第12話 シロ、緊縛される
『実は今、私は奥多摩に重界した初級ダンジョン《嘆きの森》に来ているのですっ! ここには最近、ガラの悪いゴブリンさんたちがたむろしてて、若い女の子たちがたーっくさん被害に遭ってるみたいなんですよねっ。許せないですよねっ。だから今日は、そんなゴブリンさんたちを
洞穴にカエデの可愛く透き通った声が響き渡る。
その声を聴きながら、ラウラは無言で立ち上がった。
──と同時に、シロが駆け寄ってくる。
「ラウラ様!」
「ん?」
「ダメですからねっ!」
「……まだ我、何も言っていないはずであるが?」
シロはその細い腰に両手を置いて、はーっ、と大仰に溜息をついた。
「どうせまたあの地球人を助けにいくとか言い出すおつもりでしょう!?」
「ぐ……っ。な、なぜ分かったのだ……っ」
「分かりやすすぎます! というかダメです!」
「なぜだ! カエデたんが危ないではないか! エリアーナの部下が狙っているのであるぞ!?」
「エリアーナの部隊はまだ姿を現していないでしょう!? そんなことよりもラウラ様が動かれる方が問題なのです! あのニュースサイトの騒動を見たでしょう!? ラウラ様が一歩ここから出ると、外は大騒ぎになるんですっ!」
「ぐ、ぬぬぬぬぬぅ……っ」
ラウラは唸り、腕を組み、必死に頭を回転させる。
「……しっ、しかし、エリアーナの部隊がカエデたんの前に現れてからでは遅いではないか! あ奴らは魔王軍の中でも手練れだ。カエデたんの目の前に出現して、事が済むまで五秒とかからないだろう!」
「それは……そうですが……っ」
「大丈夫だ、シロよ。心配ない。要は我の魔力を感知されなければいいのだろう?」
「え?」
ラウラは歯を見せて笑いながら、上腕二頭筋を見せつけた。
「この肉体だけで戦えば問題ないであろう」
「なっ、何を言っているんですか! この前、無謀だって言う話、私しましたよね!? ラウラ様、一体どれだけのブランクが全盛期からあると思っているのですか!!」
「そ……そんなに言われると、まるで我が弱くなっているみたいではないか……」
「現実から目を背けないでください! 現役時代に比べれば、今のラウラ様はハッキリ言って激よわです!!」
「げ、げき、よわ……」
がーんっ、とシロの言葉に打ちひしがれるラウラ。
しかし、軽く涙目になりながらも再び立ち上がる。
「……………ふ、ふふふ。そこまで言うのであれば、見せてしんぜようではないかシロよ。我が決して〝げきよわ〟ではないことを!」
「そっ、そう言う話では──っ!」
「シロ、ちょっと失礼」
「は──?」
ラウラは魔力を篭めた右腕を横に薙ぐ。
それだけで暗闇の四方八方から呪いの鉄鎖が勢いよく飛来してきた。
──シロに向かって。
「ちょっ、え、うそ……や、んぁ……っ! ら、ラウラ様、ぁっ、はんっ、何を……っ!」
「此度、シロはここでゆっくりと待っていればよい」
呪いの鉄鎖がシロの幼い身体にぐるぐると巻き付く。
ラウラが自分に掛けた時に比べて数段効力は弱めてあるが、それでも呪いは呪い。みちみちと緩やかにシロの肢体に絡みつきながら、要所要所を締めあげていく。
やがてシロの身体は鉄鎖を食い込ませながら宙に浮き、拘束された。
「…………シロ。顔が少しばかり赤くはないか?」
「こっ、こんな恥ずかしい恰好させるから……やんっ! ……です! それにこれ、変なところに当たって……っ!」
「ああ、依然エリアに教えてもらったマッサージのツボをついでに締めるようにしてみたのだ。これでしばらく経てば、シロの日頃の疲れもついでに取れるであろう!」
「それ、ぜったいっ、マッサージのツボなんかじゃ、ないですからね……!」
「む? なぜだ?」
「なんでもありません……!! というよりこっち見ないでください!」
「ふむ、なぜだかよく分からんが、承知した」
シロが厭がるのであれば仕方がない。
ラウラは素直にシロから視線を外す。
「ちょっ、本当にこのまま放置するおつもりですか!?」
「? そうであるが。……では、シロ」
そしてラウラはしゅたっ、と緊縛されたシロに手を上げると、
「──ちょっと我、魔王軍裏切ってくる」
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