第23話 女神の降臨、困惑の秘書
「はろはろ~みんな~! こんにちは!! カエデだよ!」
軍用テントに向かった先。
そこにはなんと、配信時と変わらぬ豊かな胸が強調される制服姿にライトアーマープレートという出で立ちのカエデが笑顔で待っていた。
「か、カエデちゃんだ!」
「本物だ……っ」
「か、かわいすぎる……」
「俺、もう、死んでもいいかもしれな……」
口々に感嘆の声を上げながらわらわらとカエデに集まる男たち。
「は、はあはあ。カエデちゃん、可愛すぎるでござる……っ!!!!」
肉侍はその最前線で彼女に握手を求め、そしてラウラは、
「ぁぁあああああああああああああああああああ生カエデたそっ!!!!!!」
その集団から一歩離れた場所でずしゃあっ、と膝をつき、両手を合わせて頭上に掲げて咽び泣いた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「きっっっっっっっも」
空気は再び凍り付いた。
警備にあたっていた警察官の方々も何事かと様子を見に来た。
ちなみに、最後の罵倒の言葉を投げてきたのはアツシである。
「ちょっ、君、いきなり何してるんだね!」
「我、やはり、感無量⋯⋯っ」
最近、続けざまにカエデに直接会えてしまっており感覚が早くも麻痺し始めていたかと危惧していたが──安心した。全くそんなことは無い。
むしろ、この肉眼でカエデを捉えるごとに、この畏敬の年は強くなっている気さえもする。
そうして感動に一人浸っていると、マネージャーが飛んできた。
「いいからっ、ここ、一応政府用地なんだよ⋯⋯っ!? ほらっ、警察の人こっちみてるし、騒ぎにされると
「ふむ⋯⋯そうか? しかし、別に貴様が困ろうと我の知ったことではないな」
「つまりカエデも困るってことなんだよ!」
「⋯⋯っ! それはまずい! 貴様、なぜそれをもっと早く言わなかった!」
「あれだね⋯⋯、君もなかなかに変な人だね」
がっくり項垂れるマネージャーの後を追ってラウラもまた人だかりの一員になる。
⋯⋯にしては他の男性諸君から距離をほんのりと空けられたが、些末なのことだろう。
マネージャーはカエデの隣に立つと咳払いをする。
「それでは改めてカエデファンクラブの皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます! まずはカエデから今日のご挨拶をさせていただきます」
すると、カエデは一歩前に出て、扇状に集まるファンに向けて笑顔の花を咲かせる。
「改めてファンクラブのみんなこんにちは! 今日はカエデのオフ会に集まってくれてありがとうね! 当選するなんて、みんなすごいよ!」
「ふ、ふふふ。⋯⋯抽選ガチャのために、拙者、二桁万円突っ込んだでござるからな」
呟く肉侍にラウラはこそ、と聞く。
「どのくらいの倍率だったのだ?」
「事務所の公表はされておらぬが⋯⋯とある自称プログラマーが解析した結果は、ざっと二百万倍はあったとか」
「⋯⋯! それはすごいな」
「カエデちゃんは世界中にファンがいるでござるからな。しかも、一人が変える口数に制限はなかった。当然の数字とも言えるでござる」
視線を前に戻す。
「今日は事前に告知してた通り、今からカエデと一緒に
「ふ⋯⋯弱すぎて退屈しそうか心配だな」
そういったのはアツシ。
その言葉に何人かが同様の反応を示す。
なるほど、あの辺がイキリ中級者だろうか。
「それじゃあ、みんなまずは持ち物確認ね! メールで送った通り、忘れずにライセンスカードは持ってきてくれたかな? それが無いとダンジョンに入れないので今からチェックしま〜すっ!」
「──む?」
ラウラはその場に固まり、首を傾げた。
──ライセンス、カード?
そんなことは聞いていない。
いや、言葉自体は知っている。そういう物が存在するらしいことも知っていた。
ラウラはもぞもぞとスマホのメールアプリを起動しメールを確認する。
『カエデからの注意! ライセンスカードは当日絶対に忘れないでくださいねっ! もし忘れちゃったら一人だけ置いてけぼりになっちゃいますっ』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ちゃんと書いてあった。
冷や汗がどっと背中から吹き出す。
「それじゃあ、みんな! 私はちょっと先に準備してくるからまたあとでね!」
そう言って、ロータリー脇に併設されている施設へと去っていってしまうカエデ。
そんな彼女の惜しんで数々のオタクたちが嘆きの声が上げるが、ラウラの目にその様子はほとんど映っていなかった。
「どうしたでござるか、ラウラ殿?」
こちらの様子がおかしいことに気付いたのか、肉侍が心配して顔をのぞきこんでくる。
「もしかしてライセンスカードを忘れたでござるか?」
肉侍のスマホ上にはバーコードが表示されていた。
なるほど、今はカードと言いながらアプリ上で管理されているらしい。
「ふむ⋯⋯⋯⋯状況としてはちょっと、近いかもしれぬ」
「えっ! 大丈夫でござるか!?」
いつの間にか男たちは列になり、マネージャーがかざすiPadの前に並んでいる。
その最後尾に付いても、およそ五分もかからずラウラの番になってしまうだろう。
ラウラは天を仰いだ。
「──仕方があるまい。奥の手を使うか」
「お、奥の手でござるか? もしや、何かのVIP待遇でござるか?」
「そういう訳ではないが⋯⋯ちょっと失礼」
ラウラはおもむろにスマホを取り出すと、たった一つだけ登録されている電話番号に発信した。
たっぷり五コール鳴ると、ぷっ、と回線が開く音が鳴り、
「──はいっ、こちら第七師団・シロです!」
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