや。駅前で彼女のスマホを拾ってあげたのが最初。次の日にストラップ買って……一緒にクレープ食べて……カラオケ行って。あとは今日、マッグに行ったぐらいだな」


『えっ!? お前、そんな中学生レベルのデートコースで、あんな可愛い子、落としたの!?』


「落としてないって。いつの間にか好かれてたって言うか……」


『でたよ!? お前、昔っからそういうところあるよな!? ついたアダ名が『ギャルゲ主人公』だもんな!』


「お前が言ってただけだからな」


『高校、大学に続いて、またゾーンに入ったってことだな』


「ゾーン?」


『女が勝手に寄ってくる!! オレには見えるぞ、伝説の再来が!!』


「…………じゃあな山本。今まで楽しかったよ。ありがとう」


『今生の別れみたいに言うなよ!? 本題がまだ残ってるんだって!?』


「ならさっさと言え」

 

『ミサキちゃんさ、オレの店で働いてもらうことにしたから。お前には報告しとこうと思って』


「最初からそれを言え。まあ、ありがとな。お前の店で働かせてもらえるなら、俺も安心だ。少なくともお前はあの子に手を出せないからな」


「やっぱ他の男が気になるか?」


「気になるっていうか、変な男に引っかかってほしくない。子供を心配する親の気持ちだな」


『ふーん……ねぇ……』


「ん? もしもし?」


『……ああ、悪い。下の子に絵本読んでやらないと』

 

「早く行ってやれ。頑張れよパパ。あと、奥さんによろしく。わざわざ連絡ありがとう」


『おう! ミサキちゃん、さっそく明日から入ってもらってるからさ、見に来いよ。どうせ暇だろ?』


 激かわギャルのメイド服姿……見たいに決まってるだろ!


「ま、まあ、そうだな。た、たまにはお前の店の売り上げに貢献してやるかな! はははっ!」


『嫌なら別に来なくてもいいんだぞ。だって、オレには見えてるからな!』


「え? 何が?」


『我が駅前店が男性客で溢れ返る光景が! 待ってるぞ、!』


「あっ、おい!? てめえ!? 俺は決して……」


 電話はすでに切られていた。


「スケベ野郎って……」


 まあ、間違ってはないか。


 俺はミサキさんのメイド服姿を想像しながら晩酌を再開させる。


 今日のオカズはメイド系の動画で決まりだな、などと考えているとスマホの通知音が鳴る。


【バイト、受かったし٩(。˃ ᵕ ˂ )و】

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