第24話 先代魔王は偽装する
「──はいっ、こちら第七師団・シロです! 誰だか知りませんが今、すっごく忙しいので後にしていただけるとシロは大変助かりま──」
「シロ。我である」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯新手のワレワレ詐欺でしょうか。残念ながら詐欺師さんにあげるお金はいち銅貨たりともありませんのでこの辺で失礼させていただきま──」
「詐欺師ではない。本物だ。ラウラである」
「ちょっ、ちょちょちょっ、ちょっとお待ちくださいっ!」
ぶつっ、と通話が切断される。
「⋯⋯本当に大丈夫でござるか?」
「問題ない。うちの秘書は優秀であるからな」
「ひ、秘書⋯⋯?」
それにしても、シロの背景音が気になった。
慌てふためく彼女の声の裏側ではなぜか「エルフに屋久杉5トンを献上して落ち着かせろ!」だとか「このままだと報復で畑が全部、水田になるぞ!」だとか訳の分からない絶叫で溢れかえっていたのだ。
すると、スマホが鳴動した。
着信を取る。
「はい。我である」
「ど、どどど、どうして私の番号を知ってるんですか!?! これ、当代魔王軍用の社用スマホの番号なのですが!?」
「ああ、シロのスマホをコピーする時に、ついでに登録しておいたのだ」
「⋯⋯⋯⋯」
シロは電話越しに息を飲む。
「あの、ラウラ様? 大変申し上げにくいのですが、私、今、とっっっっても忙しくてですね?」
彼女の後ろで、「シロ様、第二分隊が壊滅しました! 指示を!」「屋久杉の伐採許可、まだ下りません!!」「誰か雨乞いをしろ、雨乞いを!!」「いっその事、人間から接収したナパーム弾でエルフたちを根絶やしに⋯⋯っ!」などと阿鼻叫喚の様子だ。
しかしエルフ、住処たる森の近くで焼畑されただけでキレすぎだろう。
ラウラは息を吐いた。
「我が渡した術式はどうした?」
「いえ⋯⋯使おうと思ったのですが⋯⋯冷静に考えて、私の魔力じゃ全然足りないなー、と⋯⋯」
「ふむ」
ラウラは頷き、
「シロ、その辺に小さな湖があっただろう。部下に、我が渡した術式をそこで起動させよ。それなら魔力がなくとも使える」
「え⋯⋯?」
戸惑いのままシロは部下にラウラに言われるがまま指示を出す。
そして数秒後、
「シ、シロ様!! 水精霊が大量に召喚され──焼畑現場が水田に変わりました!!」
「水田に変わったところから莫大な量の稲が急成長を始めてます!!」
「シロ、様! 米が⋯⋯米が迫ってきますっ!!!」
別の阿鼻叫喚が背景に聞こえてきた。
「⋯⋯⋯⋯ふむ。解決だな」
「解決⋯⋯なのですかこれ?」
シロは嘆息した。
「いえ、しかしラウラ様。ありがとうございます。正直、大変助かりました。──それで、御用というのは?」
「ああ、それなのだがな。至急頼みたいことがある」
「今のシロなら何でも聞いてあげますよ。それこそ今すぐにでもラウラ様のお嫁さんに──」
「──
「はあ????」
シロのドスの効いた声が響いた。
その上、偽造という言葉に肉侍が隣からギョッとした目で見てくる。
「頼む、シロよ! ライセンスの確認で、我の番が次の次の次の次なのだ!!」
「つまり五番目ということですね。というより、そんな大事なもの、なぜ忘れていったのですか」
「忘れたのではない。知らなかったのだ」
「それを世では忘れた、と言うのです」
「頼む、シロよ」
「そんなの、いつものご自分のトンデモ魔術で何とかなさったらどうですか」
うちの秘書が、なんだか急に冷たい。
ラウラはこほん、と咳払いをする。
「我のなけなしの魔力は、服とスマホの錬成に使ってしまってすっからかんなのだ。出涸らしである」
「出涸らしとか言わないでくださいっ!!」
はああ〜、と大きなため息をつくシロ。
それから、
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯仕方ないですね。焼畑騒ぎを収めてくれたお礼です。何とかなるか確認してみます」
「流石はシロ!! 感謝するぞ!」
「言っておきますけど期待はしないで下さいねっ!!」
プツリ、と再び切れる通話。
そう言っている間にも、列は見る見るうちに進んでいく。
そうしてついに肉侍の番となり、それもすぐに終わる。
肉侍が心配そうな顔でチラチラと振り返ってきた。
ラウラは澄ました表情をしながら、内心で心臓がバクバクに跳ねていた。
まさか、ここまで来てカエデとのオフ会、途中退場?
──そんなの、絶対に嫌である!!
「はい、次、そこのあなた。ライセンスカードをカメラの前に出してください」
カエデのマネージャーに呼ばれる。
肩が跳ねる。
頼むシロよ! と願いながら、ゆっくりとスマホを差し出す。
見えるのはただただ真っ黒な画面。
当然、そこには何も映っていない。
「あれ? すみません、何も映ってないようなんですが」
「いや……あの……もう少し待たれよ」
「……? 何を言っているんですか、早く見せてください」
「だから、その……」
いつまで経っても変化のない漆黒の画面。
みるみるうちにマネージャーの目が疑惑の色に染まっていく。
「まさか君……ライセンスを持っていない、なんて言わないですよね?」
「はっ? はははっ!? まさか、なあ!? そんなわけあるはず……なか、ろう……」
図星である。
「いいから早く見せてください」
じりじりと寄ってくるマネージャー。
なんだなんだと野次馬で集まってくる、認証を済ませた他の男たち。
最早、万事休す──
そう、思った時だった。
ピロリン♪
と。
軽快な電子音が鳴ったのは。
音の出所は、マネージャーの手に持つiPadだった。
「へ?」
「え?」
ラウラとマネージャーが二人して疑問符とともに気の抜けた声を出す。
見れば、ラウラのスマホは煌々と輝き、他の男たちと同様のUIで認証用のバーコードを表示していた。
「ほ……ほれ見ろ。認証、されたである、ぞ?」
──シロよっ、流石マイ最高専属秘書&懐刀&……未来のお嫁さん候補!
とガッツポーズを決める。
「え、ええ……? ほんとだ。でも君、今びっくりした声を出してなかった?」
「出してない出してない。出してないであるぞ」
ぶんぶんと首を横に振るラウラ。
「まあ、いいです。えー……っと羅雨羅さん、16歳ね。それでランクは、っと───────えっ!!!!!!?」
すると、マネージャーがロータリー広場に響き渡るほどの大声を上げる。
目を丸くしてiPadに頭突きをかます勢いで食いついて画面を見ている。
野次馬の男たちもまた、再びなんだなんだと首を伸ばして近寄ってくる。
ほほう。シロのやつ。さては我のこと、実力通りに登録してしまったな?
──なんて、ラウラがほくそ笑んでいると。
マネージャーは信じられないものを見るような目でラウラを見て、一言。
「君…………
「えっ」
ラウラのびっくりした声がひとつ響いた。
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