1-9改 ギャルはオッサンとツーショット写真が撮りたい

 暑さが日に日に増している7月16日火曜日。俺は夕方の駅前で壁に寄りかかりながら"絶対に取り外せない"スマホストラップを眺める。


 会社で多少イジられることは覚悟していたが……


『ちょっと、優希くん!! 何よ、そのストラップ!!』

『優希先輩!! 誰に貰ったんですか!!』


 まさか事情聴取をされるとは……。誤魔化すのに必死だったよ、ったく……。だって絶対に言えないからな。


 知り合ったばかりの女子高生のスカートめくったプライベート動画と引き換えに、ストラップ装着を強要されている――なんて情けない話。


「まだかなー」


 辺りを軽く見回してみるが、帰宅ラッシュの人混みの中に彼女の姿はない。


 今日は俺の方が待つ形になっている。というのも、会社を出る前にこんなラインが入った。


【ごめん、ちょい遅れる】


 まあ、来られなくなったわけではなさそうだし、気長に待つとしよう。


「ふあーあ……」


 気を抜いたら大きなアクビが出た。昨夜はぐっすり眠ったはずだが、やはり昼間の取り調べによる精神的負担が――


「お疲れだな!! サラリーマン!!」


 ドンッ

 

 明るく元気な声と共に横から軽く体当たりされる。待ち人の到着である。


「ごめんね、オッサン。待たせちゃって」


 元気いっぱいな美人ギャル改め、ミサキさんが申し訳さそうに手を合わせる。


「気にしなくていいですよ? そんなに待ってませんから」


「ほんとごめん。今日はちょい、いろいろあってさー。……ってか、オッサン、もしかして寝不足?」


「ああ、いえ。そういうわけでは……」


「ああ! わかったー!」


 何を察したのか、ミサキさんがテンション高めで肘ツンしてくる。


「んもおー!! あーしのパンツでって言ってたのに、やっぱんじゃーん!!」


「しししっ、シコっ――!?」


 ギャルのトンデモ発言を耳にした俺はもちろんのこと、その場に居合わせた人々もぎょっとする。俺はすぐさま小声で注意する。


(声が大きいですって!?)


「あれ? もしかしてシコってない?」


(いや……ましたけど……)


「え? 声がちっこすぎて聞こえないって」


「し……シコりました……」


 俺の答えを聞いたミサキさんは満足そうにニンマリと微笑む。


「やっぱシコってんじゃーん!! 別に恥ずかしがらなくてもいいのにー!!」


 肩をバシバシ叩かれる。俺はそっと両手で顔を覆う。この場から消えてなくなりたい……。


「けど、よかったー。オッサン、あーしの体に興味ないのかもって思ってたから、興奮してくれて超嬉しー」


 それはもう興奮したさ。大興奮だ。動画を見ながら汗だくセックスを妄想して2回も抜いちゃったよ!


「正直に言ってくれたオッサンに朗報です!」


「ん? 朗報?」


 顔を上げるとミサキさんが耳打ちしてくる。


「次はね、カラオケのときに履いてた『赤いパンティ』の動画も送ったげる。あれTバッグだからね、あーしの可愛いお尻が丸見えだよ♡ オッサンだけ特別♡」


 えっ、マジ?


 ミサキさんと顔を見合わせと、彼女は「うんうん」と頷いてくれる。俺は心の中でガッツポーズを決めるのだった。


「それじゃあ、オッサンの機嫌も直ったし。はい、こっち向いて?」


「え?」


 カシャッ


 ギャルが不意に腕組みツーショットの自撮りをした。


「あの……?」


 これはいったい? というか、俺、顔作れてないんですけど?


「うん! 撮れてる〜撮れてる〜!」


 ミサキさんは満足げに頷いたあと、スマホを操作し始める。


「俺、変な感じに写ってませんか?」


「大丈夫だよ。オッサン、だし」


「こんなもん……」


 やだなー。初めてのツーショット写真なのに。もっとちゃんと写りたかったなー。


 ミサキさんはスマホを操作しながら淡々と話し始める。


「あーしね、今日、1組の青木くんと……ああ、サッカー部のイケメンね。4組の高橋くんに……ああ、そっちはバスケ部のイケメンね。2人に告白されたんだけどさ……」


「えっ、先週別れたばかりでもう告白されたんですか!? しかもイケメン2人!?」


 ギャルがマンガみたいな話をサラリとぶち込んできた。


 恋人と別れて数日しか経ってないというのにもう告白されてるとか、やっぱこの子モテるんだな。


 まあ、当たり前か。モデル並のルックスに明るくて素直で親しみやすい性格だ。周りの男はほっとかないはずだ。


 しかもサッカー部とバスケ部のイケメンとか、いかにも女子高生が好きそうな部類だし。


 新しい彼氏ができたって報告だろうか。だとしたら、ちょっと悲しい。まあ年も見た目も釣り合わない俺なんかがこの子の彼氏になれるはずないけど。


「……でね。もちろん、両方ともんだけどさー」


「えっ、振ったんですか!? サッカー部とバスケ部のイケメンなのに!?」


「え、当たり前じゃん。別にアイツらのこと好きじゃないもん。あーし、イケメンだからって付き合わないし」


 ほえー。ミサキさんレベルのギャルになるとイケメンでもあっさり返り討ちか。振られた2人には悪いけど、ちょっといい気味だ。


「あーし、イケメンよりもオッサンと一緒にいたいもん! 昨日とか超楽しかったし!」


 おいおいおい。キラキラ陽キャのイケメンに勝っちゃったよ、俺!


「今日待ち合わせに遅れたのもね、リサたちとオッサンの話で盛り上がっちゃって……ああ、リサってのは、あーしの親友ね。そしたら、リサたちがオッサンの顔見たいって言い出して」


「ああ、それでさっき写真を撮ったんですか」


「そっ! 今から一斉送信だし!」


「え?」


 ってことは、俺。今からサッカー部やバスケ部の爽やかすぎるイケメンたちと顔を見比べられるってこと? しかも不意打ち残念ショットを? 完全に笑い者じゃん?


「撮り直しましょう!!」

 

「いや、いいよ、これで。ちゃんと撮れてるから」


「いや、オッサンっぽく撮れてるからマズいんですって!?」


「はい、送信」


 ノオオオオオオオ――――ッ!?


 がっくりと肩を落とす俺の体にミサキさんが寄り添ってくる。


「そんなに気にすることないよ。だってオッサン、見た目はそんなに悪くないもん。それに中身は超イケメンじゃん!」


「え、そうですか?」


「そうだよー。だってあーしの友達、みんなオッサンのこと褒めてたよ?」

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