駆逐艦戦法

 パリア・マルキアナ准将指揮するフリゲート艦隊“デストロイヤー”による強襲作戦により、戦況は第十三艦隊の優勢に傾いた。


 ラヴェンナ防衛艦隊は、第十三艦隊本隊の攻勢を抑えるために陣形を組み直す余裕は無く、デストロイヤーからのミサイル攻撃に為す術無く晒されてしまうのだった。


 大型艦艇が弾幕を張って守りを固めようとする中、小型で身軽なフリゲート艦は弾幕の隙間を掻い潜りながら接近し、敵艦の懐近くからミサイル攻撃を食らわせる。

 縦横無尽に暴れ回るフリゲート艦の猛攻に、ラヴェンナ防衛艦隊は陣形を徐々に突き崩されていき、そこを第十三艦隊の本隊が圧迫して傷口を広げていく。


「流石はルクス様の作戦です! 敵はもう散り散りで壊滅したも同然ですね!」


 そう声を上げて勝利を確信したのはフルウィだった。

 

「戦いはまだ終わってはいない。喜ぶのはまだ早いぞ」


「も、申し訳ありません」


 主人に叱られてフルウィはしょんぼりとするが、叱ったルクス自身も心の中では勝利をほぼ確信していた。


「だがそれにしても、フリゲート艦による太陽魚雷アポロンぎょらい攻撃は上々の戦果を上げているな」


 ルクスが口にした太陽魚雷アポロンぎょらいとは、デストロイヤーが主要兵装として使用しているミサイルの名称である。

 宇宙艦艇の動力機関である太陽反応炉アポロンリアクターを超小型化してミサイルの中に爆弾として搭載したもので、その破壊力は通常のミサイルを遥かに凌駕する。

 しかし、その一方で、通常のミサイルに比べて極めて高価である事と有効射程が短い事から実戦ではあまり用いられる事は無かった。


 ルクスは前者の問題については、新技術の開発、そして拠点としていた惑星シスキアからの莫大な税収を製造費に充てる事で、出費をできる限り抑え、後者の問題はフリゲート艦による至近距離からの攻撃で解決へと導いた。


「フリゲート艦は小さく素早いですが、それだけに充分な火力を搭載できず、戦艦相手には戦果を上げる事がほぼ不可能でした。そこを見事に解消しましたな、提督」


 そう言って上官を褒め称えたのは、第十三艦隊の参謀長ロデリック・フォックス少将である。

 今年で三十五歳とルクスより十歳も年上だが、将官の中ではまだまだ若手で通用する、やや癖のある緑色の髪をした人物だ。

 大柄な体格もあって威厳があり、ルクスと横に並んだ場合、服装や階級章などによる差別化が無ければ、初見の者はどちらが上官かを正しく認識するのは不可能だろう。


「これもアルセナート伯爵が新開発した新型フリゲート艦と新型魚雷の性能があってこそだ。常識を打ち破る新しい戦法というものは、考えるよりも実践する事の方が遥かに難しい。彼女の協力が無ければ、私の新戦法もただの机上の空論で終わっていた事だろう」


 今回のデストロイヤーの戦いぶりは戦史に残るほどのものであり、この時に活躍したフリゲート艦は後に《駆逐艦くちくかん》という新しい艦種が設けられてそこに分類されるようになった。


 それからしばらくして、ラヴェンナ防衛艦隊は、そのほとんどが撃沈するか戦闘不能に陥った。

 残った艦艇も散り散りになって各自の判断で撤退を始め、戦いは第十三艦隊の勝利となる。


 敵の抵抗を廃した第十三艦隊は進撃を再開し、惑星ラヴェンナを目視で捉える事ができる距離まで接近したところで、旗艦ヴァリアントのレーダーが新たな敵影を捕捉した。


「データベースに該当艦は無し! ですが敵艦は少なくともゲルマニクス級を超える大型艦です! 数は三隻。周囲には護衛と思われるフリゲート艦が数隻ほど確認できます」


 索敵オペレーターの報告を聞いたルクスは、フルウィに考えを述べるよう言う。


「おそらくユリアヌス軍閥が建造した新造戦艦ではないかと」


「そんなところだろうな。今回の戦いに動員しなかったところを見ると、まだ実戦投入できる状態ではないのか、それとも撃沈されるのがよほど恐ろしかったのか」


 ルクスとフルウィが話していると、光学カメラがその大型戦艦を捉えてメインモニターに映像を映し出す。

 画面に映った戦艦は、三隻ともまだ未完成のようで、装甲が無く艦の内部構造が剥き出しになっている箇所が所々あった。


「ユリアヌスが自分達の象徴となる巨大戦艦を建造する事で、自らの求心力を高めようと考えたのでしょう。たしかにラヴェンナであれば、帝国内でも屈指の造船所と技師が揃っています。あれを拿捕すればユリアヌスの名声は失墜するでしょうな」


 フォックス参謀長が敵の新型戦艦の鹵獲を提案する。

 敵艦の鹵獲は、建造に莫大なコストと時間を要する戦艦の調達を行う上で最も手っ取り早い手段と言える。

 それが敵軍が建造中の新型艦ともなれば、敵が新たに確立した技術や理論が詰まっており、ルクス達にとっても宝の山だろう。


「艦長、集中砲火であの敵艦を撃沈しろ」


「……しょ、承知しました、提督」


 命令を受けたヴァリアント艦長ファウスト大佐は、一瞬戸惑いを見せるも、すぐに気持ちを切り替えて命令を実行する。


「各艦にも通達しろ。徹底的に破壊するのだ」


 通信オペレーターがルクスの命令に従って各艦に命令を伝達する。

 その中、フォックス参謀長が口を開いた。


「宜しいのですか?」


「構わん。未完成の艦など戦場に連れ歩いても足手纏いになるだけだ」


 第十三艦隊は敵の新型戦艦三隻を囲むようにV字形の陣形を組み、集中砲火を浴びせる。

 それは一方的な蹂躙であり、三隻の新型戦艦は飛来する無数のエネルギービームに襲われて爆沈。その残骸は無惨な姿となり、宇宙の塵と消えるのだった。


「今の映像を銀河中に広めろ。帝都インペリウムにいるユリアヌスの目にも入るようにな」

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