第11話 先代魔王は火消しする
『観測至上初!! 超強力な魔力が渋谷で発生。魔導災害か?』
『四天王が渋谷に降臨? 有識者「可能性は限りなく低い」』
『指定危険団体・真の魔王を信奉する会〝ラウラ・スタローグ〟は先代魔王復活を主張』
『【速報】次元断層らしき痕跡を渋谷で観測──二子玉川学術研究都市・臨時会報』
情報は情報を呼び、噂は噂を作り、尾ひれが尾ひれを生み出す。
人の噂も七十五日。
消えない炎はない。
人は忘れる生き物である。
──とは言うが。
「……これは」
「う……む」
ラウラとシロは、ネットに並ぶニュースの見出しの数々に頭を痛めていた。
「ずいぶんと、大事になりましたね」
「……あの潔癖症のジェスターがこの洞穴へ飛び込んできたのも理解できるというものであるな」
ラウラがエリアーナを止めた一件は、想像以上に人間社会へと多大なる衝撃を与えていた。
「まずいなー、我はこんなつもりじゃなかったのになー。困ったなあー」
「ラウラ様はいい加減、後先考えない癖を治してください」
「それが我なのだからしようがないのだ」
「もうっ……、いつもそうやって逃げるんですから」
そうしてラウラいつものように山のように積まれたカエデのグッズに囲まれながら、布団の上でゴロゴロしていた。
すると、不意にラウラのスマホが通知に震える。
「む……っ!」
画面を見たラウラは跳ね起きると、慌てて空中へ大画面を魔術で投影した。
「シ、シロっ! スパチャの用意を! カエデたんがゲリラ配信を始めたぞ!」
「だからご自分で用意してくださいっ、ラウラ様!!」
エリアーナの宣戦布告からおよそ一週間が経過していた。
カエデが襲撃されないようにインターネットどころか日本全土にいかなる魔力の乱れも察知できるよう警戒の網を張っていたが、彼女自身に動きは全くなかったのだ。
先日の一件で心に深い傷を負って心が折れてしまったかとラウラはひどく心配していたのだが──ここにきてようやく、ラウラの端末にカエデのライブ配信開始の通知が入った。
『おはおは~、カエデだよ!! みんなひっさしぶり~! 結構時間開いちゃってごめんね!』
配信画面を開く。
すると、いつも通り元気そうに笑うカエデの姿があった。
どうやら今日はどこかの山間部にいるらしい。背景に森らしき木々の木漏れ日が見える。
:よかった~生きてた!!
:死んだかと思ったw よかたw
:安心した~これでまたカエデちゃんのご尊顔が拝める~
:JK成分補充たすかるーw
:てか、ことの真相をはよ!!!
:なんで生き残れたん!? てかあのイケメン救世主は誰!? 顔見えんかったけどww
同時接続数のカウンターが目まぐるしく回り、急増していく。
それも当然だろう。
そんな彼女が配信中に音信不通になったのだ。
インターネットニュースは彼女の話題で持ちきりで、動画サイトにも当時の切り抜きが大量に出回っていた。
特に渋谷での莫大な魔力観測で世の中の話題は持ちきりだ。
当然、同時刻にその場に居合わせていたカエデも注目の的になっていた。
なにせ、リアルタイムで当時の様子を配信していたのだから。
最も、はっきりと記録が残っていたのはエリアーナの姿までで、肝心な箇所の音声も映像もほとんどがノイズ交じりで識別不能だったのだが。
辛うじて残っていたのはラウラのおぼろげなシルエットと、ぼやけたカエデの声のみ。
視聴者は、彼女の口から事の顛末を聞けることを切望していた。
さらに加え、視聴者の興味はもう一点。
それが──
@三度の飯よりカエデたん ¥50,000
『お久しぶりです。ご無事でなによりです』
:で、でたー!
:三度の飯、てめぇを待っていた!
:お巡りさん、ストーカー野郎はコイツです
:当事者二名がログインしますた
彼らのもう一つの興味というのが、ハンドルネーム《三度の飯よりカエデたん》たるラウラであった。
どうやら、最後に残っていた音声が、よりにもよってカエデの呟きだったのだ。
──もしかして君、赤スパしかなげない三度の飯さん……?
ノイス混じりの中でも、それが唯一解読できてしまった言葉。
従って、視聴者全員は知ることとなったのだ。
あの場に現れ、エリアーナの一撃を弾いたのがラウラであることを。
『みんな、この前は心配かけてごめんね。私が未熟だったばかりにあんなことになっちゃって……。あと、なんかあの時の切り抜きが超出回っちゃってるみたいだし……。いっこずつ説明するからね!』
そうしてカエデは宣言通り、ひとつひとつ丁寧に説明をしていった。
渋谷の大深度クレーターで遭遇した魔族のこと。
まったく歯が立たなかったこと。
そしてあと一歩で殺されるというところで、一人の人間に助けられたこと。
ただ一つ、彼女は嘘を混ぜて。
『あの時は混乱してて変なこと言っちゃったんだけど……当然、あの時助けてくれたのは〝三度の飯〟さんじゃなかったよーっ。勘違いした私、ちょーうっ恥ずかしい!』
あそこで飛び込んだのは、ラウラではないと、そう言ってくれたのだ。
果たして視聴者は、
:なんだーそういうことだったのかw
:てか当たり前w つーかライセンス持ってない一般人が渋谷に入ることとかできないしww
:白馬の王子様現象すぐる
:そこで三度の飯の名前が出てきたことが非常に遺憾な件について
:じゃああの時カエデを助けたのは誰だったん?
存外あっさりとカエデの言葉を信じたのだった。
カエデはニコニコしながら続ける。
『あの時助けてくれたのはねー、たまたま大深度クレーターの底を
:──とカエデちゃんは申しておりますが事実に相違ないか三度の飯?
:被告人、回答しなさい
:これが嘘だったら二人とも○して俺も○する
:↑先生、コイツです
:モデレーター仕事してなくて草
ラウラは緊張を覚えながら念意でコメントを打ち込んでいく。
@三度の飯よりカエデたん ¥50,000
『全てカエデたんの言う通りです。そもそも私は隠居の身です。かつての部下には、「お前は千年間引きこもってろ」とまで言われる始末で』
:千w年wとかwwながすぎww
:部下辛辣すぎわろた
:元窓際族ですねわかります
:なんだよ逃げ切り世代かよ
:毎回赤スパ投げてんのもなっとくw
『──……。ねっ? ほら、全部わたしの勘違いが原因だから! 混乱させちゃってごめんね! ってことで、これだけで配信終わるのもあれだから、今日は久しぶりにコメント返しでもしてこうかと──』
そんなこんなで事の真相も無事、隠蔽できたラウラ。
あれやれと息を吐き、前のめりになっていた上体を元に戻した、その時だった。
『──思ってたけど、やっぱりそれじゃ画が暇だよね! っていうことで! 今からかるーくダンジョンをひとつ
「まてまてまてまて、待つのだカエデたん!」
ラウラはカエデの言葉に再び跳ね起きた。
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