1-8改 ギャルはラインでオッサンをからかいたいパート①

 俺はバカか?


 自宅の湯船に浸かりながら天井を見上げる。もう何度目かも分からない溜め息が出た。


「ホテル、行っとけばよかった……」


 ときどき自分がわからなくなる。あの状況でどうしてパンツを買いに走ってしまったのか……。


 普通に考えて、そこはホテルだろ? 相手が女子高生でも好きな者同士ならエッチしても問題ないわけだし。いやまあ、あの子の方はその場の雰囲気にやられてただけかもしれないけど。


「はぁ……」


 まあ、これで良かったんだよ。新しいパンツは気に入ってくれたみたいだし。


『ヤバっ! こんなカワイイのもあるじゃん!!』


 一緒に選ぶのが楽しくて2枚もプレゼントしちゃったよ。ギャルっぽいヒョウ柄とゼブラ柄のちょっと派手めな見せパン。俺、別に彼氏でもなんでもないのに。


『あんがとね、オッサン!! あーし、毎日履いてく!!』


 なんて、お礼と一緒にとびっきり可愛い笑顔を送られたら、好きになっちゃうって!!


 ザブンッ


 一度湯船に顔を突っ込んでブクブクと息を吐きながら冷静さを取り戻す。


「……ぶはっ」


 まあ、好きになったところで、連絡の取りようがなかったりする。


 けっこうな時間一緒にいたのに、頭がフワフワし過ぎて連絡先はおろか、名前すら聞き忘れてしまった。気づいた時には彼女の乗った電車はすでに走り出していたのである。


「マジでミスった……」


 例え付き合えないとしても、せめて繋がりは持っておきたかった。見た目はド派手なゴリゴリのギャルだけど、なんか性格が合うっていうか、一緒にいてすごく楽しかった。


 ――あんなに素直で可愛いらしい子、2度と出会える気がしない。


「はぁ……」


 もう考えるのはよそう。酒でも飲んで忘れるのが一番だ。


 俺は最後に大きな溜め息をついてから風呂場を出る。ちなみに、激かわギャルと密着しすぎたせいで股間がずっとカッチカチである。あとで処理しなければ。オカズはもちろん、制服ギャルとラブラブなエッチするヤツで決まりだな!


 プシュッ


 俺は冷蔵庫から缶チューハイを取り出してプルタブを立てる。夏の風呂上がりはこれに限る。


 クーラーの風に当たりながらキンキンに冷えた酒を体に流し込んでいく。ふと、ラインの通知が入っているのに気づく。


「ん?」


 ロック画面に表示されているのは知らない女性の名前だった。


【ミサキ】

【見せパン①】

 

「ん? 業者か? けど、見せパンって……」


 小さく表示されているアイコンの画像があの子にプレゼントしたピンク色のストラップに見えなくもない。


 そんなハズはないと思いつつも、俺は画面をタップする。


「ブウウウウウ――――ッ!?」


 トークルームに表示されたショート動画を見て、俺は飲みかけのチューハイを吹き出してしまう。画面に現れたのは紛れもなくあの子だった。


 姿見の前で自撮りしている制服姿の彼女は、こちらをおちょくるようにスカートの前を何度がチラ見せさせたあと「じゃーん!」と言いながらスカートの前を全開にさせたのだ。ヒョウ柄の見せパンが丸見えである。


「え、やばっ……」


 彼女はスカートを見せたまま「チュっ♡」とキスを飛ばしてきた。え? もしや相思相愛?


 俺はすぐさまメッセージに目を通す。


ミサキ

【今日はあんがとね】

【超楽しかったから、そのお礼】

【パンツの自撮りなんて初めてなんだけど!笑】

【見せパン①】


 なにこれ、嬉しすぎるだろ! さっそく返信しよう!


【こちらこそありがとうございました】

【俺もすごく楽しかったです】

【動画ビックリしました】

【すみません。無理させちゃったみたいで……】


 すぐに返事が返ってくる。


ミサキ

【大丈夫だよ】

【ちょっと恥ずかしかったけどね】

【オッサンが喜んでくれると思って頑張ってみたし!】

【嬉しい?】


【はい、とっても】


ミサキ

【外で見ちゃダメだよ?】

【恥ずかしいからー笑】


【見ませんよ笑】


 にしても、ちょっとミスったかもしれない。見せパンといってもヒョウ柄だからか、スカートの下に履いたら普通にエロい。


「って、そういえば……」


 普通にやり取りしてるけど、連絡先の交換なんてした覚えはない。本人に聞いてみるか。


【連絡先の交換なんかしましたっけ?】


ミサキ

【ꉂꉂ(๑˃▽˂๑)】

【したじゃん! ベッドの上で!】


「ブウウウウウ――――ッ!?」


 俺は再びチューハイを吹き出してしまう。床がアルコールまみれだ。


ミサキ

【冗談だってー笑】

【ほんとはね、ストラップつけてるときに勝手にした】

【怒ってる?】


「ああ、あの時か……」


 確かに、ちょっとおかしいとは思ったんだ。特に通知なんか入ってなかったのに、一瞬だけスマホを返されたから。


【怒ってないですよ】

【むしろ嬉しいです】

【連絡先を交換できたらなと思っていたので】

【それにしても、まんまとやられました】

【まさか個人情報を盗まれていたとは笑】


ミサキ

【あーし、こう見えてスパイだし!笑】


「ぷっ」

 

 ギャルとのライン、めっちゃ楽しいんだが?


ミサキ

【もう1個見せパンの動画あるけど見たい?】


【見たいです】


ミサキ

【即答じゃん笑】

【じゃあ、あーしとお揃いのストラップつけてるスマホの写真送って】


「……」


 なにいいいいいいいい――――ッ!?


 俺は慌ててテーブルへと向かう。現在、俺のスマホにストラップなどついていない。家に帰って来て速攻で外してしまった。


 だってお花のビーズストラップなんてつけたまま出社してみろ? 同僚にイジり倒されるに決まってるだろ?


 俺はただちに作業を開始する。


「ぬ、ぬおおおおおおっ!?」


 焦れば焦るほどストラップの紐を穴に通せない。


「よしっ! できたっ!」


 俺は手元だけ鏡に映した自撮り写真を彼女へすぐさま送信する。


【写真】


ミサキ

【ぜってー外してたよなあ?】


 あ、バレてる……。


【すみません】


ミサキ

【あーしがいいよって言うまで絶対外さないって誓う?】

【そしたら見せパンの動画見せたげる】


「ぐぬぬ……」


 いやしかし、激かわギャルのパンツのためだ。ここは致し方ない。


【誓います】


ミサキ

【よろしい】

【見せパン②】


「うおっ!」


 思わず声が出た。先ほどとは違い、振り向きながらの自撮りショット。スカートの後ろをたくし上げ、お尻を突き出し、ゼブラ柄の見せパンで俺を誘惑するようにお尻をフリフリしている。


 最後は「チュウううううっ♡」と長めのキス顔で締め括られていた。


「えっ、やばっ!」


【ありがとうございます】


ミサキ

【シコっていいよ笑】


【シコりませんって笑】


 中学生じゃあるまいし。いくら素材が良くても、さすがに見せパンのショート動画じゃ勃たない勃たな……


 股間はギンギンだった。あとで処理しなきゃ。


 時刻を確認したところ、すでに23時30分を回っている。


【そろそろ寝る時間ですよ】


ミサキ

【まだ全然大丈夫だし!】

【あーし、ギャルだから!笑】


 謎のギャル理論。


【寝てください】

【いつも何時に起きてるんですか?】


ミサキ

【7時】


【じゃあ、その時間におはようのライン送りますね】


ミサキ

【マジ? 音量マックスだし!】

【毎朝してちょ♡】


【わかりました】

【これから毎日、起きるのが楽しみになりそうです】


ミサキ

【あーしも】

【最後にいっこお願いがあるんだけど、いい?】


【はい、なんですか?】


ミサキ

【明日から、名前で呼んでほしいかも】


 名前って……確か『ミサキ』だったよな。というか『明日』って書いてある。


【明日も会うんですか?】


ミサキ

【ダメなの?】


【俺は構いませんけど】

【放課後はお友達と遊ばなくてもいいのかなと……】


ミサキ

【毎日学校で会ってるから大丈夫だって】

【オッサンと遊びたい!】


 嬉しすぎるだろ?


【わかりました】

【明日も今日と同じぐらいの時間に帰って来れると思います】


ミサキ

【りょ】

【待ち合わせ場所は今日と一緒でいい?】


【はい。よろしくお願いします】


ミサキ

【オッサン、なんか硬いし!笑】

【ビジネスかよ!笑】


【笑】

【おやすみなさい、


ミサキ

【もおー】

【オッサン、ズルいー】

【おやすみぃ♡】

【(* ˘ ³˘)チュ♡】



 最後にキスのスタンプが送られてきた。これはもう相思相愛なのでは?


 俺は幸せな余韻に浸りながらラインを閉じる。明日もあの子と会えると思うと、今から楽しみで仕方がない。


「さーてと」


 スマホを片手にベッドの上でスッキリした俺はギャルとのデート(2日目)を思い描きながら幸せな眠りについたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る