第9話 ギャルはラブラブなツーショット写真を撮りたい(後編)

「あーしね。今日1組の青木くんと……ああ、サッカー部の超イケメンね。4組の高橋くんに……ああ、バスケ部の超イケメンね。2人に告白されたんだけどさ……」


 ギャルがサラッと、とんでもない話をぶち込んできた。


 別れて次の日に速攻で告白されるなんて、やっぱりこの子モテるんだな。


 まあ、このルックスに明るくて素直で親しみやすい性格だし、男はほっとかないよな。


 しかもサッカー部とバスケ部の超イケメンとか、いかにも女子高生が好きそうな部類だし。


 どちらかと付き合うことにしたのだろうか?


「もちろん、両方ともんだけどさ」


「えっ、振ったんですか!? 超イケメンなのに!?」


「え、当たり前じゃん。あーし、イケメンだからって付き合わないし」


「ほえー」


 ミサキさんレベルのギャルになると超イケメンでも返り討ちか。振られた2人には悪いけど、ちょっといい気味だ。


「あーしはね、イケメンよりもオッサンと遊びたい! 昨日も超楽しかったもん!」


 おいおい、超イケメンに勝っちゃったよおー。


「今日待ち合わせに遅れたのもね、と昨日のこと話してたら盛り上がっちゃって……ああ、リサってのは、あーしの親友ね。そしたら、リサたちがオッサンの顔見たいって言い出して」


「ああ、それでさっき写真を撮ったんですか」


「そっ、今から一斉送信だし!」


「えっ……」


 ってことは、俺。今からサッカー部やバスケ部の爽やかイケメンたちと顔を比べられるの? しかも不意打ちショットを? 完全に笑われ者じゃん?


「撮り直しましょう!?」

 

「ええ? いいよ、これで。ちゃんと撮れてるから」


「いや、オッサンっぽく撮れてるからマズいんですって!?」


「はい、送信」


「のおおおおおお――――っ!?」


 頭を抱える俺の体に彼女が寄り添ってくる。


「そんなに気にすることないじゃん! だってオッサン、見た目はそんなに悪くないしさ。それに中身はイケメンじゃん!」


「えっ、そうですか?」


「だってあーしの友達、みんなオッサンのこと褒めてたよ。JKに手を出さないなんてスゴいじゃんって!」


「あれはその……ただの意気地なしといいますか……」


「そうなの? けど、みんな言ってたよ。キスしなかったのも、体を触らなかったのも、あーしのことを大切に思ってくれてるからだって。あーし、超羨ましいって言われたんだよ! だから、あーしはね。イケメンよりもオッサンの方が――」


 ピロン


 スマホの通知音が鳴る。


 ピロンピロンピロン――


 立て続けに音が鳴る。たぶん、俺の写真を見た友達の感想だろうな。聞きたくないな……。


「ちょっ、なにこれー! ウケるんですけどー!」


 画面を見たギャルがケラケラと笑い始める。


「みんな同じこと言ってんの! オッサンじゃなくて、じゃん、だってー! オッサンはオッサンなのにね!」


「……」


 俺が返事をしないでいると、ギャルはスマホと俺の顔を交互に見てから首を傾げる。


「あれ? もしかして、あーしが間違ってる?」


 俺が静かに頷くと、ギャルは雷に打たれたような表情をする。


「そ……そっかそっか。な、なんかごめんね? じゃあ、これからはオッサンじゃなくて『お兄さん』って呼ぶね」

 

 ギャルは俺と向かい合うと、少し緊張気味に口を開く。


「お……おお、おにい……おにいさ……」


「もう、オッサンのままでいいですよ」


 苦しむギャルが見ていられない。

 

「だはああああ――――ッ」


 ギャルは大きく息を吐くと申し訳なさそうに手を合わせる。


「ごめんね、オッサン。やっぱオッサンじゃないと落ち着かないかも……」


「大丈夫ですよ。俺もオッサンの方がしっくりきますから!」


 俺が親指を立てると、ギャルは満面の笑みで俺の腕に抱きついてくる。


「あんがとね、オッサン!」


「ちょっ!? くっつき過ぎじゃないですか!?」


「いいじゃん、これぐらい。だってこれからだし!」

 

「ラ、ラブラブデート!?」


「そ! JKの聖地『マッグ』へ行くぞ!」


 しょっ、しょうがないなあー。


 顔が緩みまくっているであろう俺は、彼女に引っ張られるような形で駅前を歩き始めるのだった。



「てりやきバーガーのセットと……」


「あーしはエビフィレオのセットにする。オッサン、飲み物はどれにする?」


 18時過ぎ。駅前のファストフード店にて。


 まさかこの歳になって制服ギャルと腕を組みながらバーガーを注文することになるなんてな。感無量である。


「会計は一緒でお願いします」


「え、いいの? あーし、昨日も奢ってもらったけど」


「大した金額じゃないですし、気にしなくていいですよ。あ、砂糖とミルクは無しで」


「オッサン、ありがと。お礼に『青のスケスケパンティ』も追加しとくね」


「ちょっ――――!?」


 レジのお姉さんの笑顔が引きつる。


 嬉しいけど、今じゃない!


 俺は速攻でお会計を済ませると、光の速さで隣にある受け取りカウンターへスライドするのだった。

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