1-12改 ギャルの履歴書は超トップシークレット

「あの、ミサキさん? ファミレスで働いてみる気はありませんか? 知り合いが店長をしている店が近くにあるんですけど」


「マジ? 制服可愛い?」


「そうですね……」


 ギャルのフリル付きメイド服姿を想像してみる。うん、すごくいい。というか、着てほしい。まあ、他の男にも見られてしまうのは少々癪だけど。


「あーし、そこにする」


「え? 俺まだ何も言ってませんけど?」


「オッサンの顔見れば分かるって。あーしの制服姿、見たいんだろ!」


「え? 俺、そんな顔してました?」


 顔を触って確かめる。


「オッサンさ、考えてることが顔に出やすいって、よく言われない?」


「ああ、言われてみれば確かに。会社の同僚によく言われます『顔を見れば考えてることがだいたい分かる』って」


 俺の答えを聞いたミサキさんのこめかみがピクッと動く。


「ねえ、オッサン? それって、女の人だったりする?」


「そうですね。2人とも女性です」


「ふたりー?」


 なぜか恨めしそうな目を向けられる。


「その人たちと仲いいの?」


「まあ、悪くはないですね」


「ふうーん……」


 ミサキさんは少しムッとしながらスマホに目を戻し……


「リサたちにそっこー報告だし!!」


 鼻息荒く、指先を激しく動かし始めるのだった。


「えーっと……」


 何を?


 と、とりあえず、アイツに電話してみようかな。まだ18時30分だから店もそこまで混んでいないだろうし。


 俺はスマホの連絡先を開き『山本』をタップする。数回のコール音の後、電話が繋がる。


『珍しいな。お前がこんな時間に連絡してくるなんて』


「お疲れ。ちょっと聞きたいことがあってさ。今、話しても大丈夫そうか?」


『少しくらいなら構わないぞ』


「助かる。実はさ……」


 駅の反対側にあるファミレスチェーン店で店長を務めている電話の相手――山本は中学の同級生だ。その頃から現在に至るまで親交がある唯一の男だったりする。


 2年前。俺の利用している最寄駅の店舗にコイツが赴任してきた時は驚いた。こんな偶然があるんだなと2人で笑い合ったもんだ。


 それからはおおむね月に一度程度は顔を合わせている。気兼ねなく何でも話せる数少ない親友のひとりだ。


 俺と違ってすでに結婚しており、可愛らしい奥さんと娘が2人。幸せな家庭を築いている。羨ましい限りである。


 っと、山本の紹介はこのくらいにして、話を戻そう。


「――知り合いの高校生がバイトしたいって言ってるんだよ。お前のところで働かせてもらえないかな?」


『高校生のバイトか……。今、募集はしてないんだけどな……。ちなみに女の子?』


「ああ。けっこう可愛い子だぞ。お前も気に入ると思う」


『可愛い子は欲しいな……。よし。とりあえず、面接してみるか。その子、今日店に来れたりするのか? えーっと、そうだな……8時ぐらいでどうだ?』


「8時で大丈夫なのか? まだ忙しい時間帯だろ?」


『おいおい、オレは店長だぞ。ちょろっと面接する時間くらいは取れるって』


 隣にいるミサキさんに小声で確認する。

 

「その時間でいけるって」


『あれ? お前、今、その子と一緒なの? 親戚か何かか?』

 

「違う。最近知り合った子」


『はあ!? 女子高生と知り合ったって何だよ!? 詳しく聞かせろよ!?』


「また今度な。お前は仕事しろ。じゃあ、またあとで」


『あっ、おい!? おま――』


 通話終了っと。


 スマホを閉じると、ミサキさんが不安そうな顔で袖を引っ張ってくる。


「ねえねえ、オッサン。面接ってやっぱムズい? あーし、初めてなんだけど……」


「ふふっ、心配しなくても大丈夫ですよ。面接といっても簡単なものだと思いますから。自己紹介をして、あとは希望の勤務時間を聞かれる程度かと。店長は気さくで話しやすいヤツですし、たぶん採用してくれます。気楽にいきましょう」


「よかったぁー。上手く話せなかったらどうしようかと思ったしぃー。オッサンの知り合いでマジ感謝って感じー」


 ミサキさんはそう言いながら、だらんとテーブルに伏せる。


「まあ、実際に働くかどうかは親と相談して決めてくださいね?」

 

「りょーかい!」


 ミサキさんはテーブルに伏せながら敬礼したあと目を輝かせる。


「あっ! ってことはさ!」

 

 そして勢いよく体を起こす。


「8時までオッサンと一緒にいられるじゃん! やばっ! あーし、新しい飲み物買ってくるね! オッサンの分も奢ったげる! 何がいい?」


「じゃあ、お言葉に甘えて、カフェラテで。……あ、でも、履歴書を書かなきゃいけませんよ? 証明写真も撮らないと」


「ふふんっ! オッサン甘いし!」


 ミサキさんは自慢げに鼻を鳴らして立ち上がると、学生鞄に手を突っ込む。


「あーし、履歴書は書いてきてるし!」


 ミサキさんは鞄の中から半分に折り畳まれた白い紙を取り出す。


「せっかくだから、オッサンに確認してもら……って、ふぐっ!?」


 ミサキさんが俺に履歴書を手渡そうとしてフリーズする。


「あの? どうかしましたか? 俺でよければ内容を確認しますけど?」

 

 ミサキさんは履歴書を急いで鞄へ戻して目を泳がせる。


「よ、よく考えたらさ。友達に見てもらったし、オッサンが見なくても大丈夫かもおー……」


「ん? そうですか? まあ、アルバイトの履歴書ですし、きっちり書いてなくても大丈夫だと思いますけど……」


 なんか俺に見られたくないって感じだな。


 まあ、女の子だし個人情報を知られたくない気持ちは分からなくもないが、ミサキさんとはけっこう仲良くなれたと気がしていたから、少しばかりショックだ。


「あーし、飲み物買ってくるけど、勝手に見ちゃダメだからね!」


 俺が鞄を気にしていたせいか、ミサキさんが念を押してくる。


「見ないですって」


 通路へ出たミサキさんは3歩進んで振り返る。


は絶対見ないでよ!」


 ああ、なるほど。見られたくないのはそれか。確かに証明写真って上手く撮れないことが多いもんな。俺も免許証の写真は残念なことになってるし。

 

「見ませんから安心してください。早くしないとお喋りする時間が減っちゃいますよ?」

 

 俺がそう促して、ようやく階段付近まで辿り着いたと思ったミサキさんが再び振り返る。そして俺に聞こえるように大声で叫ぶ。


「もし見たら!! あーしの『パンツの動画』送ってやんないからねー!!」


 ミサキさんはフロア全体に聞こえるように叫び終えると、駆け足で階段を下りていった。


「……」


 残された俺はフロア中の視線を一身に集め、その場で軽く石化した。



 ――午後8時過ぎ。


「かはっ――――!?」


 ファミレスの待合席でミサキさんとの初対面を果たした山本がアゴを外しそうなほど口をあんぐりさせる。

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