第3話 悪役皇子、皇帝を説得する





「実は以前から、俺はティテュア姫について詳しく調べていたのです」


「む?」



 俺の思わぬ告白に、父上が目を瞬かせる。



「四年前、ちょうど魔王が復活する前の年ですね。帝国の建国記念パーティーに参加していたティテュア姫とお話する機会がありました」


「そうなのか?」


「はい。そして、彼女に一目惚れしました」


「そうなのか!? あ、いや、まあ、たしかに美しい姫君ではあったからな……」



 父上が目をカッと見開いて驚く。


 ちなみに、建国記念パーティーで出会った彼女に惚れたのは嘘ではない。


 俺の中には二人の人間がいる。


 一人は前世の俺、もう一人はアルフェンとしての俺だ。


 前世の俺はティテュアを推しとして好きだったが、アルフェンとしての俺は一人の女として彼女に惚れてしまった。



「それで実は、個人的な繋がりを使って彼女について調べたのです。表向きは女神の如き彼女ですが、裏では結構酷かったですね。違法薬物の売買や奴隷の売買に関わってたみたいです」


「……ふむ。ならばますます処刑が妥当であろうな」


「それを知った上で言います。俺は彼女に惚れています。なので彼女を妻として娶りたいと思っています」


「正気か?」



 親から子に向けて言う言葉ではないと思うが、その通りだ。


 魔王を復活させ、数々の悪事に関わっている極悪人を妻に娶りたいなど正気ではない。



「調べて分かったことですが、彼女はかなり酷い扱いを受けてきたようです」


「……なんだと?」


「ティテュア姫はアズルクォーツの現王妃と血の繋がりが無い、いわば前妻の子です。現王妃は疎ましかったのでしょうね、それはもう虐待が酷かったみたいです」



 具体的に言うと、窓一つ無い暗闇に監禁とか食事を何日も与えないとかね。


 だが、ティテュアは神域の魔法使い。


 暗闇に光を灯し、水を出すくらいは容易で、辛く苦しい日々を生き延びることができた。


 しかし、たまに食事を持ってくる侍女たちから殴る蹴るの暴行は当たり前、何もしていないのに仕置きと称して鞭を打たれることもしばしば。


 そうして、心優しかった彼女は歪み果てた。


 自分を産んだ母を恨み、自分を愛さない父を憎み、世界を疎んだ。



「その結果が魔王の復活だったのでしょう。表向きは女神の如き仮面を被り、裏ではあくどいことに手を染めた」


「……そう、か」



 ちなみに全て本当の話だ。


 これだけの仕打ちを受ければ、魔王を復活させて世界をめちゃくちゃにしてやろうと思うのも納得かも知れない。


 まあ、神域の魔法使いである彼女が何故自分の手でやらなかったのかは甚だ疑問だが……。



「俺は彼女に情状酌量の余地があると思っています」


「そなたの話が事実なら、儂もそう思う。しかし、そういうわけにも行くまい。魔王が復活したことで多くの者が苦しんだ。多くの者が死んだ。誰かが罰を受けねばならん」


「ええ、その通りです。だから彼女には、罰として俺に結婚してもらうんです」


「む?」



 ここ数年で考えていたことがある。


 どうやったらティテュアを幸せで分からせてやることができるのか。



「ティテュア姫には、醜く肥え太った俺と結婚するという罰を受けてもらいます」


「な、なんじゃと? それは、どういう……?」


「知ってますか? 今の俺は昔と比べて痩せたせいで、替え玉説があるみたいです。一年前の反乱鎮圧の功績も替え玉の手柄だと」


「……まさか……」


「はい。その噂を利用して、本当の俺は未だに醜く肥え太っていることにしようと思います。ついでに本当の俺は何人もの女性を侍らせてはボロボロにして捨てるクズ、という噂を流しましょう」



 そうすれば、彼女への罰になる。


 それが罰になるのかと言われたら疑問だが、極限までエロを追求したゲームにそこまで求めちゃいけない。


 細けぇこたあ良いんだよ、の精神である。



「そもそもアズルクォーツの神子が魔王を復活させたなど最悪の醜聞です。どうせ彼女が魔王を復活させた話はあまり大きくなっていないのでは?」


「ふむ、お見通しか」



 父上が目を閉じ、思案する。



「本当に、ティテュア姫を娶る気か? そなたの功績を嘘偽りだったことにしてまで彼女を救う理由があるとは思えんが」


「恋ってのは盲目なもんなんですよ。彼女は俺が更生させますから」


「……ふむ。そこまで言うのであれば、良かろう。ただし、また魔王を復活させられては困る。隷属の首輪を嵌めさせてもらうぞ」



 隷属の首輪。


 主に犯罪を犯した奴隷などに取り付けるもので、所有者に逆らえなくなる代物だ。


 ゲームでのティテュアも、この首輪を嵌められていた。


 それも普通の隷属の首輪ではティテュアなら外せてしまうため、通常の十数倍の遥かに効力が強い隷属の首輪だ。


 彼女はこの首輪のせいでアルフェンに逆らうことができなかった。


 俺は頷く。



「もちろん。彼女の所有権を俺にくれるなら、構いません」


「あい分かった。そなたの好きにせよ」


「あ、あと可能なら辺境に屋敷をください」


「何故じゃ?」


「俺は自分の功績を偽ったホラ吹きですよ? 帝位継承権を持っていて良いはずが無い。次の皇帝は姉上を指名してください」


「!?」



 俺は皇帝になりたいわけではない。


 推しのティテュアと結婚し、辺境で気ままにスローライフしたい。


 そして、幸せにしてやりたい。



「しょ、正気か!?」


「はい。そうですね、実は少し前から体調が悪く、辺境の屋敷で療養していることにしましょう。俺はその屋敷で働く執事ってことにします」



 実は少しやってみたかったんだ。


 こう、嫁ぎ先が醜く肥え太った男だと思ったら実は世話役のイケメン執事が王子様だった、みたいな展開。


 偏見だけど、女の子ってこういうの好きだと思うの。


 俺から彼女への最初のサプライズだな、うむ。



「む、むぅ、まあ、好きにするがよい。たしか辺境の田舎に王家直轄領があった。そこをお主の領地ということにしておこう」


「ありがとうございまーす!!」



 こうして帝位継承権を姉上に移譲、俺は辺境に構えた屋敷へ引っ越すのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

アルフェンは絶倫なので三日三晩戦える。


「ティテュアが可哀想」「幸せで分からせてやる」「最後本当にどうでも良くて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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