第14話 先代魔王、(全裸で)無双する
否──蒸発したのは、地面だけではなかった。
その空間にあるすべての物質が蒸発した。
ただ一つ──ラウラを除いて。
「効かぬな」
「!?」
正確に言えば、ラウラの
ジャージ上下一式のみならず下着までもが灰燼に帰した。
つまりラウラは今、全裸だった。
「きゃ、きゃーっ!!!!」
森の中に魔女たちの悲鳴が響き渡る。
反応は主に二つで、
「なっ、何てものを見せるのよ!」
「不潔! 変態! 痴漢魔王!」
ラウラを語彙の限りを尽くして罵倒する魔女たちと、
「あらやだすごい……顔はショタでも、下はちゃんと魔王なのね……」
「こ、これはエリアーナ様も入れ込むのも分かるっすね……」
肉食系な魔女たちだった。
そんな二つのグループへ、連隊長の魔女は必死に命令を下す。
「お前たち何を呆けている!! 第二波、術式用意ッ!!!」
ボケてはいても、さすがはエリアーナが鍛え上げた部隊。
練度は流石で一瞬にして大魔術が次々に組み上げられ──
「──流石に次を受けたら痛そうであるな」
「
ラウラの肢体目掛けて放たれた。
その直前、
「ふ……っ」
ラウラは頭上へ飛び退ると、そのまま放物線を描いて連隊長の背後を取る。
「ひ……っ!」
背を向けたまま息を呑む連隊長。
放たれた大魔術の束はそのまま追尾し、今いるラウラの場所へと軌道を修正する。
しかし、その手前には連隊長が立っており──
「総員、術式解除!!」
「「「「────ッ!!」」」」」
連隊長とは別の魔女が一喝すると同時、連隊長の眼前で大魔術の束がはじけ飛んだ。
「やはり、エリアの部下だけある。魔術の扱いは流石であるな」
「あ──っ」
言葉と同時、ラウラは連隊長の首に手刀を繰り出し、意識を刈り取る。
「……くっ、よくも連隊長を!」
「次」
索敵班の魔女が二人、左右から同時に稲妻の魔術を行使してくる。
しかし、それをラウラは軽快なフットワークでフェイントを交えながら躱すと、
「首、失礼」
「は──っ」
「ぁう──っ」
二人の合間に入り、両の手刀で連隊長と同様に気絶させた。
困惑する魔女たち。
なぜ当たらない。なぜ追尾しきれない。
そんな彼女たちの当惑が手に取るように分かる。
「なぜ当たらぬのか、と思うであろう?」
「「「「「「……!?」」」」」」
「単純な話だ」
ラウラに迫りくる火焔の龍。
それもラウラは軽々とぐくり、飛び越えると、いつの間にか火焔の龍は自分で自分の身体をぎゅうぎゅうに結んでしまっていた。そして魔力によって姿形が保てず、霧散する。
「魔術は術式を組み、起動すれば終わり──というわけではない。起動した後、大気に流れる魔力の流れを読み、見切るのもまた同じく重要なのだ」
「大気の、魔力の流れを読むですって……!?」
「そんな話、聞いたことないんですけど……っ!!」
姉妹の魔女は憎々しげに叫びながら次々に魔術を行使するが、彼女らもまたラウラの体躯──裸体とはっきりと明示すべきだろうか──を捉えることができず、あえなくラウラの手刀を前に撃沈する。
ラウラは小首を傾げた。
「ふむ……おかしいな。エリアにはその昔、教えたはずなのだが」
「「「「エリアーナ様、絶対ムキになってこの人の教え、無視したんだ」」」」
それからは虐殺と言うには物足りない──それでいてもっと圧倒的で一方的な制圧戦が展開され、事態はあっさりと決した。
「きゅ、きゅぅ…………」
最後の一人の魔女が倒れると、森の広間に立つのはラウラ一人だけとなった。
「ううむ……存外、時間がかかったな。エリアは部下をよく鍛えているようだ。感心感心」
そうして腕を組み、一人満足げに頷いていると。
「あれ……っ! 誰かいるみたい、です、ね──」
不意に背後から聞き慣れた少女の声が耳朶に届いた。
というよりも、カエデの声だった。
振り返る。
目が合う。
カエデの斜め後方の宙に浮かぶカメラ代わりの使い魔の蝙蝠がラウラを凝視していた。
カエデもまたラウラを凝視していた。
全裸のラウラを、凝視していた。
一瞬の沈黙。
ラウラは全てを悟った
「──我、おわた」
同時。
「きゃぁあああああああああああああ!! 全裸! 変態!」
カエデの絶叫が響く。
しかし、それだけで済めばよかった。
事態はそれだけでは終わらずに、カエデは更なる悲鳴を上げる。
「──ってぁああそんなぁあああああ!!!?」
彼女はずしゃあっ、と地面に崩れ落ちて、
「全裸のせいでアカBANされたぁああああ!!!!」
「……………………」
血の涙を流した。
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