第20話

 庭園に集まっていたのはハスクートだけではなかった。国王に反感を持つ反対派も多数いたようで、彼らは剣や斧、槍なとを持って騎士たちに襲いかかっていた。

 ハスクートと反対派が手を組んだということだ。



 私は後ろの大扉を開けようとしたが、結界が張られていて扉に触れられなかった。



「庭園全体に結界を張りました。中にいる者が外に出られない結界です。外から入る分には自由ですが。そして、魔法を無効化する結界です」



 ハスクートが冷たく言い放つ。

 だが、向こうも結界内にいるため、お互い魔法が使えないという条件は同じだ。



 これほどまで巨大な無効化結界を張るには、相当のリスクを背負う。複数人で発動させ、代償として命をかける必要がある。そして術者も同じく結界内にいる。

 その内の誰が一人でも死ねば、結界は解除される。時間が経てば向こうの命が削られ、勝手に死んでくれて結界は解除されるが、さすがに今それを待つ余裕はない。



「お、おい!! 早く逃げろ!」


「巻き込まれるぞ!!」


 庭園の人々はその場から少しでも離れようと押し合いになっていた。人が倒れ、踏んでもお構いなしだ。

 子供の泣く声、怒号、悲鳴。あれでは、あちらでも死人が出るだろう。だがどのみちこの結界から出ることはできない。



 反対派は騎士だけでなく、先ほど私を擁護する発言をしていた人々にも襲いかかっていた。なんの武器も持たない人々は逃げるしかなく、騎士たちがなんとか助けようとする。



「いつかのように、子供を盾にしても無駄ですよ。我々は、誰を犠牲にしてでもあなたを殺す」


 ハスクートたちの意思はかたかった。

 

 システルは私を庇いながら、一歩も引かずに飛んでくる武器を剣でなぎ払っていた。


「システル! お前の父親もそいつに殺されたんだ! 2体目の時に殺されただろ!」


 青髪のハスクートが叫ぶ。


「ルーティン! 何度言えばわかる! 魔王に殺されたんだ」


 システルはそれを払いのける。


「そうだ、お前の後ろにいるそいつに殺されたんだ! お前も、本当はわかってるんじゃないのか!?」


「このお方は魔王ではない! 魔王を倒すお方だ!」


 私めがけて横から斧が飛んできた。システルは体を私の前に滑り込ませ剣でガードする。

 だがその隙を狙われた。



「うっ……!」



 甲冑が割れる音とともに、システルが声をもらす。胸に黒い矢が刺さっていた。


 甲冑を貫通するほどの威力の武器を持っているのか。となるとかなり不利だ。


 システルはなんとか矢を引き抜いた。胸からは血がでていたが、それでもまだ私の前に立っていた。


 またしても正面から黒い矢が飛んでくる。剣で弾いたが、甲冑を砕いた威力はすさまじく、あたった箇所にヒビが入っていた。あと一撃が限界かもしれない。


 後ろに引くこともできず、前は戦闘中の騎士たちで通り抜けることは困難。



 その時、黒いマントの集団が階段下にいるのが見えた。ドゥールたちだ。


「お守りします!」


 ドゥールたちが階段を上がる。この状況のなか、よくここまで辿りつたものだ。ドゥールがどちらの味方なのかわからず、みな攻撃できなかったのかもしれない。


 彼らはなんの武器ももっていなかった。私に向かって飛んでくる剣や斧を、その身一つでで受け止めていた。


「うっ……!!」


 ドゥールたちが次々と階段に倒れ込む。


 次の黒い矢が放たれ、システルは剣を構えるが、それと同時に両サイドから斧を持った二人が飛び出してきた。

 もうかばってくれるドゥールはいない。システルは飛んできた矢を避けることを諦めた。


「ぐっ!!」


 矢が腹部に刺さったが、そのまま剣を右側から来ていた一人に投げつけ、左側から迫ってきた人が振りおろした斧を腕で受け止める。


「どけ!! そいつは殺さないといけないんだ!!」


 システルは右手で私を自身の後ろに隠し、左腕で斧を押し返そうとしていた。その胸からは、血が流れていた。




 騎士たちも何度も助けに来てくれようとするが、彼らも止むことのない攻撃を受け、その場から動けずにいた。



 すると右側から先ほどシステルにルーティンと呼ばれていた男性が現れた。甲冑を貫いたあの黒い矢を握りしめ、私に向かってきた。


「!! やめてくれ!!」


 システルが彼に向かって叫び、手を私の前に出す。



 彼は矢を私めがけて振り上げた。

 その瞬間、私と彼の間に人影が降ってきた。頭から黒いマントを被っている。

 ルーティンは構わず矢をその人の心臓に突き刺した。

 

「邪魔するな! ドゥール!」


 黒マントの人は倒れそうになりながら、矢を握るルーティンの手を掴み離すまいとしていた。ルーティンはそれを払い除け、その人の顔を殴った。


 マントがめくれ、顔が見えた。



「…………!!!!」



 ルーティンの顔が、一気に青ざめる。













「国王……さま……?」







 緑の髪、緑の瞳。

 その人は間違いなく、この国の国王、私の父だった。



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