第7話 ギャルはラインでオッサンをからかいたい①

「なんでお持ち帰りしなかったんだろう……」


 俺は自宅の湯船に浸かりながら天井を見上げて溜め息をつく。


 あんなに可愛い女子高生とエッチできる機会なんて、たぶん二度と訪れない。


「シテもいいよって言ってくれてたのにな……」

 

 駅のホームで彼女を見送ってひとりになった途端、急に現実に引き戻された感覚になった。


 冷静になって考えてみると、ホントもったいないことをしたと思う。


 大人としての責任があるとか、彼女の親への申し開きが立たないとか、余計なことは考えずに抱きしめてキスしてしまえばよかった。


 ソファへ寝転ぶ彼女の姿が頭から離れないせいで下半身が収まらないし。感情を揺さぶられすぎたせいで、連絡先どころか名前を聞くのも忘れてしまった。

 

「はぁ……」


 俺はもう一度溜め息をついてから風呂場を出る。


 今日はもうさっさとヌいて寝よう。動画はもちろん、制服ギャルとエッチするヤツで決まりだな。


「まずは風呂上がりの一杯をっと」


 俺は冷蔵庫から牛乳を取り出してコップへ注ぐ。付き合いで酒は飲むけど家では飲まない派だ、俺は。


 クーラーの風に当たりながらキンキンに冷えた牛乳を堪能していると、ラインの通知が入っているのに気づく。


 ロック画面に表示されているのは知らない名前だった。


【ミサキ】

【見せパン①】

 

「迷惑メッセージか? げと、このアイコンって……」


 小さく表示されているアイコンには見覚えがあった。あの子にプレゼントしたピンク色のビーズストラップだ。


 そんなハズはないと思いつつも、俺は画面をタップする。


「ブウウウウ――――ッ!?!?」


 トークルームに表示されたショート動画を見て、俺は思わず牛乳を吹き出してしまう。


 画面に現れたのは制服姿の女子高生! しかも短めのスカートをたくし上げ、パンツを丸見えにさせている美人ギャル! 少し恥ずかしそうにしながら体をモジモジさせている。


 つい1時間ほど前に俺が選んであげた水着感のある『見せパン』を履きながら、姿見の前で自撮りしているのは紛れもなくだった。


 俺はすぐさまメッセージに目を通す。


ミサキ

【今日はあんがとね】

【あーしからのお礼!】

【パンツの自撮りなんて初めてだぞ!笑】

【見せパン①】


 なにこれ、嬉しすぎるだろ!

 とりあえず、何か返信しなくては。


【こちらこそ、今日はありがとうございました。とても楽しかったです】

【動画ビックリしました。すいません。無理させちゃったみたいで……】


 そう打ち込むと、すぐに返事が返ってくる。


ミサキ

【大丈夫だよ!】

【ちょっと恥ずかしかったけど】

【オッサンが喜んでくれると思って頑張ってみたし!】

【嬉しい?】


【はい、とっても】


ミサキ

【会社で見ちゃダメだよ?笑】


【見ませんよ笑】


 それにしても、水着っぽい見せパンをスカートの下へ履いたら完全に普通のパンツに見えるんだな……なかなかにエッチだ。


「……あれ、そういえば」


 彼女とこうして普通にやり取りしてるけど、連絡先の交換なんてした覚えはない。彼女に聞いてみるか。


【連絡先の交換なんかしましたっけ?】


ミサキ

【したじゃん! ベッドの上で!】


「ブウウウウ――――ッ!?!?」


 俺は再び牛乳を吹き出してしまう。床が牛乳まみれだ。


ミサキ

【冗談だって!笑】

【ほんとはね、ストラップつけてるときに勝手にした】

【怒ってる?】


 ああ、あの時か。確かに、ちょっとおかしいとは思ったんだ。


 特に通知なんか入ってなかったのに、一瞬だけスマホを返されたから。


【怒ってないですよ】

【むしろこうして話せて嬉しいです】

【連絡先を交換できたらなと思っていたので】

【それにしても、まんまとやられました】

【まさか個人情報を抜き取られていたとは】


ミサキ

【あーし、こう見えてスパイだし!笑】


「ぷっ」

 

 ギャルとのライン、めっちゃ楽しいんだが!


ミサキ

【もう1コ見せパンの動画あるけど見たい?】


 いやいや、動画っていっても見せパンのショート動画だぞ? そんなに欲しいわけ――


【見たいです】


ミサキ

【返信はや笑】


 カラオケ屋でギャルのセクシーすぎるパンティを拝ませてもらった俺は、彼女を連れて急いでショッピングモールへ向かった。


 女性用ランジェリーショップへ突撃した俺は見られても平気なパンツ――通称『見せパン』の中でもオシャレな2枚をチョイスして彼女へプレゼントしたというわけだ。


 学校へ履いて行くようにお願いすると――


「もちろん履いて行くし! 明日、教室でリサたちにやるもんね!」


 見せパンだからといって自ら見せるものではないと伝えたのだが、果たして聞こえていたのかどうか……。


 まあ、なんにせよ。これで美人ギャルの生の下着が衆目に晒されることはなくなったというわけだ。


「フッフッフッ……」


 クラスの男子たちの落胆する姿が目に浮かぶ! あんなセクシーなパンツを日常的に拝めると思うなよ、クソガキども! ガハハハハッ! 牛乳がうんめえ!


 と、いかんいかん。早く返信しなくては。

 えーと、なになに?


ミサキ

【じゃあ、ストラップつけてるスマホの写真送って】


「……」


 なにいいいいい――――ッ!?


 俺は慌ててテーブルへと向かう。今現在、俺のスマホにストラップはついていない。家に帰って速攻で外したからな!


 だってビーズストラップなんてつけたまま出社してみろ、先輩と後輩の女性社員にイジられるに決まってる!


 俺は一度取り外したストラップを付け直す。


「くっ、くそおおおおおお!?」


 焦って上手く通せない。


「できた!?」


 俺は手元だけパパッと自撮りして、スマホの写真を彼女へ送る。


【写真】


ミサキ

【ぜってー、外してたよな?】


 あ……バレてる。


【すいません】


ミサキ

【あーしがいいよって言うまで絶対外さないって誓う?】

【そしたら見せパンみせたげる】


 ぐぬぬ……。いやしかし、ギャルのパンツのためだ。ここは致し方ない。


【誓います】


ミサキ

【見せパン②】


「うおおっ!」


 思わず声が出てしまった。

 先ほどとは違い、振り向きながらの自撮りショットである。


 スカートの後ろをめくり上げた彼女は突き出したお尻を可愛らしくフリフリと振っている。


 あどけなさが残る1枚目に、ちょっぴりセクシーな2枚目。男心を分かっていて、どちらも非常に実用的である。


【ありがとうございます】


ミサキ

【使っていいよ笑】


【使いませんって笑】


 さすがにショート動画だしな。

 時刻を確認すると23時30分だった。


【そろそろ寝る時間ですよ】


ミサキ

【まだ大丈夫だし】


【寝てください】

【何時に起きてるんですか?】


ミサキ

【7時】


【じゃあ、その時間にライン送りますね】


ミサキ

【マジ? 音量マックスだし!】

【毎朝してちょ】


【わかりました】

【これから毎日、起きるのが楽しみになりそうです】


ミサキ

【あーしも】

【最後にお願いがあるんだけど】


【はい、なんですか?】


ミサキ

【明日から、あーしのことは名前で呼んで】


 名前って確か『ミサキ』だったよな。というか、明日って書いてある。


【明日も会うんですか?】


ミサキ

【ダメなの?】


【こっちは構いませんけど。お友達と遊ばなくてもいいのかなと……】


ミサキ

【毎日学校で会ってるから大丈夫だって!】

【オッサンと会いたい!】


 嬉しいことを言ってくれる。


【わかりました】

【明日も今日と同じぐらいの時間に行けると思います】


ミサキ

【りょ。いつもの場所で待ってるぜ!】


【お手柔らかにお願いします】


ミサキ

【ビジネスかよ!笑】


【おやすみなさい、ミサキさん】


ミサキ

【……オッサン、ズルいし】

【おやすみぃ♡】



 俺は幸せな余韻に浸りながらスマホを閉じる。


 明日もあの子と会えると思うと、今から楽しみで仕方がない。


「と……とりあえず……」


 俺はティッシュとスマホを手にベッドへ向かうのだった。


 翌日。この行為を彼女に言い当てられてしまうなんて、このときの俺は夢にも思っていない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る