終わらぬ混乱
アルサバース星域に誕生したクテシフォン同盟という脅威に対処すべく帝都インペリウムでは、帝国軍参謀本部総長クロード・アルビオン上級大将の命令で派兵の準備が進められている。
そんな中、皇帝ルクスは
「反逆者ヴォロガセスを捕らえて、その首を皇帝陛下の御前に献上してみせます!」
「帝国の権威に傷を付けたヴォロガセスに己の罪を償わせましょうぞ!」
血気盛んな若手の提督達は、皇帝ルクスを前にして意気揚々と語る。
特に最近になってルクスの配下に加わった新参者は、少しでも栄達のチャンスを掴むために必死だった。
「諸君等の活躍に期待している。だが相手は、あのオーウェル総督をも手玉に取るほどの老獪な人物だ。決して油断するな」
ルクスはそう言うと、アルビオンに視線を移して会議を進めるように促す。
「クテシフォン同盟は着実に勢力を広げつつあります。これを迅速に平定しなければ、帝国にとって大きな脅威となるのは明白です。よって参謀本部としては五個艦隊及び七個小艦隊の動員を検討しております」
戦力的には先のノワール軍閥討伐作戦の際よりも多くの艦隊が用意された。
さらにアルビオンは今回は皇帝親征を行なわないように皇帝ルクスに要請した。
「みだりに陛下が帝都を留守にされては内政が安定しません。今回は私が総司令官として遠征軍を指揮します故、皇帝陛下には帝都に残って頂きたいと存じます」
アルビオンの提案に、諸将の反応は賛否両論だった。
帝国の内政は未だに不安定な状態にあり、ルクスは皇帝の職務で多忙を極めていた。
玉座を空けて政務が滞る事は、帝国としては避けたい事だったのだ。
さらにその一方で、皇帝が出兵に参加しなければ帝国軍の本気度合いを内外にアピールできずに諸侯に軽んじられるのでは、という危惧の声も存在した。
諸将の意見を一通り聞き終えたところでルクスは、アルビオンの提案を採用する事を決定した。
「ブリトル星域にも不穏な動きがあるという情報もあるしな。アルビオンの言う通り、玉座を長期に渡って空けるのは得策とは言えない」
「ブリトル星域に派遣したアイリッシュ総督からは、ブリトル諸侯に叛意の気配有りとの連絡が来ています。あそこもインペリウムからは遠い上に、数多くの諸侯の領地が乱立している厄介な星域です」
ブリトル星域は、多くの帝国貴族が私領を設けているところであり、シャーム星域のノワール軍閥のような有力軍閥も無ければ、アルサバース星域のヴォロガセス公爵家のような纏め役となる大貴族もいない。
さらに帝都インペリウムからも遠く離れた星域なために、ほとんどの軍閥は敵対しない限りは放置というのが現状だった。
しかし、元老院との繋がりが強い帝国貴族の領地が多く存在するこのブリトル星域は、行き場を無くした元老院議員やその縁者が徐々に身を寄せるようになり、さらにそこに皇帝ルクスの新体制に不満を持つ輩が集まりだしていた。
「クテシフォン同盟がブリトル星域の諸侯と結べば、ユリアヌス軍閥やノワール軍閥にも匹敵する、いや、それ以上の勢力に膨れ上がる恐れがある。アルビオン上級大将には迅速にクテシフォン同盟の討伐を願いたい」
「お任せ下さい。このアルビオン、必ずや皇帝陛下のご期待に応える事をお約束致します」
こうして参謀本部総長クロード・アルビオン上級大将を総司令官とする遠征作戦の実施が決定された。
それからは作戦の具体的な内容について協議されたが、その中でも一番時間が掛かったのはどの艦隊が遠征に参加するかであった。
諸将は誰もが自らの艦隊を陣列に加えてほしいと主張し、ルクスやアルビオンは彼等のこれまでの実績などを検討する必要があったためである。
◆◇◆◇◆
数日後、アルビオンは自ら艦隊を率いて帝都インペリウムを出立。
クテシフォン同盟を討伐すべくアルサバース星域へと針路を向けた。
一方、皇帝ルクスは
元老院を排して、皇帝による軍事独裁体制を敷いたために広大な帝国を統治するための政務の多くが皇帝の下に流れてきた事が、皇帝の仕事量を増大させていた大きな要因である。
しかしルクスは、それを手早く、そして的確に裁いていく。
「ルクス様、紅茶を用意しましたので、少し休憩を取られては如何ですか?」
そう言って姿を現したフルウィは、ルクスの目の前に半ば強引に紅茶が入ったティーカップを置いた。
ティーカップが邪魔で政務ができなくなったルクスは、仕方なく仕事の手を止めてフルウィの言う通り休憩を取る事にした。
「まったくこの銀河はいつまで経っても混乱が絶えないな」
「ですがクテシフォン同盟もすぐに討伐されるんですよね?」
「そう期待しているが、混乱の種というものは武力蜂起だけではない。例を一つ挙げるとしたら、長く続いた戦乱の影響で物流が滞っている。これを解消しなければ、臣民の生活に支障を来してしまう」
銀河系各地の物流網は、長い戦乱の中で発生した宇宙海賊問題などによって深刻なダメージを受けていた。
また自身の領地への犯罪組織の侵入を恐れる貴族が、領内外の星間航行に制限を設けたり、禁止したりするという事態も起きている。
「尤もこうした問題を片付けるためには、まずは私に明確な叛意を示したクテシフォン同盟を討たねばな。できれば私自身が討伐に赴きたかったが、あまり長く玉座を空けておくわけにもいかんし。皇帝というのは何とも肩身の狭いことだ」
皇帝の権威をアルサバース星域の民に示すためにも皇帝親征を行なう事には充分な意義がある。
しかし、会議でアルビオンが話していた通り、皇帝が帝都を離れてばかりいては内政が安定しなくなってしまう事もまた事実。
「いっそお前が皇帝になるか、フルウィ?」
「え!?」
予想もしなかったルクスの問いに、フルウィは思わず目を見開いた。
「ははは。冗談だ」
「…………も、もう! からかうのは止めてください!」
頬を膨らませて抗議するフルウィ。
そんなフルウィの様子を見てルクスはさらに笑う。
その時だった。
激しい轟音と地響きが執務室に響き渡る。
それは紛れもなく何かが爆発した音と振動であった。
この数時間後、
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