第4話 ギャルは問答無用でお揃いのストラップを取り付ける

「オッサン、ああーん♩」


 とびっきり可愛いギャルが残り少なくなったクレープを差し出してくる。


「あ、あーん」


 彼女と隣同士ベンチに座った俺はギャルの手にしたクレープをかじる。


 彼女は嬉しそうにしながら俺の頬張る姿を眺めてから最後のひとカケラを口へ放り込んだ。


「けっこう美味しかったね」


 ギャルは満足げな様子で指先をチュパチュパと咥えていく。指になりたい。


「ってかオッサン、口にクリームついてるじゃん!」


「えっ?」


 ギャルはさも当然のように俺の口元へ人差し指を当てるとヒョイっとクリームを拭い取り、そのまま指先をパクッと咥え込んだ。

 これは夢か?


 半ば放心状態の俺をよそに、ご機嫌な様子のギャルは買ったばかりのビーズストラップを開封すると、楽しげに体を揺らしながらスマホへ取り付けていく。


「できたー! 見て見て! 超かわいいー!」


 ギャルは嬉しそうにストラップのぶら下がったスマホを見せてくる。はっきり言って持ち主の方が数百倍かわいい。

 

「ありがとね、オッサン!」


「喜んでもらえてよかったです」


「あと、その……ごめんね。結局、オッサンの分もオッサンが払うことになって……」


「そのことなら気にしなくてもいいですって。自分用に買ったと思えば済む話ですし」


 実際にを使うことはないと思うけど。


 俺はスマホと一緒に手にした『緑色のビーズストラップ』を眺める。


 だって、見たことないからな。男のサラリーマンでストラップつけてるヤツ。


 試しに自分のスマホとパッケージに入ったストラップを合わせてみる。


 うん、やっぱりないな。そう結論づけたところで、横から急に手が伸びてくる。

 

「これ、あーしが付けてあげるね!」


「え?」


 俺の手から奪われたストラップは瞬く間に丸裸にされる。


「オッサンのスマホ貸して!」


 俺は反射的にスマホを遠ざける。


「いいじゃん! かーしーてーよー!」


 ギャルが俺にくっつき、手を伸ばしてくる。彼女の柔らかな胸が俺の体に密着する。


「ちょッ――――!?」


 ギャルが無防備すぎるって――――ッ!?


 このままだと俺の理性がもたない! ここは戦略的撤退だ!


「どうぞ……」


 俺は潔くスマホを差し出す。


「ありがと!」


 ギャルは満足そうに微笑みながら俺のスマホを受け取る。


 今は彼女の気の済むようにしてもらおう。ストラップを外すのは家に帰ってからだな。


「ねえ、オッサン? ライン入ってるよ」


 ギャルがスマホを返してくる。

 音が鳴ったかなと思いつつも、俺はスマホを受け取ってロックを解除する。

 

「ん……? 特に何も来てな――」


 手にしたスマホが光の速さで強奪される。


「そ、そっか! あーしの勘違いだったみたい! ごめんね、オッサン!」


 彼女は少し焦った感じでそう答えてから、ストラップの取り付けを再開させる。


 一方の俺は腕に残るちょっと小ぶりな胸の感触を確かめつつ、モールを行き交う人々を眺める。


 一般の買い物客だけでなくデートっぽいカップルも多い。ハタから見れば俺と彼女もあんな風に見えているのだろうか?


 俺はストラップ付けに奮闘するギャルの一生懸命な横顔に目を向ける。


 本当にキレイな子だ。長いまつ毛に、すっと通った鼻筋。頭は小っちゃくて、肌は透き通るように白い。こんな子が恋人だったら幸せだろうな。


 せめてあと5年早く彼女と出会っていれば……。いや、どのみち俺じゃあ無理だな……。


「できたあー! はい、オッサン!」


 彼女はとびっきりの笑顔でストラップの付いたスマホを差し出してくる。


 ――ただ、せめて今日だけは。この笑顔を独り占めしていたい。


 俺はスマホを受け取りながら、そう願わずにはいられなかった。


「ありがとうございます。けど……やっぱり変じゃないですか? 男のスマホがこれじゃあ」


「え、いいじゃん、可愛くて! ほら、あーしとだし!」


 ギャルは嬉しそうにスマホを見せてくる。この子はオッサンとお揃いで嫌じゃないのだろうか?


「てか、ヤバっ!? 時間じゃんっ!?」


 スマホの画面を確認したギャルは慌てて立ち上がる。


 時刻は18時50分。どうやら帰る時間になってしまったらしい。夢のようなひと時もここまでだ。


「オッサン、急いで!」


 ギャルは慌てた様子で手を差し伸べてくる。俺はその手を優しく握る。スベスベしていて柔らかい。


 彼女は俺の手を引いて走り出す。彼女の柔らかそうな髪の毛が揺れるたび、シャンプーの甘い香りが漂ってくる。


 昨日みたいに駅のホームまで見送りに行こうかな。少しでも長く恋人気分を味わっていた――

 

「って、あれ? 駅、通りすぎてませんか?」

 

 ギャルは振り返る。


「何言ってんの、オッサン! 今からだし!」


「え……?」


 ギャルと2人きりで密室ってマジ?

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