閑話 本編歪曲クリスマスイベント

□前書き

 この話はクリスマスの日、小説投稿サイト『小説家になろう』にて初出されたものです。


□本編(閑話)

「いよいよタイトルがッ!」

 僕は叫んだ。ただでさえ閑話ばっかりなのに、ついに題名までもが閑話になってしまったのだ。由々しき事態である。いつもの閑話休題と言う言葉が禁句になってしまっているのだ。それすなわち、このお話の終了を意味してしまうからだ。タイトルと中身が矛盾して炎上でもしたら一番ダサい!

 そもそもおかしい点がいくつもある。さっきまでダルマ君の部屋にお邪魔をしていたのに、いつのまにか僕と雛坂は、いつものアパートにいるし、さっきまではなかったはずのクリスマスツリーが飾られている。アレックス(見た目だけ北海道犬の魔獣)の首輪まで松ぼっくりや(謎の)赤い実がついたクリスマス仕様になっている。

 クリスマスだという伏線なんてなかったのにッ!

 そんな描写一行たりともなかったのにッ!

 そもそも僕達はダルマ君家からの帰り道の途中だったのにッ!

「どうなってんだよ!」

 世界の中心で矛盾を叫んだ。

 そんな僕を雛坂はこたつで温もりながら、冷ややかな目で見てきた。

「何を言ってるの?」

「何って――、この状況はどう考えてもおかしいでしょ! そもそも、なんで僕達の内装までもがクリスマスパーティー仕様になってるんだ。あと、僕はいつの間にサンタの帽子をかぶったんだ!」

「はぁ。よくあることじゃない」

「こんなことがよくあっていいものか!」

「あのね。アニメの劇場版なんかで、時系列を無視した出来事なんてよくあることでしょ? この映画は〇〇編と〇〇編の間なんだよ、なんて告知をよくしているけど、よく見てみれば矛盾だらけ。アイツら全員詐欺罪で捕まるべきよ」

「どこに喧嘩を売ってるんだよ!」

「わあわあ言ってないで受け入れなさい。世の中は理不尽だらけなんだから。クリスマス特別編のために多少物語がおかしくなるぐらい別に良いじゃない」

「ダメだッ! 小説ってのは理屈が大事な世界なんだぞ!」

 ご都合展開というレッテルが貼られた小説を今まで何度見たものか。クリスマスだからと言って、時系列を歪めるなんてそんなものがあっていいはずがない。ご都合展開の極みじゃないか。

「まったく。世の中理屈に沿わないことだっていっぱいあるわよ。ほら、外に出てみなさいな。美男美女のカップルの紛れて、そうでもない男と美女の二人が仲良さげに歩いてたりするでしょ。美女と野獣のコンビなんておかしいじゃない」

「別に――。ある話じゃないのか?」

「そうね、確かに理屈はあったわね。あれは全部、キャバクラの同伴だものね」

「決めつけが酷いぞ! 男側の性格が良いとかいっぱいあるじゃないか!」

「美女と付き合ってる野獣がみんな性格良いなんてそんな偏見早く捨てなさい。時代を考えてほしいわ」

「お前の方がずっと偏見だ!」

 いつかこの女は訴えられると思う。そうに違いない。刺されたとしても、やっぱり? と言われてしまうほどに、この女は悪い奴だと思う。

「そうそう、クリスマスで思い出したんだけど、アイドルのクリスマスイベントってあるじゃない?」

「なんでクリスマスの脳内検索の結果にアイドルのクリスマスイベントがあるんだよ!」

「あら? クリスマスおひとり様の人は、アイドルとの疑似恋愛で楽しむものじゃないの?」

「その偏見はどこから拾ってきたものなんだ! クリスマスの過ごし方なんて人それぞれだろ!」

「ふーん。具体的にどんな過ごし方があるのかしら?」

「そりゃあ、例えば本を読んだり?」

「クリスマスに? 本を読む? おかしな話だわ。本に火を点けて暖を取ろうというのならまだしも、クリスマスに本なんて――」

「おいッ! どこに喧嘩を売ろうってんだ! やめとけッ!」

 本に火を点けて暖を取ろうなんて発想はどこから出てくるのだろうか。もったいないにもほどがある。もしや、この女まさか実際にしたことがあるんじゃなかろうか。

「――、あと、そうだな。クリスマスソングを聞いて、クリスマス気分を楽しむとか?」

「クリスマスソングって言うと、やっぱり失恋ソングかしら?」

「まあ、そうだな」

 クリスマスソングと聞いて思い浮かぶのはどういうわけか失恋ソングばかりだ。でも、独り身の僕としては、歌詞によく共感出来て――、

「モテもしない、告白もしない。それでクリスマスを迎えて、失恋したと嘆くのは言葉の誤用よ。ただ何もしてないだけの人間が失恋ソングを聞いてクリスマスにしみじみとした思いを寄せているなんて、傷口もないの絆創膏を張っているようなものよ。傷付くことを恐れている人間に失恋ソングで自分を慰める権利なんてないわ」

「暴論にもほどがある! 今から自首しに行け!」

「あら、私がどんな罪を犯したというのかしら?」

「お前みたいな人間は何かしら犯罪をしているに決まっている! 思考が犯罪者なんだよ!」

 僕の考えは暴論ではない。論理的である。うん、そうに決まっている。

「そもそも僕達みたいな人間は、クリスマスに騒いでるカップルの方に文句を言うべきなんじゃないのか?」

「? 私が攻撃しているのは八色君、あなただけよ。メリークリスマス。私からのプレゼントよ」

「要らないよ!」

「あら、せっかくサンタさんが作ってくれたのに」

「全部お前の考えたことだろ! サンタさんの所為にするな!」

「返品は受け付けていないし、それからこのプレゼントは着払いよ」

「商売しようとしてんじゃねえ!」

「慈善を押し付けるなんて最低ね」

「慈善の要素がどこにあったんだ」

 ただの悪舌だった。

「あなたにとっての悪を全世界共通の悪としてしまうのは見過ごせないわね」

「見過ごせないのはお前の言動だよ!」

「あなたにだって見過ごせない言動がたくさんあるわよ」

「何だってんだよ?」

「それは去年のクリスマスのこと――」

「なんで去年の僕をお前が知ってるんだよ!」

 一応、新事実であるが僕達が知り合ってからまだ一年はたっていないのだ。そういうわけで僕達はともに十九歳である。だから、僕達はまだお酒を飲めない。登場人物にお酒を飲ませるために、年齢を紹介しなかった某スキューバダイビング漫画を知っているが、僕は年齢を告白した以上、この作品にお酒が出てくるのは来年になるだろう。

「――、あなた、去年のクリスマスは高校の男友達と過ごしたんでしょう?」

 当たっていやがる。

「それで、独り身同士でカップルの悪口でも言っていたのでしょうね。聖夜だ性夜だなんてくだらない言葉遊びでもしながら」

 これも当たっている。ナニコレ、コワイ。

「あなたね、わざわざフードコートなんかに行ってカップルの悪口を言ってる暇があったら、クリスマスにも働いてくれてる店員さんに感謝の気持ちでも伝えなさいよ」

 雛坂は急に人の心を取り戻したかのようだった。誰が言ってんだよ、以外の反論が見つからなかった。雛坂の理論が暴論じゃなかったのは初めてかもしれない。

「――、そもそも僕達は何の話をしていたんだっけ?」

 少し前に脱線した気がする。いや、そもそも本編から脱線しているんだけど。

「言われて思い出したわ。アイドルのクリスマスイベントの話よ」

 確かにそんなことを言っていた気がする。

「まあ、別にクリスマスは関係ないんだけどね。最近、そういうイベントで、後ろの方でペンライトを振るでもなく腕組みをしている人のことを後方腕組みおじさんだとか後方彼氏面なんて言うそうじゃない。私としては、あれら全部をベ〇立ちとして統一したいのよね」

 どうでもいい話だったし、伏字されたこの某路上ファイターが伝わる人はどれだけいるのだろうか。

 まあ、あれもこれもどうでもいい話である。

 ということで、閑話休題。

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【休載中】アパート暮らしの勇者さん 三文 @Sanmonmonsan

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