第29話 カエデの一撃
「え?」
「消えろ」
そして、アツシの身体を振り払う。
そのままアツシはきりもみして遺跡の支柱を破壊しながら反対側の壁へ叩きつけられた。
そのまま地面にぐしゃ、と落ちると、崩落した瓦礫の雪崩の下に埋まる。
ラウラは鼻を鳴らした。
「……ふむ。死んだか」
「い……生きてる、よっ! というか助けろ!」
瓦礫の下からくぐもった声が聞こえる。衝突の寸前に防護魔術を唱えたようだ。
「ち……。しぶとい奴だ。──おいジェスター! あのような輩こそきちっと始末せぬか!」
入れ替わりに、肉侍が斬りかかる。
「キェエエエエエエエエエエッ!!!」
奇声とともに振り下ろされる刀身。
ジェスターは風の魔術で受け止めるのでは間に合わないと判断したのか、一歩下がる。
肉侍は続けて斬る。
しかし、刀は空を斬るばかり。
そんな中で、ジェスターは怒りに表情を更に歪めた。
「誰だ! 今、私の高貴な名を呼び捨てにした愚か者は!! ──というより、私の名を知る人間がいるのか。それは、面白いな」
「貴様、こんなところで何をしていた。地脈で何をするつもりであった」
「地脈で、何を、するつもりかだって……?」
すると、ジェスターはわなわなと握った拳を震わせて、
「何をするか、じゃない!! 何もなかった状態に、戻していたんだ私は!! 訳の分からない侵入者が本部に現れたばかりか、僕の管轄の魔力炉を停止させてくれたおかけで、わざわざ四天王である僕が直接地脈の整備に駆り出されているんだ!!! こんな屈辱、他にあるか!!? ないだろう!!!」
「それは、まあ、同情してやろう」
しかし、とラウラは息を吐く。
「しかし、カエデたんを傷つけたことは、絶対に許さぬ」
「は?」
瞬間、肉侍が遂にジェスターの胴を芯でとらえた。
ジェスターの身体と肉侍の刀との間には依然、風魔術による防護膜が張られている。
しかし、刀の持つベクトルはそのままジェスターの身体まで伝わり──
ジェスターにたたらを踏ませることに成功する。
「ラウラ殿!」
「でかした、肉侍」
ラウラはジェスターが立っていた場所に進む。
目の前にあるのは蒼の光。
そして古代術式の中心点。
それを──踏んだ。
同時、全身を急速に瑞々しい魔力が満たしていくのが分かる。
さながら、乾いた喉で蛇口に直接唇を付けたような感覚。
ラウラは笑った。
「カエデたそ、動けますか」
「う、うぅうう……? ラウラ君……? うごける、けど……? 怪我もぜんぶ直ってるし」
すると、遅れてジェスターは、ラウラが地脈に触れているのを感知したのか、激昂に表情を般若のように歪める。
「き、きさま、貴様、まさか、地脈に触れているのか!! やめろ、いやっ、やめてください!! これ以上は、私が魔王に殺される!!!」
「そうですな──カエデたそ、ひとつ見せてくださいますか。火焔魔術を」
「え? え? いいけど、え?」
「今、それが必要なのです。さあ」
「う、うん──」
ラウラの後方三十メートル。
血の海に、ビリビリに破れた状態の制服姿で立ち上がったカエデは、戸惑いながら呪文を唱えた。
同時、
「ふ────」
カエデに魔力の一部を送り込む。
瞬間。
カエデの掲げた右手からレーザービームさながらの火焔の束が出現する。
「え」
「あ」
「ふむ」
カエデ、肉侍、ラウラの順に声を漏らし、
「ゑ?」
最後にジェスターが呆けた声を上げた。
しかし既に時遅し。
「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!!!」
聞くに堪えない悲鳴を上げながらジェスターは炎上した。
「わ、わ、わっ、あああ、なにこれ、なにこれ私しらない、こんな魔術使ってないのに!」
「安心してください、カエデたん。間違いなくカエデたんの魔術です」
「だからそれが安心できないって言ってるんだけど!?」
「ぎゃぁぁああああああ!!」
突然の出来事に、涙目になってしまうカエデたん。
その可愛さに見惚れている端目に、ジェスターがどんどん黒焦げになっていく。
「人間ッ、ゆるさん……ゆるさんぞぉおおお──!!!」
悶え苦しむジェスターは最後の力を振り絞って、あろうことかカエデの方へと駆け出す。
「ひ、ひいっ!!」
後じさりするカエデ。
接近する火だるまのジェスター。
その火焔ごと、ラウラは蹴り飛ばした。
「ぎゃっ!!!」
「おっと、しまった」
──力を入れ過ぎてしまった。
そう呟いた頃には、ジェスターは遺跡の壁を突き破り、仰角45度で地上を目指して吹き飛んでいった。
火の粉を残して、ジェスターの姿が一瞬で立ち消える。
「えっと…………」
ラウラ、カエデ、肉侍がぽつんと取り残されて立ち尽くす。
カエデは気まずそうな顔をして首をひねり、
「倒した、の、かな……?」
ラウラはカエデにサムズアップしながら言った。
「カエデたそ、四天王の討伐、おめでとうございます」
一瞬凍る間。
それからカエデは目を見開いていき、
「ぇ、ええっ!? 四天王──ってなにそれ!??!?」
疑念五割、驚き五割で叫んだ。
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