ラヴェンナ攻略作戦

 ルクス率いる第十三艦隊とアルビオン率いる第一〇七小艦隊は、ユリアヌス軍閥の重要拠点である惑星ラヴェンナへと進軍した。

 進軍の過程で、近隣の弱小勢力が勝ち馬に乗ろうとセウェルスターク軍閥に合流したため、ラヴェンナ付近の宙域に到着する頃には艦艇数が倍近くにまで増大していた。

 その数は、ゲルマニクス級宇宙戦艦五十隻、セクスティウス級宇宙巡洋艦九十五隻。銀河全域を見渡しても屈指の武力を備えていると言えた。


 第十三艦隊の索敵網が進軍ルート上に敵艦隊を捕捉した瞬間、艦隊旗艦ヴァリアントに警報音が鳴り響く。


「敵艦隊発見! 詳細な艦隊構成はまだはっきりしませんが、艦艇数はおよそ百八十隻前後と思われます」


 索敵オペレーターからの報告を受けたルクスは「ほお」と小さく声を出す。


「かなりの艦艇を揃えたものだな。流石は銀河有数の軍港だ。ユリアヌスもこの星の防衛には相当力を入れていると見える」


 ルクスが余裕そうな様子でそう言う中、艦橋で最も大きく艦橋要員の皆が目にしやすいメインモニターには、光学カメラで捉えた敵艦隊の映像が映し出される。

 その映像は、カメラが捉えた実際の映像に加えて、レーダーなどから得た情報を、艦橋の戦術AIがCGで合成処理を行なっていた事もあり、とても鮮明で敵の規模や陣形などが分かりやすく表示されていた。


「なるほど。……フルウィ、お前は敵の動きをどう見る?」


 ルクスは自身のすぐ横に控えているフルウィにそう問いを投げ掛ける。

 主人の質問に対して、フルウィはやや自信無さげではあるが答え始めた。


「惑星ラヴェンナは、星の周辺に多数の軍事衛星があります。そこに艦隊を布陣した方がもっと有利に戦えるはずなのに、あえて星から離れた位置に布陣したという事は、ラヴェンナを戦場にしたくない理由があるものと思われます」


 軍港としても機能しているラヴェンナは、衛星軌道上に多数の軍事衛星を浮かべている。

 それは軍艦を停泊させるための簡易軍港用の衛星もあれば、敵襲から星を守るための防衛衛星もある。

 当然、艦隊が防衛陣地を築くのに適した環境は整っていると言えよう。


「その通りだ。流石はフルウィだ。進撃目標についてもよく情報収集をしているな」


「こ、光栄です!」


 主人に褒められた。そう思ったフルウィは満面の笑みを浮かべて嬉しそうにする。


「では、その理由とは何だと思う?」


「そ、それは、その~。お、おそらくラヴェンナを戦火に晒したくないのだと思います」


 やや自信なさげに答えるフルウィ。

 その様を見たルクスは小さく笑みを浮かべた。


「流石に少し難しい質問だったな。だが、ラヴェンナを戦火に晒したくないというのは間違いないだろう。しかし裏を返せば、敵にとって今のラヴェンナは決して我々の手に渡したくはないという事。手早く目の前の敵を片付けるとしよう」


「ですが敵の方がこちらよりも数が多いです。一筋縄ではいかないと思いますが」


「案ずるな。デストロイヤーを使う」


「え? しかし、あれは帝都攻略まで取っておくおつもりでは?」


「敵の思惑が何であれ、ラヴェンナを電撃的勝利で落とすにはアレが最も効果的だ。マルキアナ准将に連絡を取れ。デストロイヤーのお披露目だ、とな」


 やがて両軍は正面から衝突する格好で艦砲射撃による艦隊戦が始まった。

 共に百隻を超える艦艇同士の砲撃戦は、無数のエネルギービームの撃ち合い、神々しい輝きが真空の宇宙空間を飛び交う。


 その様は銀河を彩る星々を上回るほどの美しさを披露し、遠くから見る者の目を魅了するだろう。

 しかし、その輝き一つ一つが人の命を一瞬で消し去ってしまうとなれば、誰もが戦慄を覚えるというものだ。


 そんな砲火が飛び交う中、ラヴェンナを防衛するユリアヌス陣営のメランドール上級大将は勇猛果敢な指揮ぶりを披露していた。


 メランドール提督は、長年に渡ってユリアヌスの幕僚を勤めてきた老将であり、ユリアヌスの信頼も厚い人物だった。

 その信頼ぶりはユリアヌス軍閥の重要拠点であるラヴェンナの統治を任されている事からも明らかだった。

 

「こちらは敵よりも数が多い。この優位を最大限に活かすのだ。全艦、砲撃しつつ前進。セウェルスタークの鼻っ柱をへし折ってやれ! ラヴェンナには一隻たりとも敵を近付けるな!」


 自軍の優勢を確信して、メランドールはやや興奮気味になる。

 しかしそんな最中、索敵オペレーターが接近する新たな艦影をレーダーで確認した。


「て、提督、四時方向から接近する艦影があります! 極めて至近距離です!」


「何だと!? 敵の別動隊か!? 数は!?」


「識別信号、応答無し。おそらくは敵の艦隊と思われます。数はおよそ三十隻前後。ですが艦影はとても小さいので、おそらくフリゲート艦ではないかと」


「フリゲートだと?」


 フリゲート艦は、戦艦や巡洋艦に比べるとかなりの小型艦で、火力と防御力が大きく劣っている。

 しかし、その小型さ故に偵察任務や宇宙機雷の駆除など艦隊戦の補助的な役回りを担う艦艇になっていた。

 

 そのため、戦艦や巡洋艦の周りを固める事が主な役目であり、単独で艦隊を編成して行動するのは珍しかった。


 レーダーと光学カメラで捉えた敵味方の座標が艦橋の戦術AIによって編集されてメインモニターに映し出される。


「ん? なぜここまで接近されるまで気付かなかったのだ!?」


「も、申し訳ありません! たった今、いきなりレーダーに出現しまして……」


 怒声を上げるメランドールに、幕僚の一人が意見を述べる。


「おそらく新型のステルス技術を搭載しているのでしょう。現にあのフリゲート艦の熱紋は、現在帝国軍のデータベースに登録されている艦と一致するものがありません。この戦いのために用意した新型艦かと」


「なるほど。ステルスとはまた高価なものを」


「フリゲート艦は戦艦や巡洋艦に比べてかなりの小型艦ですので、その分の建造コストはかなり抑えられます。余った資金をステルス技術に投じたものと思われます」


「セウェルスタークめ。小賢しい真似を。だが、フリゲート艦の火力では我が艦隊に傷を付けることは、」


「敵フリゲート艦隊から、高速で動く熱紋がさらに多数検知! ミサイルと思われます!」


 メランドールの台詞が終わる前に、索敵オペレーターが声を上げた。


「至近距離からの攻撃なため回避が間に合いません!」


「ちッ! これが狙いか。弾幕を張ってミサイルを撃墜せよ!」


 提督の命令に従って、全ての艦艇は副砲、対空機銃を総動員してミサイルを撃墜しようとする。

 しかし、小さく高速で飛来するミサイルを撃ち落すのは容易な事ではなかった。

 さらにそのミサイル自体にもステルス技術が投じられており、レーダーを連動させた戦術AIによる照準補正が正常に機能しなかった事もミサイルの接近を許す大きな要因となった。


 フリゲート艦から放たれたミサイルは、次々とメランドール提督指揮下の艦艇に命中する。

 まずその餌食になったのは、スロック中将が率いる巡洋艦戦隊だった。


 直弾したミサイルは、信管が作動して大爆発を引き起こす。

 艦の表面を覆うエネルギーシールドは、爆発の衝撃に耐えられずに突き破られ、その下の装甲は一瞬で吹き飛ぶ。そしてそのさらに下にある艦内にダメージを与えるのだった。

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