嵐の中へ
皇帝ルクスは、皇帝親衛艦隊と他に七個艦隊もの大兵力を動員してクテシフォン同盟討伐のための皇帝親征を実施する事を正式に発表した。
ノワール軍閥討伐以来となる皇帝親征に、帝国軍は活気づいて戦意を高める。
惑星アウグスタの衛星軌道上には、今回の親征に参加する艦隊が続々と集結して、ルクスの出兵命令を待っている。
そんな中、皇帝御座艦であるヴァリアントの艦橋に、ルクスが姿を現した。
皇帝親衛艦隊司令官ロデリック・フォックス大将、ヴァリアント艦長ファウスト准将たち艦橋一同は、ルクスを敬礼して迎え入れる。
艦橋のモニターや立体映像のテレビ画面には、今回の遠征に参加する諸提督の姿が映し出されており、彼等もルクスに対して敬礼をしている。
「今回の親征は、ただの軍事作戦ではない。戦火に包まれた銀河を帝国の名の下に再統一する歴史的な一幕となるだろう。いいや、そうならなければならない」
「皇帝陛下のご指示通り、アルサバース星域周辺に配置されている各艦隊は既にローランド元帥閣下の下に集結して、陛下の到着を待っているとの事です」
「銀河系各地の艦隊もアルサバース星域へ向かう道中で合流する予定です。今回の動員戦力は、おそらく帝国軍史上でも最大規模であると思われます!」
「宜しい。この圧倒的戦力を目にすれば、クテシフォン同盟だけでなく、ブリトル星域の諸侯なども私の前に跪く事だろう」
新体制を迎えた帝国が皇帝ルクスの下で一丸となり、旧世代の遺物とも言えるクテシフォン同盟を討伐する。
それは戦乱の時代が終わり、新たな統一の時代の始まりを示す、絶好の政治ショーにもなる。
ルクスは周囲に表示されている立体映像のテレビ画面の一つに目を向ける。
その画面には、帝都防衛司令官のルイス・トルーマン少将の姿が映し出されている。
帝都インペリウムの防衛や元老院などの監視を担う彼は、今回の遠征には参加しないものの、後顧の憂いを断つという意味でも帝都の留守を預かる彼の存在はルクスにとって重要と言える。
「トルーマン少将、私が留守の間、インペリウムで起きた出来事の報告は全てドレルジーニ元帥にして、彼の判断を仰げ」
「承知致しました。陛下がクテシフォン同盟との戦いに集中できるように、必ずやインペリウムの平穏を維持してみせます」
「私がアウグスタを離れてアルサバース星域に赴けば、インペリウムに巣くう毒虫どもが何かしらの動きを見せる可能性がある。その尻尾を掴む事ができれば、今後の敵となり得る勢力を未然に排除できるかもしれん」
「はい。監視体制を強化して、僅かな動きも見逃しません」
「物資の動き。資金の動き。全面戦争にもなれば、痕跡は必ず出てくる。それを掴めるのは、インペリウムの内情に精通している貴官だけだろう」
「御意! 皇帝陛下の恩ためにもインペリウムの大掃除は私の手で成し遂げてみせます!」
ルクスは、クテシフォン同盟には裏から彼等を支援している協力者がいる事に勘付いていた。
クテシフォン同盟の急速な勢力拡大の裏には、必ず協力者の存在があるはずだと考えたためだ。
しかし、インペリウムにいる事までは突き止めたものの、それ以上の事はほとんど解き明かす事ができずに手詰まりといった状態だった。
今回の親征は、そうした協力者を炙り出す事も目的の一つなのだ。
艦橋のあちこちに表示されていた立体映像のテレビ画面は次々と閉じていき、諸提督を映し出していたモニターも通信が切れて周囲の様子を映す。
「皇帝陛下、全艦隊の出撃準備が完了致しました」
フォックス大将の報告を受けるとルクスは席から立ち上がって一歩前に進む。
「全艦隊、出撃! 最初の目的地はローランド元帥が拠点を築いている惑星バーリスだ!」
惑星アウグスタの衛星軌道上に展開している艦艇は、皇帝の命令を受けて続々と推進機関を稼働させて発進する。
その様は地上からは無数の光が遠ざかっていくように見えて、さながら流れ星が降る様子を逆再生しているようだった。
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