第31話 突然ですが、(男と女の)修羅場です
カエデのオフ会から一週間後──
池袋駅。東口。いけふくろう前。
日曜日のゆったりとした時間が流れる正午。
突如、ラウラの目の前で、修羅場が展開していた。
「あら、あらあらあらあら? もしやそこにいるのはやせ細った雌猫じゃありませんの?」
「あれ、あれあれあれあれ? もしかしてそこにるのはぶくぶくに太った女狐じゃないですか?」
白銀色の髪が美しい、身長145cm前後のミニマムさと見事なヒップラインと持つ絶世の美少女。
金髪ロールの髪が美しい、推定Iカップの豊乳とほっそりとしたくびれを持つ絶世の美女。
そのN極とN極のような、水と油のような、決して交らない二つの存在。
そんな女性が二人、ラウラの眼前で火花を散らしながら睨み合っていた。
エリアーナとシロである。
「珍しいですわね。シロのくせにいつもの露出狂もかくやというボディスーツまがいの戦闘服ではなく、少女のような恰好をしているだなんて」
「そちらこそ珍しいではありませんか。エリアーナのくせに上乳ばかり見せつけるエロ汚いドレスではなく、いまどきっぽいコーデをするなんて」
シロはフリフリの多いガーリーな服装に、厚底の靴を合わせたコーデ。
一方、エリアーナは胸元を強調するようなタイトな白ニットに、黒のスキニーパンツを合わせたコーデ。
つまり、
「……なるほど、地雷系、ですわね」
「……ふうん。韓国アイドル系、ですか」
シロはいわゆる令和最新女子、地雷系の恰好で。
エリアーナは韓国アイドルのオフ風の恰好だった。
二人ともあまりにも似合い過ぎているため、道行く男のみならず女性の視線すらも釘付けにする。
「まあまあ、二人とも落ち着きたまえ」
ラウラが仲裁を取ろうとした瞬間。
きっ、と二人同時にラウラを睨みつける。
「「どうしてこの女がここにいるんですか(ですの)!?!!?」」
突然の大声に道行くカップルや待ち合わせの若者がくすくす笑いながら、あるいはどんよりとした目を向けながら見てくる。
そんな中、ラウラはにっこり笑って答えた。
「二人とも、いつも顔を合わせては角を突き合わせるばかりか、刺し合う仲だろう? 我はもう見たくないのだ。我の可愛い臣下たちがいがみ合うところなど」
「……わたくしは別にラウラ卿の臣下ではないですけど。当代魔王軍の四天王ですし」
「……わたしも別にラウラ様の臣下ではないですけどね。当代魔王軍の第七師団長ですし」
「あっれー?」
ラウラは首を傾げる。
「というよりも。ラウラ卿はわたくしのことをただの臣下だとお思いで?」
「だいたい、ラウラ様はわたしのことをただの臣下だと思っているんですか?」
一歩、また一歩とエリアーナと距離を詰めてくる。
「ぬ、ぬ……? 我、何か間違えた?」
「そもそも、今日、わたくし、ラウラ卿とその、で、で、デートだと伺ってきたのですが……!?」
最初に切り出したのはエリアーナだった。
そこに、シロが驚きの声を上げる。
「え、ええ!? ちょっと待ってください、今日は私とのデートの約束ですよね!?」
「はいぃ??? シロがラウラ卿とデートですって? 子守りの間違いではなく?」
シロの額に青筋がひとつ増える。
「エリアーナ、表に出なさい。いい加減、あなたとは決着をつけなければならないと思っていたんです」
「望むところですわ。わたくしこそ、そろそろ貴女には自分の立場というものを分からせなくてなならないと思ってましてよ?」
「待て待てまてまてまて、待つのだ二人とも」
二人とも背中に隠した右手の上に、幾何学模様の術式を展開し始めたため、止めに入る。
「言ったであろう、我はあくまで今日のことは二人を思っての懇親会であると──」
同時、シロとエリアーナが、起動途中の術式ごと右手をラウラに向ける。
「「本音は?」」
「我がミスってダブルブッキングしてしまったのである」
「「はぁあ~……、やっぱりそんなことだろうと……」」
シロとエリアーナは二人同時に溜息をついて、術式を消した。
ラウラは努めて平静そうな表情を保っていたが、心臓は早鐘を打っていた。
──二人とも、相変わらず怒ると怖いであるな……っ!!
深い嘆息ののち、シロが呆れ顔で言う。
「……しょうがないですね。ラウラ様のそういうところは今に始まったことではありませんし。────大、大、大、大不本意ですが、ラウラ様との折角のデートです。エリアーナの同行を認めてあげます」
そこに、エリアーナも続いた。
「あら? 許しを与えるのはわたくしのほうでしてよ? ラウラ卿が身勝手なことはずっと昔からのこと。わたくしは最初から何があってもデートは結構するつもりでしたが」
「……へえ、言うじゃないですかエリアーナ」
「……何か文句がございますのシロ」
「分かった、わかったわかった、感謝する、感謝するぞ二人とも! だからすぐに喧嘩をするのはやめるのだ!」
シロと同じ様に溜息をつくエリアーナ。
彼女は流し目でラウラを見た。
「……それで? 最初はどこにエスコートしてくださるの?」
ラウラは笑った。
実際のところ間違ってダブルブッキングしてしまったというのは嘘なのだ。
流石にそんな大事な予定を被らせたりはしない。……たまにしてしまうくらいで。
今日、わざわざ予定を重ねたのは、本当に二人に仲良くなってほしかったのだ。
なにせラウラが一番世話になっている二人である。
会うたびに角を突き合わせているのは見ていて苦しいものがある。
だからラウラは嬉しかった。
こうして二人が同行を認めてくれたことに。
「丁度、昼時であるからな。ランチに行かぬか?」
「いいですわね」
「たしかにお腹、空きました」
エリアーナとシロが同時に頷く。
そして──
「わたくしはイタリアンなるものが食べてみたいですわ」
「私、和食が食べたいです」
見事に票が割れた。
しかし、ラウラとて先代魔王。
このくらいの事態は想定済みだ。
「そう思って、今日はビュッフェを予約しておいたのだ」
「ほ~お?」
「……ラウラ卿に似合わず、気の利いたセレクトですわね」
エリアーナはにっこり笑って、
「誰の入れ知恵ですの?」
「今なら許してあげます」
シロがその横で無表情に怒っていた。
──女の勘というのはまったく鋭いであるな!
これは敵わないと早々に判断したラウラは、大人しく降参することにする。
実際、これにはアドバイザーがいたのだ。
ラウラは息を吐いて、言う。
「……女神のリアスに、ちょこーっと教えてもらったである」
瞬間。
二人の顔が怒りの表情で目の前に迫ってきた。
「なんですって!? 何を考えていますのラウラ卿!?」
「はあ!? 正気ですかラウラ様!?」
「な、な、なんであるか突然!?」
シロとエリアーナはなぜかよよよ、と涙を流しながらお互いの肩をゆすり合った。
「可愛そうに……他の女のデートプランを考えさせられるなんて……」
「リアスティ様、ぜったいまた引き籠っちゃってますって……」
そうして二人はきっと顔を上げるとラウラに言った。
「「今度、リアスティ様と二人でデートしてください。絶対に!!」」
「あ、ああ……? 分かったで、ある」
そんなこんなで紆余曲折の後。
専属秘書と現役四天王とのデートが幕を開けた。
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