第13話 魔女は大抵年下好き
──お待ちください、ラウラ様ッ!
そんなシロの叫び声を耳朶の奥に残しながら景色が変異する。
ラウラが転移した先は、鬱蒼としげった真昼の森だった。
先日、シロが使った次元断層では人間たちに捕捉される恐れがあったためである。
今回、ラウラは最小にまで魔力を抑えて、奥多摩の地を踏みしめていた。
「……さて、カエデたそはどこであろうか」
辺りを見回すが、どこまでも広がるのは薄暗く繁茂する木々や草木ばかり。
鳥や虫の声で、森の中は存外、騒がしい。
ラウラは目視での探知は諦め、代わりに目を閉じ、カエデの魔力を探る。
「そこか」
カエデの魔力はすぐに探知できた。
ここから北に五十メートルほど。すぐ近くだ。
しかし、探知したのはそれだけではなく──
「やはりエリアーナの部下たちも来ていたか。危ないところであった。……このままカエデたそが進めば、丁度奴らにかち合ってしまうな」
さて、とラウラは首を鳴らすと、とん、と地面を蹴った。
瞬間、大地が大きくめくれ上がり、旋風が巻き起こる。
果たして、一瞬にしてラウラは魔王軍の本陣へと辿り着いていた。
「──失礼する、エリアの部下たちよ」
「え?」
「は?」
山間に拓けた広間。
そこに待機していた総勢三十名にも上る黒衣に身を包む魔女が、一拍遅れて広間の中心を見た。
周辺地図を投影し、作戦の最終確認をしていた連隊長も。
野営用のテントを仕舞っていた少女らも。
今まさに箒に跨って出撃しようとしていた斥候たちも。
その後ろで待機していた本隊の魔女たちも。
誰も彼もが身動き取れずにいた。
やがて、そのうちの一人が呟く。
「今、この男の子、どこから来た?」
「んんん?」
期待と異なった反応が返ってきてラウラは戸惑う。
てっきり、「あなたは、先代魔王・ラウラ──!」くらいの驚愕、衝撃、大喝采を期待していたのだが──
どうやら、ラウラがラウラであることを認識できていないようだった。
「あら可愛い。結構童顔ね」
「え、まってまって、私結構タイプかも!」
「ねえ、君。後でおねーさんたちとあっちで遊ばない?」
「待て待てビッチたち! この子、私たちの索敵網をくぐりぬけてきたんだぞ! 戦闘配置に就け!」
「えーでも連隊長~。この子、まじふつーの子っぽくないですか?」
「しかし……。いや、いや……っ、惑わされるな!」
「この子、人間だよね? んー? あれ、でも魔族? にしては魔力が全然感じないけど……」
ふ……。
どうやら魔力の隠蔽は上手くいっているようだ。
あの魔術に誰よりも詳しい魔女の目をかいくぐれているのだから上出来というものだろう。
しかし、なぜだろう……。
涙が頬を伝うのは……。
「……我、そんなに威厳、ないかのう……」
「あ……! 連隊長! なんかこの子、泣いちゃいました!」
「え!? ええ!? 待て待つのだ、警戒解除! 一旦解除! エリアーナ様に判断を仰ぐ!」
「──その必要はない」
ラウラは声音を落とした。
「我は先代魔王・ラウラ。推しのため、お主らを排除させてもらう」
「え……? 先代まおう……?」
えへん、と胸を張るラウラ。
その周囲を囲む魔女たちが顔を見合わせる。
そして幾ばくかの沈黙の末──
「「「「「「あなたがっ、エリアーナ様を泣かせたっ、ラウラ卿かっ!!!!!」」」」」」
「あれー!? やはり我が思っていたのと何か違う!?」
魔女たちは先ほどまでの様子とは打って変わって、両目を吊り上げてそれぞれの得物を構える。
目の色が変わるとはこのことか。
「みんな、いい? この子は──ううん、この男は、エリアーナ様を二度も三度も泣かせたクズ男よ。私たちのエリアーナ様のため、ここで絶対に討つわよ!」
「「「「「はいっ、連隊長!!」」」」」
「……お主ら、カエデたその命を狙っていたんじゃ?」
「そんな小娘のことなんてどうでもいいです。──なにせ、目の前に諸悪の根源が現れたんだから」
じり、じり、と包囲網を狭めてくる魔女たち。
ラウラは息を吐く。
「何やら色々と不本意であるが……」
そしてジャージの袖を捲ると、不敵に笑った。
「どこからでもかかってくるがよい、エリアの部下たちよ。諸事情あってこのラウラ、此度は魔力を一切使わず相手してくれよう」
「こ、の……っ。私たちを舐めるのもいい加減に──」
ガキン、と連隊長と呼ばれていた魔女の口元から音が鳴った。
それは口内に仕込んでいた魔石を噛み砕いた音だった。
直後、四方八方から無数の魔法陣が展開され、術式が組み上がる。
「──しな、さいっ!!!!」
ラウラの立っていた地面が、一瞬で蒸発した。
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