第11話 ギャルはマッグでイチャイチャしたい(後編)

「あの、ミサキさん。ファミレスで働いてみる気はありますか? 知り合いが店長をしている店が近くにあるので」


「マジ? 制服可愛い?」


「そうですね……」


 確かフリルのメイド服っぽかったはずだ。俺は彼女のウェイター姿を想像してみる。いい……すごくいい!!


 合法的に美人ギャルのメイド服姿を拝めるとか最高だろ! 他の男にも見られてしまうのは癪ではあるが。


「あーし、そこにする」


「えっ、俺はまだ何も言ってませんけど?」


「オッサンの顔見れば分かるって! あーしの制服姿、見たいんだろ!」


 俺は慌てて顔を触る。


「オッサン、考えてることが顔に出やすいんだって。よく言われない?」


「ああ、確かに。会社の先輩や後輩にも言われます『顔を見れば考えてることが分かる』って」


 スマホを触っていたギャルのこめかみがピクッと動く。


「ねえ、オッサン……それって、2人とも女の人だったりする?」


 なぜか恨めしそうな顔を向けられる。


「え? まあ、そうですけど……」


「仲いいの?」


「えっ……まあ、悪くはないですね」


「ふうーん……」


 ギャルは少しムッとしながらスマホに目を戻す。


「すぐにリサたちに報告だし!!」


 えっ? 何を?


 まあ、いいか。ミサキさんがスマホに夢中になっている間に電話してみよう。


 時刻は18時30分。この時間なら店もそこまで混んでいないだろう。


 俺はスマホの連絡先を開き『山本』をタップする。数回のコール音の後、山本が電話口に出る。


「あ、もしもし、お疲れ。聞きたいことがあってさ。今、話しても大丈夫か?」


『珍しいな。お前がこんな時間に連絡してくるなんて。少しくらいなら別に構わないぞ』


 駅の反対側にあるファミレスチェーン店で店長を務めている山本は、俺の中学の同級生の中で唯一親交がある男だ。


 2年前。俺の利用している最寄駅の店舗にヤツが赴任してきた時は驚いた。こんな偶然があるんだなと2人で笑ったもんだ。


 それからは月に一度程度顔を合わせている。未だに気兼ねなく何でも話せる俺の数少ない親友のひとりだ。


 早くに結婚していて子供が2人。幸せな家庭を築いている。羨ましい限りである。


「――実は、知り合いの高校生がバイトしたいって言ってるんだ。お前のところで働かせてもらえないかな?」


『うーん……今、バイトの募集はしてないんだけどな……』


「可愛い子だぞ。お前も気に入ると思う」


『えっ、そうなのか!? 可愛い子は欲しいな……。よし! とりあえず、面接してみるか! その子、今日ウチの店に来れたりするのか? えーっと、そうだな……8時ぐらいでどうだ?』


「え、8時で大丈夫なのか? 店はまだ忙しい時間帯だろ?」


『おいおい、オレは店長だぞ。ちょろっと面接する時間くらいは取れるって』


 隣にいるミサキさんに小声で確認する。

 

「彼女、その時間でいけるって」


『えっ!? お前、今、その子と一緒なの!? 親戚か何かか!?』

 

「違う。最近知り合った子」


『はあ!? 詳しく聞かせろよ!?』


「また今度な。お前は仕事しろ。じゃあ、またあとでな」


『あっ、おい!? おま――』


 通話終了っと。


 スマホを閉じると、ミサキさんが袖を引っ張ってくる。


「ねえねえ、オッサン。面接って大変かな? あーし、初めてなんだけど……」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。面接といっても簡単なものだと思いますから。自己紹介をして、あとは希望の勤務時間を聞かれる程度かと。店長は話しやすいヤツですし、たぶん採用してくれます! なので気楽にいきましょう!」


「マジ? よかったあー。緊張して上手く話せなかったらどうしようかと思ったー。オッサンの知り合いでマジ感謝だしー」


 ギャルはそう言いながらテーブルにへたれ込む。


「まあ、実際に働くかは親と相談して決めてくださいね」

 

「りょーかい!」


 ギャルはテーブルへ伏せながら敬礼したあと目を輝かせる。


「あっ! ってことはさ!」

 

 ギャルはガバッと起き上がる。


「8時までオッサンと一緒にいれるじゃん! あーし、新しい飲み物買ってくるね! オッサンの分も奢ったげる! 何がいい?」


「じゃあ、カフェラテで。……あ、でも、履歴書を書かなきゃいけませんよ? 証明写真も撮らないと」


「ふふんっ! オッサン甘いし!」


 ギャルは自慢げに鼻を鳴らすと、立ち上がり鞄に手を突っ込む。


「あーしね、履歴書はちゃんと書いてきてるし!」


 ギャルは鞄から半分に折り畳まれた履歴書を取り出す。


「せっかくだから、オッサンに確認してもら――ふぐっ!?」


 履歴書を手にしたギャルの動きが突然止まる。


「あの……? どうかしましたか……? 俺でよければ確認しますけど……?」

 

 ミサキさんはなぜか取り出した履歴書を鞄に収めて目を逸らす。


「よ、よく考えたらさ。友達に見てもらったし

、オッサンが見なくても大丈夫かもおー……」


「そうですか? まあ、アルバイトの履歴書なんで、きっちり書いてなくても大丈夫だと思いますけど……」


 しかし、気になってしまう。どうしてそこまで隠したがるのか。


 まあ、女の子だし個人情報を知られたくない気持ちは分かるけど、ミサキさんとはけっこう仲良くなれたと思っていたから、ちょっとショックだ。


「あーしが飲み物買ってきてる間に見るなよ!」


 俺が鞄を気にしていたせいか、ギャルに思いきり睨まれる。


「見ないですって」


 通路へ出たギャルは3歩進んで振り返る。


「ぜってーは見るなよ!」


 なるほど、見られたくないのはそっちか。確かに証明写真って上手く撮れないもんな。俺も免許証が残念なことになってるし。

 

「見ませんから。ほら、飲み物買ってきてください」

 

 俺がそう促して、ようやく階段まで到達したと思ったミサキさんが再び振り返る。


「もし見たら、あーしの『パンツの動画』送ってやんないから!!」


 ギャルはそう言い残して駆け足で階段を降りていった。


「――――ッ!?」


 残された俺はフロア中の視線を一身に集め、その場で軽く石化するのだった。


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