第17話 うちの元部下はかわいい
かくかくしかじか。
こういうことで。
──そんな風に言葉を積み上げるごとに、エリアーナの眉間の皺はきつくなっていき。
やがて青い顔をして片手で顔を覆った。
「……わたくしの手塩にかけて育てた子たちが、全裸に、秒殺、されたですって? ……意味がわからなすぎて吐きそうですわ」
「安心しろ。我も同感だ」
「……あの子たちにはあとでお仕置きしませんと」
「いや、エリア。彼女らはよく練られていた。ただ我が強すぎただけだ」
「……それにしても全裸に倒されるとは、末代までの恥ですわ。この変態の、露出狂の、覗き魔に倒されるなど……」
「そこまで言うほどであろうか……?」
ラウラは精神的ダメージを5負った。
エリアーナは大きくため息を吐く。
「……それで? あの娘──カエデのアカウントがBANされたから世界を書き換える、と?」
「うむ、その通りだ」
ラウラは神妙に頷き、
「馬鹿言わないでくださいませ」
エレアーナにざっくり両断された。
「しかも、そのために当代魔王から魔力を盗む? 一体何を考えておりますの?」
「我は至極真面目なのであるが? そんなにおかしな話であろうか?」
「あたりまえです。逆にどうしてそれが普通だとお思いになりますの?」
「当代魔王なぞ、ちょっと気絶させれば、魔力を盗まれたことなど気付くまいて」
「どこかの尻軽女神と一緒にしないでくださいませ」
女神相手に酷い言いようである。
すると、エリアーナは悪巧みをする少女のような笑みを浮かべた。
「──ひとつ、いい情報がございますわ」
「ほう……? それは?」
「当代魔王から直接奪う必要もなく、簡単に魔力を補充する方法ですわ」
「それはなんだ、エリア! 是非とも教えてくれ!」
「条件がございますわ」
そしてエリアーナは、突然もじもじしながら言った。
「こ、今度っ、わたくしと、デートしてくださいませっ! ──それが、条件ですわ」
「いいだろう」
「そんなあっさり!?」
エリアーナは面食らった。
しかし、ラウラは歯を光らせて、
「エリアのようないい女と一緒できるのを断る理由もなかろう」
「……それ以外は誘ってもまったく動じませんでしたのに、なぜですの!?」
「まあ、それはそれ。これはこれ。訳があるのだ」
それからエリアーナは大きく息を吐く。
「わたくし、ラウラ卿の恋愛観がよく分かりませんわ……」
「うむ? 我ほど単純明快な男もそういないぞ」
「いいえ、そんなことありません。訳が分かりません。まったくもって意味不明ですわ。繰り返すようですけど、現役時代にはあんれほど迫ったのにノーリアクションで、かと思えば今になって二つ返事でデ、デ、デートをごりょいう省いただけるなんて」
ラウラは笑った。
「人間界でも言うだろう。〝何事もタイミングが大事〟であると」
「……そうでしょうか」
エリアーナはすっと目を細めると、ラウラの前にしゃがみ込んだ。
彼女が俯いた瞬間、バスローブのたもとから重力に惹かれて形を大きく楕円形に崩した巨大にすぎる谷間が露になる。先端は見えない。否、先端だけは見えない。逆説的に、それ以外は全て見えていた。双房の付け根も、胸元にあるほくろの位置も、全て。
ラウラは視線を決死の思い出引き上がした。
同時、エリアーナはラウラの目の前にしゃがむと、真っすぐに見てくる。
「ラウラ卿、単刀直入に聞きますが──貴方には性欲というものがありますの?」
ラウラは驚いて片眉を上げた。
「え? あるある、もちろんありまくりであるぞ」
「そうとは思えない行動が続いてきましたので。──いえ、行動というより、反応、でしょうか」
それはしっかりと紳士の皮を被ってきたから、とはラウラは言わなかった。
なぜなら真に紳士たるを貫くのであれば、それ自体を自分の口から主張するものではないと思うのだ。
しかし、言わないことが彼女に伝わるはずもなく。
「……それならば、先にそこだけははっきりさせていただきますわ」
「ちょっ、エリア、何をするつもりだっ」
「簡単な確認をするだけですわ。──ラウラ卿にお子を作ることができるのかどうか」
「お子!?」
「大事なことですわ」
「……もし、できなかったら?」
エリアーナは慈母のように柔らかく微笑んだ。
そして彼女は全ての迷える子羊を包み込むような笑みで言う。
「できるようにしてあげますわ。──強壮剤なんて真っ青なわたくし特製の魔術で」
「へっ!?」
想像していた答えと何か違う。
「もしかして、と思ってラウラ卿のためだけの強壮魔術をかねてより編んでおりましたの。そこらの精力剤の何千倍、何万倍と効きますわよ。使えば向こう百年は、わたくしの身体のことしか考えられないようにしてさしあげます」
「だ、だだだ、大丈夫だ! そ、その必要はないであるからなエリア!」
「……疑わしいですわ」
四つん這いになって迫ってくるエリア。
バスローブは色々とはだけていて、色々と見え隠れしている。
エリアの匂いが強くなる。甘い、甘い女の匂いだ。
そうして彼女の顔が目と鼻の先まで迫ってくると──
「……あら? あらあらあらあら?」
不意に、エリアは動きを止めた。
ラウラはいつの間にか閉じていた目を薄く開ける。
すると、エリアは驚き半分、嬉しさ半分の表情で視線を下に落としていた。
それすなわち、ラウラの股間。
「……これ、わたくしに反応しましたの?」
ちょん、と布越しに先端をつついてくるエリア。
ラウラは思わず飛び跳ねた。
「え、ええええ、エリア!? 何をする!?」
「ふふ、ふふふ、ふふふ」
しかし、エリアーナは話を一切聞いていない。
まるで少女のように、両手を合わせてふわふわとほほ笑むばかり。
その表情が心底幸せそうで、ラウラは段々と色々なことがどうでもよくなってきた。
「……これで分かったであろう、エリア。我はこれでも頑張って理性で我自身を抑え込んでいるのだぞ?」
「ふふ、そうですね。ラウラ卿はえっちですね」
「な……っ! そういうことではなくてだなっ」
「ふふふ、そういうことです」
そう言うと、エリアーナがずい、と顔を寄せてきた。
ラウラの半身に影が落ちる。
気が付けば、右の頬に柔らかくて温かい感触があった。
キスをされたのだ、と遅れて気付く。
身を離したエリアーナは、恥ずかしそうにはにかんだ。
「これは親愛のキス。この先の楽しみは、次にとっておきますわ」
「……この次は、ただのデートであるからな」
「それでも嬉しいですわ」
そう言って、笑った二人は、いよいよ話を本題に戻して魔王軍本部の一角でヒソヒソ話を始めた。
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