1-4 ギャルはオッサンとお揃いがいい♡(強制)

「オッサン、あ〜ん♡」


 とびっきり美人なギャルが残り少なくなったクレープを差し出してくる。


「あ……あーん」


 彼女と隣同士ベンチに座った俺はギャルの手にしたクレープを少々ぎこちなくかじる。


 彼女は俺がクレープを頬張る姿を嬉しそうに眺めてから最後のひとカケラを口へヒョイっと放り込んだ。


「けっこう美味しかったかもおー♩」


 ご満悦なギャルは指先についた生クリームをペロペロと舐めていく。指になりたい。


「……ってかオッサン、口にクリームついてるじゃーん」


「えっ?」


 ギャルはさも当然のように俺の口元へ人差し指を当てるとヒョイっとクリームを拭い取り、そのまま指先をパクッと咥え込む。これは夢か?


 半ば放心状態俺をよそに、ご機嫌な様子のギャルは買ったばかりのハンドストラップを開封し、楽しげに体を揺らしながらスマホへ取り付けていく。


「できたあー! 見て見て! 超かわいいー!」


 ギャルは嬉しそうにハンドストラップのぶら下がったスマホを見せてくる。持ち主の方が100倍可愛い。

 

「あんがとね、オッサーン♩」


「喜んでもらえてよかったです」


「あと、その……ごめんね。結局、オッサンの分もオッサンが払うことになって……」


「そのことなら気にしなくてもいいですって。自分用に買ったと思えば済む話ですし」


 俺はスマホと一緒に手にした『緑色のビーズストラップ』を眺める。


 まあ、実際にコレを使うことはないと思うけどな。だって、見たことないぞ。ビーズのストラップなんかつけてる社会人。


 試しに自分のスマホとパッケージに入ったハンドストラップを合わせてみる。


 うん、絶対にないな。そう結論づけたところで、横から急に手が伸びてくる。

 

「これ、あーしが付けてあげるね!」


「え?」


 俺の手から奪われたストラップは瞬く間に丸裸にされる。


「オッサンのスマホ貸して!」


「いや、それは……」


 差し出された彼女の手から反射的にスマホを遠ざける。


「いいじゃん! かあーしーてーよおー!」


 俺の体にくっついたギャルが腕を伸ばしてくる。スクールシャツ越しのフワフワな胸の感触が腕に伝わってくる。


「ちょっと!?」


 ――ギャルが無防備すぎるって!?


 このままだと俺の理性がもたない。ここは戦略的撤退だ!


「わかりましたよ……。はい、どうぞ」


 俺は仕方なくスマホを差し出す。


「あんがと♩」


 ギャルは満足そうに微笑みながら俺のスマホを受け取る。とりあえず今は彼女の気が済むようにしてもらおう。ストラップを外すのは家に帰ってからだな。


「ねえ、オッサン? ライン入ってるよ」


 ギャルがすぐにスマホを返してくる。音なんて鳴ったかな? と思いつつも俺はスマホを受け取ってロックを解除する。

 

「ん……? 特に何も――」


 手にしたスマホが光の速さで強奪される。


「そ、そっかそっか! あーしの勘違いだったみたいっ! ごめんね、オッサンっ!」


 少し焦った様子で答えた彼女はストラップの取り付けを再開させる。


 一方の俺は腕に残るちょっと小ぶりな胸の感触を思い出しながらショッピングモールを行き交う人々を眺める。


 一般の買い物客だけでなくデートっぽいカップルも多い。ハタから見れば俺と彼女もあんな風に見えているのだろうか?


 俺はストラップ付けに奮闘するギャルの一生懸命な横顔を眺める。


 本当にキレイな子だな。芸能人みたいだ。長いまつ毛にスッと通った鼻筋。頭は小っちゃくて、肌は透き通るように白い。こんな子が恋人だったら毎日楽しいだろうな。


 せめてあと5年早く彼女と出会っていれば……。いや、どのみち俺じゃあ無理か……。


「できたあー! はい、どうぞー!」


 彼女はと満面の笑みでストラップの付いたスマホを手渡してくる。


「ありがとうございます」


 ――ただ、せめて今日だけは。この笑顔を独り占めしていたい。


 俺はスマホを受け取りながら心の中でそう願わずにはいられなかった。


「けど……やっぱり変じゃないですか? 男のスマホがこれじゃあ」


「え? いいじゃん、可愛くて! ほら、あーしと!」


 ギャルは嬉しそうにピンク色のストラップがついたスマホを見せてくる。この子はオッサンとお揃いで嫌じゃないのだろうか?


「……てか、ヤバっ!? 時間じゃんっ!?」


 スマホの画面を確認したギャルは勢いよく立ち上がった。時刻は18時50分。そろそろ帰る時間なのかもしれない。夢のようなひと時もここまでか……。


「オッサン、急いで!! ほら!!」


 ギャルは随分と慌てた様子で手を差し伸べてくる。俺は差し出された手を優しく掴む。指は細いのにもっちりと柔らかく、手の平はとても滑らかだ。


 彼女は俺の手をギュッと握るとすぐに走り出す。艶のあるキレイな金髪はどこか楽しげに揺れていて、優しく香るシャンプーの匂いで夢見心地な気分になる。


「もっと一緒にいたいな……」


 ポツリと呟く。たぶん彼女には聞こえていない。昨日みたいに駅のホームまで見送りに行こう。少しでも長く恋人気分を味わっていたいから。

 

「……って、あれ? 駅、通りすぎてませんか?」

 

 俺の言葉にギャルは振り返る。


「何言ってんの、オッサン! 今から、あーしとだかんね!」


「え……?」


 これからギャルと密室で2人きりってこと?


「え……?」


 マジ?

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