政変
『先ほど
遠征を急遽取り止めてインペリウムに帰還したアルビオンは、帝都の秩序を回復すると、帝国政府の公式発表してルクス帝の死と自身の即位を報じた。
この発表はすぐにも帝国中に広がり、銀河中には動揺が走る。
ルクス帝の手によって、ようやく戦乱の時代が終わりを見せようとしていたのに、再び逆行してしまうのでは、という不安が民衆の脳裏を過ったのだ。
◆◇◆◇◆
帝都インペリウムの一等地に建つクリーヴランド邸では、ファウスティナ・クリーヴランドがテラスにて紅茶を吞みながら政府発表を聞いていた。
「アルビオン提督、随分と周到に準備をしていたようね」
金髪碧眼の見目麗しい令嬢は、ティカップをテーブルの上に置くと、ため息交じりにそう呟いた。
そんな彼女の言葉に、彼女の傍に控えている執事ロバート・エインズワースが反応する。
「はい。元老院議員の中にもアルビオン提督の協力者がいるのは間違いありません」
「地位も名誉も奪われて、なりふり構っていられない連中の弱みに付け込んで懐柔したんでしょうね。情けない奴等だこと」
帝都の貴族達は、貴族間に独自の情報ネットワークを構築している。
その情報網からファウスティナは、今回の一件がアルビオンの陰謀である事を把握していたというわけだ。
「セウェルスターク軍閥は事実上アルビオン提督が引き継ぎ、帝位も彼が引き継ぐとなれば、帝国の全権はアルビオン提督のものとなります」
「セウェルスターク王朝は一代限り。まったくルクスにしてはらしくない失態ね。ふふふ」
「アルビオン提督は諸侯に対して、自身に恭順の意を示すように求めてきております。如何致しますか?」
この要求を拒絶した場合、アルビオンは先帝暗殺の共犯として排除されるのは明白だろう。
そして恭順の意を示した場合、帝都の秩序回復を急ぐアルビオンは決して無下にはしないだろう。
「諸侯はアルビオンに従うしか無いでしょうね」
「はい。既に恭順を誓約した貴族は幾人か出ています。元老院の一部が協力者にいた事も大きいかと」
「元老院もすっかり骨抜きにされて情けないわね」
幾多の軍閥の台頭により、元老院は多くの力を失っていた。
それに代わって勢力を拡大した軍閥と結びつく事で辛うじて権威を維持してきたが、こうなってしまってはもはや元老院は宿り木が無くては独力で生き残るのは難しい状態にまで落ちぶれてしまったと言えるだろう。
「それよりもお嬢様、クリーヴランド家としてアルビオン提督からの要請にどう答えるかを決めませんと……」
「どう答えるも何も、選択肢は無いでしょう。とはいえ、あっさり認めるのも癪だから、もうしばらく返答は先延ばしにしなさい」
「畏まりました」
◆◇◆◇◆
帝都の情勢を大方落ち着かせたアルビオンは、秩序回復の集大成として自身の戴冠式を敢行した。
本来であれば皇帝の戴冠式は
そこで今回の戴冠式は、アルビオンの居城とも言える参謀本部庁舎にて行なわれる事が決定した。
即席な上に軍の施設で行なわれる戴冠式は、テロ対策の必要性もあって非常に厳重な警備の下で開催される。
庁舎の上空には多数の軍艦が飛行して祝砲を打ち、庁舎の周辺には異常な数の兵士が配置されている。
そんな中、アルビオンは正装に身を包み、
式典用の礼装を着た兵士達の中を歩き、玉座の前で立ち止まると、玉座の上に置かれている帝冠へと手を伸ばす。
戴冠式にて帝冠を授ける権利を持つのは元老院議長であるが、元老院が事実上停止状態にある今、アルビオンは自らの手で頭上に帝冠を載せようとしているのだ。
帝冠を手にした瞬間、アルビオンは溢れ出す興奮に思わず笑みを零す。
全人類の頂点の座が今、自身の手の中にある。
長年に渡って、ずっと欲していたものが手に入ったのだ。
「随分と嬉しそうだな、アルビオン提督」
突如、式典会場に男の声が響き渡る。
その声の主が誰なのかを、会場にいる者の全員が瞬時に理解した。
「皇帝陛下!」
参列者の士官の一人が声を上げる。
それに反応してアルビオンが顔を上げると、巨大な立体映像画面が映し出されており、そこにはデスクに腰掛けているルクス・セウェルスタークの姿があった。
そしてその隣にはファウスティナ・クリーヴランドが立っている。
その姿を見た会場は一気にざわめき出し、アルビオンは衝撃のあまり唖然とした。
「アルビオン提督、うまく立ち回ったつもりだろうが、少々手広く動き過ぎたな。暗殺計画の存在は、こちらにいるクリーヴランド公爵令嬢からの情報提供で事前に掴んでいたのだよ」
「な! そ、そんな馬鹿な! お前は確かに死んだはず!!」
「ふん。動揺して言い訳すらできんか。まあいずれにせよ。君の罪状は明白なわけだ。皇帝暗殺を企てて、帝位の簒奪を目論んだ。もはや弁明の余地すら無い。会場にいる、我が親愛なる将兵達よ。銀河帝国皇帝の名において命じる。その罪人を処刑せよ」
あまりに突然の勅命に、会場の皆は凍り付いた。
先ほどまでのざわめきは一瞬で鎮火したが、次の瞬間には会場警備を担っていた兵士の一人が「皇帝陛下万歳!」と叫びながらアルビオンに向かって発砲。
それに続くように他の衛兵も次々とアルビオンに発砲して、あっという間に蜂の巣と化したアルビオンは帝位に就く前にこの世を去るのだった。
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