1-10改 魔法の言葉

「あーしの友達、みんなオッサンのこと褒めてたよ? JKに手を出さないなんてスゴいじゃん! って」


「あれはその……ただの意気地なしといいますか……」


「そうなの? けど、みんな言ってたよ? キスしなかったのも、体に触らなかったのも、あーしのことを大切に思ってくれてるからだって。あーし、超羨ましいって言われたんだよ? だから、あーしはね。青木くんや高橋くんよりもオッサンの方が、す――」


 ピロン


 スマホの通知音が鳴る。


 ピロンピロンピロン――


 ミサキさんのスマホが立てに鳴り始める。たぶん、お友達からの返信だろうな。ヤダなぁ……。俺の残念ショットを見た感想なんて聞きたくないなぁ……。


「なにこれヤバっ! みんな同じこと言ってんだけどおー!」


 メッセージを確認したミサキさんがケラケラと笑い始める。


「なんて言ってるんですか?」


「みんながね『オッサンじゃなくて、お兄さんだろ!』だってー。オッサンはオッサンなのにねー」


「あぁ……」


 俺が返事をしないでいると、ミサキさんは俺の顔とスマホを交互に見比べてから首を傾げる。


「あれ? もしかして、あーしが間違ってる?」


 俺が静かに頷くと、ギャルは雷に打たれたような衝撃を受ける。


「えっ……? マジ……?」


「いちおう俺、27歳なので……」


「そ……そっかそっか……。なんかごめんね? じゃあ、これからはオッサンじゃなくて『お兄さん』って呼ぼうかな?」

 

 軽く咳払いをしたミサキさんは俺と向かい合い、少々ぎこちない感じで口を開く。


「お……おお、おにい……おにいさ……」


「もう、オッサンのままでいいです」


 苦しむギャルをこれ以上見ていられない。

 

「だはあー!!」


 ギャルは大きく息を吐き出すと申し訳なさそうに手を合わせる。


「ご、ごめんね、オッサン。やっぱオッサンじゃないと落ち着かないかも……」


「大丈夫ですよ。俺もオッサンの方がしっくりきますから!」


 俺が親指を立てると、ミサキさんは飛び跳ねるように腕へ抱きついてくる。


「あんがとね! オッサン!」


「あ、ちょっ!? くっつき過ぎですって!?」


「いいじゃん、こんくらーい。だってこれからだもん」

 

「ラ、ラブラブデート!?」


「そお! JKの聖地『マッグ』へ行くぞ!」


「あっ、ちょっと!?」


 ミサキさんは俺とガッチリ腕を組んで、人通りの多い駅前をグングン進んで行くのだった。



「てりやきバーガーのセットと……」


「あーしはエビフィレオのセットにする。オッサン、飲み物はどれにする?」


 18時過ぎ。駅前のファストフード店のカウンターにてギャルとくっつきながらメニューを眺める。


 まさかこの歳になって女子高生と仲良く腕組みしながらハンバーガーを注文することになるとはな。感無量だ。


「会計は一緒でお願いします」


「えっ、いいの? あーし、昨日も奢ってもらったけど?」


「大した金額じゃないですし、気にしなくていいですよ。あ、砂糖とミルクは無しで」


「オッサン、あんがと。お礼に『青のスケスケパンティ』も追加しとくね? お尻がエロいやつ」


「お尻っ!?」

「スケスケっ!?」


 レジのお姉さんと声がハモる。嬉しいけど、今じゃない!?


「ご、ご注文は以上でよろしいでしょうか……?」


 レジのお姉さんの笑顔が引きつる。


 俺は大げさに頷いて速攻でお会計を済ませると、光の速さで隣にある受け取りカウンターへスライドするのだった。



 カウンターで商品を受け取った俺はミサキさんに続いて階段を上っていく。


 チラッ


 俺の目の前で美人ギャルのミニスカートが楽しげに揺れる。


 男なら絶対に見ちゃうよな、これは。


 絶妙な丈に調節された見えそうで見えない制服スカートはもちろん、彼女の華のある容姿は街行く男たちの視線を自然と集めてしまう。


 駅前にいるときも……

 店へ来るまでの道中も……

 レジへ並んでいる最中も……

 彼女は男たちの注目の的だった。


 本人はいちいち気にしていない様子だったが、慣れない俺にとって他人の視線はけっこう気になる。


 しかも明らかに俺と彼女を見比べる視線。思ったことを口にする男も少なくなかった。


 最初は真に受けて多少傷ついたりもしたが今は違う。彼らの心無い言葉はすべて、俺に対する妬みだと思えるようになった。


 それもこれも、ミサキさんが俺にかけてくれたのおかげである。

 

『気にしなくていいよ、オッサン。アイツらただのだから』


 つんと澄ました表情で、周りの男たちをただのだと言い切ってしまう彼女がとてもカッコよく見えた――


「はぁ……まったく……」


 店の2階へ到着すると、先に席へ着こうとしていたミサキさんがに絡まれていた。


 俺は彼女へ声をかける。


、3階に行くよ」

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