第6話 悪役皇子、イケメンなことを言う







「もうやだ、つらたん」


「……はあ。そう気落ちする必要は無いかと」


「面倒臭そうに言うなよぉ!!」



 フィオナが溜め息と共に俺を慰めてくる。


 しかし、好きな子の前でいきなり失敗した俺の気持ちが彼女には分からないのだろう。

 今は溜め息とか、そういう細かいことですら心臓に槍が刺さったような感覚になる。



「ほら、早くティテュア姫の荷物を部屋までお運びください。私は彼女を案内しますので」


「分かってる……」


「言葉遣い」


「分かっているでありますですハイ」


「……まあ、良いでしょう」



 俺はティテュアが乗ってきた馬車から荷物を下ろし、用意しておいた彼女の部屋まで運ぶ。


 ティテュアは何も言わず、ただフィオナの案内に従っていた。



「こちらがティテュア様のお部屋になります」


「……随分と広い、ですね」


「はい。アルフェン殿下のご指示で、一番広い部屋をティテュア様にお使いしていただくことになっております。ご不満であれば、すぐ別の部屋に移しますが」


「……いえ。お心遣い、感謝します」



 軽くお辞儀して礼を言うティテュア。



「一つ、お訊きしたいのですが」


「なんでしょう?」


「夜伽は、必要でしょうか?」



 俺は思わず変な声が出そうになったが、ぐっと奥歯を噛み締めて堪える。


 夜伽。男女の夜の営み。


 ゲームでは嫌がって暴れるティテュアをアルフェンが組み伏せ、彼女が「やめてっ」と泣き叫ぼうとも構わず蹂躙する。


 アルフェンって竿役らしく超絶倫だしな。


 三日三晩どころか一週間以上の行為でティテュアの精神は呆気なく壊れてしまうのだ。


 今だってよく見たら震えている。


 そりゃあ、会ったこともない噂のキモ豚皇子の妻になって毎晩下のお世話をしろとか俺だったら発狂する。


 先に言っておこう。


 たしかに俺は女の子の泣いてる姿や凌辱系のエッチな本に興奮する。


 だが、純愛至上主義者でもあるのだ。


 敢えて言おう、別に性癖がいくつあったって良いじゃない。


 巨乳好きであり、貧乳好きであっても良いじゃない。

 おっぱいそのものを愛せる男こそが、真の胸フェチだと俺は思うのだ。


 だから嫌がるティテュアをどうこうする気はないし、気長にじっくり丁寧に口説く。


 ティテュアがほんの少しでも俺に心を開いてくれるなら、その時が訪れるのを待ち、一気に彼女の心を攻め落とす。


 だからこそ、今は彼女にこう言う。



「大丈夫ですよ。そもそも殿下はご病気ですし、無理矢理そういう命令はしましぇんから」



 ちくしょう。


 また大事なところで噛んだ!! どうして緊張しちゃうんだ、俺の馬鹿!!



「そう、ですか」



 俺がティテュアにそう言うと、彼女は少しホッとしたようだった。


 そう露骨に安心されるとそれはそれで複雑な気持ちになるが、黙っておこう。 


 すると、不意にティテュアが自嘲気味に笑った。



「本当に、私はどうしようもない女ですね」


「え?」



 え、なに? 急にどうしたの?



「執事さん。貴方は、私のしたことを知っていますか?」


「……ええ、一応は。この屋敷で知っているのは、俺とフィオナ先輩だけですが」


「そう。執事さん、私はとても悪いことをしました。沢山の人を傷つけたと思います。私は罰されて当然の屑です」



 ティテュアに表情は無い。ただ、虚空を見つめていた。



「でも、納得できない。私は屑ですが、私の周りには私以上の屑もいました。もう消しましたが」


「……」



 さらっと怖いことを仰っしゃる。



「私が誰かを不幸にしたのは、自分が幸福であると思いたかったから。悪いのは私ではなく、私が幸せではないかも知れないと思う切っ掛けを作った奴らにあると思います」


「……なるほど。理解はできますね」



 ティテュアは無垢な悪だ。


 ただ人々を苦しめたいから数々の悪事に手を染めていたわけではない。


 ただ、己の幸福を確かめたいだけ。


 その一つが魔王の復活であり、多くの人を傷付けてしまった。



「私は本来なら処刑されるところを助けられておいて、夜伽を強要されないと知り、安心しました。してしまった。本当に、自分でも救いようがない」



 俺はティテュアの独白を聞きながら、ふとあることを思った。


 これ、シナリオは変えられるなあ、と。


 ゲームのシナリオでは、ティテュアをアルフェンが犯す前後で彼女が心情を吐露する描写はなかった。


 つまり、今のティテュアの言葉は俺がシナリオを無視して動いた結果だろう。


 だからこそ、チャンスはある。



「人は人の不幸を見ることでしか幸福を実感できない、ですか。一理ありますけど、俺は違うと思いますよ」


「……どう違うのです?」


「誰かに幸せにしてもらうんですよ。幸せは比べるものではなく、積み重ねるもの。今からでも、ティテュア様は幸せを積み重ねてください」



 自分でもイケメンなことを言ったと思う。


 まあ、今の台詞は全部前世で友達だったイケメンの受け売りだけどな!!



「私には分かりません」


「む」


「幸せを積み重ねるということが、そもそも幸せが何なのかすら、私の中では曖昧ですから。『少なくとも目の前で不幸なこの人よりは』というのが、私の幸せの最低限の定義なので」


「……ふむ」



 これは思ったより重症だなあ。


 この少女をベッドの上で無理矢理犯して泣かせるアルフェンって、マジの鬼畜だよな。


 いや、俺のことだけども。


 しかし、それでこそティテュアを幸せにする甲斐があるというもの。


 俺はニヤリと笑った。



「だったらティテュア様、まずは俺が幸せの第一歩って奴を教えてあげましょう!!」


「……何をする気なのです?」



 俺の思う人間の幸せランキング第一位。


 それは、人類が文明を築いてから長い歴史の中で積み重ねてきた最大の娯楽。


 特に日本人はそこら辺に貪欲な人種だったから、あらゆる国の文化を模倣、吸収して独自の発展を遂げてきた。



「くっくっくっ。たしか例のアレがあったはず。アレとアレを入れたら……」


「……凄く悪い顔ですね……」



 ティテュアが何やら警戒心を強めてしまったが、問題ない。


 俺のスーパーテクニックを披露する時が来た。


 この幸せの『し』の字も知らないティテュアを分からせてやろうじゃないか!!


 





――――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

人は人の不幸を見て己の幸福を実感する、は作者の持論。でもどこかの偉い人が言ってた気がするから多分二番煎じ。


「何をする気だ!?」「分からせタイムだ!!」「本当にどうでもよくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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