第20話 アジト

 なんかわからないがあっさりと洞穴の中に入ることに成功した。


 外から見る限りはただの洞穴だが、いざ中に入るとその豪華絢爛な光景に思わず息を呑む。


 控えめな作りの洞穴の入り口とは違い、天井は三メートル近くあり窮屈さは全くなかった。


 それどころか壁にはどこで盗んできたのだろうか、高そうな絵画や骨董品の壺のような者がずらりと並んでおり、床にはバカ丁寧に赤絨毯まで敷かれている。


 そんな広々とした廊下を槍を持ったり、腰に剣を下げた盗賊たちがせわしそうに行ったり来たりしていた。


 入り口のガードは堅かったアジトだったが、ひとたび中に入ると警戒心はすっかりなくなってしまったようで、美女三人を連れた俺を見ても構成員たちは不審がる様子はない。


 このまま奥まで進んで幹部やトップを一網打尽にしよう。


 なんて考えながら奥へと進んで歩いていた……のだが。


 しばらく奥に進んだところで、俺たちは鋼鉄製の壁に阻まれた。そして、鋼鉄の壁には再び槍を持った守衛らしき男が立っている。


 そんな守衛の姿に足を止めると、ユーナが俺の顔を覗き込む。


「ここも私に任せるし」


 そう言って彼女は守衛の男の元へと歩いて行くと、しばらく守衛の男と会話を交わした後俺たちのもとへと戻ってくる。


「あーしたちを通してくれるって」


 どうやら例の魔法を使用して守衛たちに話をつけてくれたようだ。


 現に守衛の男たちは鋼鉄のドアを開けると、道を空けるように壁際に身を引いて俺たちが通るのを待った。


 まあ通してくれるというのならば通して貰おう。


 労せず洞窟の奥へと進むことを許された俺たちは、守衛のご厚意に感謝してアジトのさらに奥へと進むことにした……のだが。


「ちょっと待て」


 鋼鉄の扉を抜けて奥へと進もうとする俺たちの背後からそんな声が聞こえたので、俺たちは足を止める。


 振り返るとそこには長さ一メートルほどはありそうな魔法の杖を持った若い男が立っているのが見えた。


「お前たち……どこに行くつもりだ?」


 なんだこいつ?


 訝しげに俺たちを眺める男を警戒しながら眺めていると、男は俺の元へと歩み寄ってくる。


「見かけない顔だな? 構成員……ではなさそうだな?」


 俺の目の前までやってきた俺は首を傾げながら俺の顔をマジマジと眺めてくる。


 や、やばい……バレたか?


 内心ヒヤヒヤになりながら「ど、どうでしょうか?」と曖昧な返事をしていると、ユーナが男に声をかける。


「あたしたちは怪しい者じゃないし」


 と、さっき同様に男にじっと視線を向けて、魔力波をぷんぷん出しながら男に話しかけるユーナだったが、男は一度ユーナに視線を向けると、すぐに彼女から視線を逸らす。


「俺を誑かそうとしているな?」

「そんなことないし」

「お前ら怪しいな。通行所を出せ」


 男がそう俺に要求してきた瞬間、ミユが素早く大鎌を手に取って男に斬りかかった。


 こうなった以上やるしかない。


 ミユは素早く男の頭目がけて大鎌を振り下ろす。が、大鎌が頭に直撃する直前に、男はすっと鎌をかわして魔法の杖を構えた。


 そんな彼らの姿を見て、周りにいた者たちも何事かとこちらに視線を向けてくる。


「侵入者だああああっ!!」


 誰かがそう叫んだ。直後、彼らは槍や剣を構えて俺たちの元へと駆け寄ってくる。


「こりゃマズいことになったぞ……」


 バレてしまった以上しょうがない。俺は懐から短刀を取り出して構えた。


 そして気がついたころには俺たちは数十人もの剣や棍棒、さらには魔法の杖を持つ盗賊たちに囲まれていた。


 いや、マズいでしょ……。


 相手の強さはわからないが前の世界には多勢に無勢という言葉があった。


 そういやBランクやCランクの魔術師もいるとかなんとか言ってたよな。


 なんて半ばパニックになりながら短刀を構えていると、魔法の杖を持った男は杖の先を俺たちに向ける。


「なにが目的か知らねえが、ここから先には通すわけにはいかねえなぁ」


 なんて男は得意げにそんなことを言うが男が立っているのは入口側だ。


 これは奥に進んでも良いってことか?


 なんて考えているとユーナが急に俺の背中にしがみ付いてきた。


「な、なんだよ……」

「あーしは戦いは得意じゃないし……。だから私のこと命がけで守って」

「おうおう、俺を捕らえてに来た奴がなに都合の寝ぼけたこと言ってんだよ」

「あ、あーしは命令されて来ただけだし……」


 どうやら彼女は洗脳専門で戦闘力はあまりないらしい。


 ルシタファはこいつに俺を洗脳させて城に連れ戻す魂胆だったのだろう。


 なんて下らない会話をしていると、男は魔法の杖を振り上げるとなにかを唱えた。


 すると、男の来ていたチョッキがひとりでに開き、内ポケットに収められていた無数のナイフがフラフラと宙を舞う。


 そんな光景を俺たちがぼーっと眺めていると、男は勢いよく杖を振り、直後、宙を舞っていたナイフが一斉に俺たち目がけて勢いよく飛んできた。


 その勢いは凄まじく瞬きをしている間に、ナイフが俺たちの体を貫いてしまいそうだ。


 が、ルル先生の振るうナイフと比べれば全然遅い。


 ということで、俺は短刀を振るい飛んできたナイフを全てはじき返した。短刀によって軌道を変えられたナイフは次々と洞窟の壁に突き刺さっていった。


 それでも男は杖を使って突き刺さったナイフを引っこ抜こうとするので「さすがにそれはさせないよ」と魔法波を男の波長に合わせてそれを止めた。


「え?」


 魔法波を相殺された男は目を点にして俺を見つめてくる。


 いや、なんだよ。その目は……。


「なんで?」

「なんでってなんだよ……」


 男はしばらく自分の身に起こったことが理解できなかったようで、壁のナイフを眺めたまま立ち尽くしていたが、ふと我にかえると再び魔法の杖を振りかぶると俺目がけてダッシュしてきた。


 いや物理攻撃かよ。


 その悪あがきのような攻撃にやや動揺するも、動きはあまり速くはない。


 なんなく振り下ろされた杖を掴んで足を払うと男はあっさりとその場に転んだ。


「「「おぉ……」」」


 そんな間抜けな男の姿に周りにいた盗賊たちがそんな声を上げて、俺たちとわずかに距離を取った。


「サカキさんがやられたぞ……」

「う、嘘だろ……あの人Bランクだぞ……」


 う、嘘だろ……今のがBランクなのかよ……。


 バカ三人の時から思っていたけど、こいつらなんで魔法波を操らねえんだ?


 こんなのルル先生から学んだ基本中の基本だぞ……。


 よくこんなのでBランクを名乗れたな……いや、別に名乗ってはないか……。


 リクテン王国のランク判定に疑問を抱きながらも、短刀を振り上げて他の盗賊たちを威嚇すると、彼らはびびったように後ずさりしていく。


「奥に進むにゃ」


 背後でそんな声がした。振り返るとそこには某アメコミヒーローのように両手に金属製の爪を取り付けたジュジュが開いた鋼鉄製の扉の前に立っていた。


 さっきまでドアを守っていた衛兵は顔に痛々しい切り傷をつくって倒れている。


 とりあえずここまで来たら後戻りの選択肢はない。とにかく、大事になる前に盗賊のボスをとっ捕まえて大金を手に入れなければ。


 先を進むジュジュの後を追って奥へと進んでいく俺たち。


 その間数名の魔術師らしき男が俺たちの前にはだかってきたが、俺が魔法波を打ち消して、ジュジュとミユがそのすきに攻撃を加えるという華麗なる連係プレーによってあっさりと倒した。


 そしてさらに進むと洞窟は行き止まりへとたどり着いた。


「は、はあっ!? 誰もいないじゃん……」


 ようやくボスとのご対面かと胸をときめかせていた俺だったが、行き止まりには誰もいなかった。


 が、明らかにここがボスの寝床であることは明らかだ。


 何せ床にはペルシャ絨毯のような高級な絨毯が敷かれているし、なにより壁に飾られた絵画や骨董品の数が桁違いだ。なんか絵に描いたような宝箱まで置かれているし……。


「ん? というかボスを捕まえなくてもこれだけの金銀財宝があれば余裕で高飛びできるんじゃねえか……」


 わずかに蓋の開いた宝箱から顔を覗かせる金銀財宝を見た俺はふとそんなことを思った……のだが。


「お、お兄ちゃん……それはちょっと……」

「あーしずるい男は嫌いだし……」

「さすがにドン引きにゃ……」


 そんな俺の言葉にバカ三人は俺に軽蔑の目を向ける。


 なんだろう……こいつらぶち殺したい……。


 が、まあ確かにこれらは盗品だ。さすがに善良な領民の財産をくすねるのは元とはいえ王子のやることではないよな。


 しかし、ボスがいないとなると面倒だ。


 なにせギルドで聞かされた報酬獲得の条件はアジトの破壊とボスの連行だからな……。


 なんて頭を悩ませていると隣に立っていたミユが床下を指さした。


「なんだか絨毯の裏から人間の匂いがするよ?」

「はあ? 絨毯に染み付いた加齢臭じゃないのか?」

「ううん、匂うのは絨毯のしたから」


 なんていうものだから俺は絨毯をぺりっと捲ってみる。


 すると、驚く事なかれ。土の地面の中にマンホールの蓋のようなものが嵌められているのが見えた。


 怪しすぎるだろ……。


 ということでミユにアイコンタクトをすると、彼女は素早く漆黒でバールのような物を作ると「よっこいしょ」とテコの原理でマンホールの蓋を開けた。


「ぬあっ!?」


 するとおっさんがいた。


 頭に工事用のヘルメットを被ったおっさんは両手に札束と宝石を抱えられるだけ抱えてこっちを見ていた。


 いや、こっち見んなよ……。


「お兄ちゃん、この人誰? あんまり強くなさそうだからボスじゃなさそうだね」

「いや、どう見てもボスだろ」


 なんか総金歯だし。


 ということでボスは完全に四面楚歌の状態になった。


 それでもボスは歯ぎしりをしたまましばらく俺を睨みつけると、不意に周りに目をやって「誰かああああっ!! 誰か助けに来いいいいいっ!!」と騒ぎ出す。


 が、誰も来ない。


「おっさん、完全に手下に裏切られてるみたいだぞ」

「ぐぬぬっ……あいつらめ……舐めやがって……」


 悔しそうに下唇を噛みしめるボス。


「ん? なんか匂うよ?」


 と、そこでミユがなにやらまた鼻をクンクンさせながらアジトの入り口を指さす。


「なんの匂いだ?」

「なんだか焦げ臭いよ」

「まじっすか?」

「マジだよ……」


 嘘だろおい……。


 と、そこで慌ててジュジュが入り口の方へと四足歩行で駆けていった。そしてすぐに戻ってくると青ざめた表情で入り口を指さす。


「ま、まずいにゃっ!! 入り口に火を付けられたにゃっ!!」

「いや、どうするんだよ」

「他に出口はないかにゃっ!?」


 ということで俺たち一行はボスへと視線を向けた。四人から見つめられたボスはしばらく動揺したように四人の顔を見比べてから静かに首を横に振った。


 嘘だろおい……。


 俺たちは洞窟に閉じ込められた。

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